【序章】ノストラダムスの大予言は的中したのかもしれない
一九九九年七月。
その日の空は快晴で、雲一つ無かった。
「イーグル1より各機。未確認物体を確認……あれは……まるで天空の城だ」
日本列島上空に、“それ”は突如として出現した。王冠のような形をしていて、底が円形、周囲に塔が立っている。その底の部分には、光る球体がついていた。どんどん赤紫色の粒子のような光が、底に集まっていく。直後。轟音が響き、まるでレーザーのような光の線が、日本列島に降り注いだ。敵攻撃かと覚悟したパイロット、管制室。日本列島は地震のように、一瞬だけ揺れた。
この日放たれた光は、後にアンゴルモアと呼ばれるようになった。
――地上。
八つの光りが降り注いだ先には、赤紫色の菱形の鉱石のようなものがあった。それは、地下深くへ潜り、そして二○二五現在、【ダンジョン】と呼ばれる迷宮群を、日本の地下に構築した。
ある日突然地面が揺れたかと思ったら、ダンジョンが地下に出来ていた。
これが、人類とダンジョンの出会いとなった。
同時期に、世界各国でも同じ現象が見られた。これらは、ノストラダムスの予言が的中したのだとも囁かれている。
さて。
八つの内七つの鉱石は地面を貫通したのだが、内一つだけ、建設途中の民家の床を突き抜けた。何も知らない工事業者は焦った。隕石かもしれないが、納期がある。無視を決め込み、突貫工事でそのまま家を建てた。鉱石が貫通した場所は、地下室を作る予定だったので、その通りにした。
このようにして、日本列島の地下には、日本迷宮が出現したのである。
天空の城は、その後視認出来なくなった。
四半世紀以上経過した今も、結局目的は分からないままだ。
当初、ダンジョンに人々は戦いた。中に異形の怪物が存在することが分かったからである。
それを研究者であるミシェル・ニュートン博士は、『モンスター』と名付けた。
そしてその頃には細分化が始まっていた各ダンジョンには、モンスターの他に、真ん中ほどの階層にいる少し凶悪なモンスター、そして最深部にいるダンジョンで最も強いモンスターがいることを突き止めた。現在ではそれらは、モンスター・中ボス・ラスボスと呼ばれている。
それらのモンスターを倒すと、粒子となって消えた後、そこに宝箱が出現することを発見した。中には様々な武器や防具、貴重な素材などが入っている。また、金銀銅の棒や宝石が入っている場合もある。そのほかにも、ダンジョン内では採掘が可能であり、電気の代替物となるような特殊なエネルギーを持った鉱石が採れたり、モンスターとダンジョン内の植物はものによっては飲食可能であったり、と、とにかく様々なことを次々と研究していった。
彼は現在、複合企業のスカディリッシュ社で研究を続けている。それこそ最初は、地球人類を滅ぼすためにダンジョンが出来たのかと考えられていたのだが、ダンジョンは恵実の宝庫だったのである。
そこで、政府公認で『探索』という仕事が出来た。ダンジョンを踏破するための品も、スカディリッシュ社と政府が共同で数々生み出した。
ダンジョン大攻略時代の幕開けである。だが勿論、強いモンスターを相手にすると、死傷する。なので、ごく一部のスカディリッシュ社が定期的に発表するランキングの上位者――ランカーは尊敬され、他の人々は、一階層目に入る程度の活動をしていた。
だが――そんなダンジョンに一切興味を示さないそうもいた。戦うのが嫌な人、会社員として誇りを持っている人、そして……少しずつ流行の兆しを見せ始めた、【配信者達】である。配信者達は、独自の文化を築いた。
その【ダンジョン探索者】と【配信者】の交わりは、ひょんなことから訪れた。
配信者が増えすぎて、PV数が伸びなかった配信者が、【ダンジョン配信】を始めたのである。これが人気を博した。こぞって配信者達がダンジョンを訪れるようになり、第二次ダンジョン大攻略時代が幕を開けた。
この頃には、八つ目の鉱石が何処に落ちたのかなど、探そうとする者さえいなかった。