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隠された鍵  作者: 東雲明
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第1話 上京の理由

東京の空は、俺が想像していたより灰色だった。9月の午後、雑踏に紛れる人々の喧騒が、俺の耳に錨のように重く響く。田んぼと牛と草しかない故郷を離れ、俺、佐々木悠真は、ついにこの街に足を踏み入れた。手に握るのは、擦り切れた革のバッグと、胸の奥に秘めた「目的」。そのために、俺はここに来た。


故郷の誰もが言った。「東京なんか、やめとけ」と。だが、俺には選択肢などなかった。あの日の約束、あの日の悔恨。それを果たすためなら、どんな犠牲も払う覚悟はできている。まず必要なのは、道具だ。ホームセンターの看板が見えた瞬間、俺は足を速めた。


店内は、消毒液の匂いと金属の冷たさで満たされていた。シャベル、懐中電灯、ロープ。必要なものをカゴに放り込みながら、俺は自分の目的を再確認する。これでいい。間違っていない。だが、レジに並ぶ瞬間、背筋に冷たい視線を感じた。振り返ると、誰もいない。売り場の蛍光灯が、チラチラと瞬くだけだ。気のせいか。それとも、すでに誰かに見られている?


次に、住む場所だ。不動産屋のカウンターで、眼鏡をかけた中年の男が俺を値踏みするように見た。「予算は?」と聞かれ、「安ければ安いほど」と答えると、男はニヤリと笑った。「なら、いい物件がある。家賃3万8000円。ただし…訳ありだ」

「訳あり?」 俺の声に、わずかな動揺が滲む。男はファイルを広げ、別の物件を指した。


「こっちは15万、普通のマンション。安全、快適。何を選ぶ?」



俺は迷わなかった。


「訳ありでいい」


目的を果たすなら、金は最小限でいい。男は肩をすくめ、


「まぁ、好きにしろ。後悔しても知らんぞ」と笑う。その笑顔に、なぜか胸の奥がざわついた。



その日の夕方、俺は「訳あり」物件の前に立っていた。東京の外れ、古びた3階建てのアパート。外壁はひび割れ、窓枠には錆が浮かんでいる。看板には「桜荘」と書かれていたが、桜の花びら一枚すら想像できないほど荒涼としている。鍵を握り、軋む階段を上る。3階、301号室。ドアを開けると、カビと埃の匂いが鼻をついた。


「よう、新入り!」


突然の声に、俺は身構えた。部屋の奥、薄暗いリビングに、4人の人影。クセの強そうな連中が、俺をじろじろと見ている。


- 北村亮:30代半ば、痩せた男。髪は乱れ、目だけが異様に鋭い。元刑事らしいが、なぜかこの家にいる。「お前、なんでこんなとこ選んだ? 正気か?」と笑うが、その目は俺を探るように光る。

- 高梨彩花:20代後半、派手なネイルと煙草の匂い。占い師を自称し、「お前の運命、ちょっと見えるわ」と不気味に微笑む。彼女の手には、常にタロットカード。

- 山崎悠斗:20歳そこそこ、いつもヘラヘラ笑う詐欺師まがいの若者。「金ないなら、俺と組まね? 一発当てようぜ」と絡んでくるが、言葉の裏に何か隠している。

- 佐藤葵:年齢不詳、部屋に引きこもりがちなハッカー。眼鏡の奥の目は、まるで俺の過去をハッキングするかのようだ。「…静かにしろよ」と一言だけ。


この4人が、俺の同居人。訳あり物件に住む、訳ありの人間たち。俺は自分の目的を隠し、「よろしく」とだけ言って荷物を置いた。だが、北村の目、高梨の微笑み、山崎の軽薄さ、佐藤の沈黙。どれもが、俺の心に小さな棘を刺す。


その夜、俺は部屋の窓から外を見た。東京の夜景は、故郷の星空とはまるで違う。冷たく、人工的だ。ふと、路地裏に人影が動いた。少年だ。14歳か15歳くらいか。フードを被り、俺の窓を見上げている。その目は、まるで俺の目的を知っているかのようだった。瞬間、背筋が凍った。少年は一瞬で闇に消えたが、俺の胸に不穏な予感が残った。


翌朝、リビングで北村がコーヒーを飲みながら言った。


「昨夜、誰か外にいたか?」


俺は一瞬言葉に詰まった。


「…いや、誰も」 


北村は目を細め、


「そうか。気をつけろよ。この家、訳ありってのは、部屋の古さだけじゃねえからな」


その言葉に、俺の心臓が強く脈打った。この家、何か隠してる。俺の目的を邪魔する何かがある。



昼間、俺は再びホームセンターへ向かった。昨日の道具に加え、細かな工具を買い足す。目的を果たすには、準備が全てだ。だが、店を出る時、またあの視線を感じた。振り返ると、少年が遠くに立っている。俺をじっと見つめ、ニヤリと笑う。追いかけようとした瞬間、少年は人混みに消えた。


帰宅後、高梨がタロットカードを広げながら言った。「お前、なんか隠してるだろ? カードがそう言ってる」 俺は無視したが、彼女の目は俺を逃さない。山崎は「まぁ、みんな何か隠してるよな!」と笑うが、その声にどこか冷たさがある。佐藤は部屋から出てこない。北村だけが、俺に近づき、囁いた。


「この家、夜中に変な音がする。気をつけろよ」


俺の目的は、まだ誰にも明かせない。だが、この家、この同居人たち、そしてあの少年。全てが、俺の計画を脅かす予感に満ちている。東京での第一歩は、すでに不穏な影に覆われていた。


という訳で始まりました!東雲初の本格推理ミステリー小説!わざわざ田舎から東京へ上京してきた主人公。訳あり物件、謎めいた4人の同居人、そして主人公の周りをうろつく少年。…いやー、なんか考えるとドキドキしますね。今後の展開をお楽しみに!レッツショータイム!笑

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