5、宴の前の静けさ
「こちらのお部屋です。」
男の人がそう言い、襖を開ければ中は静まり返っていた。それもそうだろう。遠い親戚とはいえ、見たことも話したこともない人が大半なのだから。
「それでは、時間までごゆっくりお過ごしください。」
「ありがとうございます。」
男の人は少し微笑み、スッと襖を閉じた。
姉は一言も喋らずにすぐ前の席に着いた。私も隣に座る。そして、また静寂に包まれた。
私はこの静けさに耐えきれず、姉の肩を叩いた。姉はすぐ私の方を向き、口元に人差し指を立てる。私は意味を理解して仕方なく前を向いた。
目の前には顔の怖い男の人が座っている。私と姉を探るような目で見ていた。他の人はスマホを触ったり、本を読んだり、眠ったりと様々である。
ザッ、ザッと足を引きずる音が聞こえて襖が開けば、ポケットに手を入れたチャラそうな男の人が入ってきた。
「おいおい、なんだよ辛気臭いな。お通夜かよ。誰も死んでねぇのに何でこんな暗いんだよ。」
ドカドカ歩きながら姉の隣に座り、また口を開いた。
「お前ら死ぬのが怖いのか?死はいずれ訪れる。早いか遅いかの差だ。心配するだけ無駄だろ。」
すると、私の目の前の男の人が目をつぶりながら喋り出した。
「お前知らないのか。18時まで参加者同士の私語は厳禁なんだよ。」
「どうせ破っても何もないんだろ。じゃあ、大丈夫じゃん。」
「いや、枷はつくよ。そう言う決まりだから。」
「お前も喋ってるけどな。」
チャラい男の人はそう言いながら鼻で笑った。
「目をつぶっているからいいんだよ。独り言だ。その独り言にお前が反応してるだけ。お前は俺との会話が成立していると思っているから、これはお前にとって私語ということになる。」
今度は目の前の男の人が鼻で笑った。不穏な空気が流れる。
「てめぇ、…。」
そう言って立ち上がりそうになったとき、また襖が開いた。
「皆さんお集まりですね。嬉しい限りです。」
ちょうど18時。主催者、不知火春陽の登場である。




