プロローグ
———ガラガラ。
始業のチャイムとともに先生が入ってくる。
かなり歳のいった———コホン。
長年教師を続けるベテラン先生だ。
「号令」
先生の指示で全員が立ち上がり、礼をする。
朝一の授業の始まりだ。
俺の名前は加賀美 慎吾。
今年受験を控える高校生だ。
まあ成績も悪くないし、部活の実績とかもあって進学には困ってないんだけどね。
「やっぱこの漫画面白いな」
そんな俺は最近、息抜きの漫画にハマっている。
スマホで見れる、一話が短いやつ。
ジャンルは異世界ファンタジー。
こういう系の漫画は男子の心に刺さる。
主人公は最初から最強でも成り上がりでも面白い。
誰でも一度はやったことがあるだろう。
教科書の間や机、ノート、筆箱の影などに隠してスマホをいじくりまくる。
「お、更新されてんじゃん」
国語の時間。
この先生は基本的に教壇の上で一方的に喋ってるだけ。
俺たちは先生の話に対応する教科書のページを開いて、凝視する。
お互い相手の方を見ることも少ないし、教室を回らない。
つまりバレる可能性もほとんどないお楽しみタイムだ。
俺は安心しきって机の下へと視線を向けていた。
しかしこの日、俺は大失敗をしてしまう。
「え、マジ!? この人たち敵だったの!?」
最終章間近に迫ったお気に入りの漫画。
その漫画の更新された最新話にて、今まで味方だった人たちが全て元凶、つまり敵であったというどんでん返し。
この急展開に、俺は思わず立ち上がって大声を上げてしまった。
「・・・。 あ」
「慎吾!!!」
気づいた時にはもう遅い。
先生がこんなヤバい行動を見逃すはずもなく、俺の名前を叫びながら近づいて来た。
その顔はりんごのように赤く染まっている。
まさに鬼の形相だ。
「お前、成績がいいからって調子にのってるだろ!!」
周りが引くほどの声量。
普段なら茶化してくるヤンチャな生徒ですら、こっちを見れないぐらいのガチ説教だ。
俺も流石に怖いと思った。
途中、泣きそうにもなった。
ていうか泣いた。
「大体周りのやつらはなんで止めないんだ!! 見えてるだろうが!! お前らも連帯責任だ連帯責任!!」
どんどんヒートアップしていく先生。
気づけばそのお説教は、関係ない周りの生徒たちにまで及んでいた。
結局、先生のお説教は授業終わりの鐘が鳴るまで続いた。
「いいか! 反省するまで教室から出るなよ! 全員だからな!!」
先生はそう言うと、「バタン!」と大きな音を立ててドアを閉め、教室を後にした。
「っぷはは! お前めっちゃキレられてんじゃん笑」
教室の窓から先生の影が消えると、隣に座っていた生徒が大笑いしながら俺に肩を組んできた。
こいつは天城 蓮。
俺の幼馴染で、幼稚園からずっと一緒の親友だ。
「いやぁ、笑い堪えるの大変だったわ」
「こっちはそれどころじゃなかったけどな」
「泣きそうになってたもんな笑」
「うるせぇ〜」
ちょっと嫌な顔をしつつ、蓮とくっちゃべる。
さて、どうしたもんか。
「で、謝りに行く?」
「そうだなー」
今回は普通に俺が悪い。
それにクラスに迷惑かけるわけにもいかないしな。
ひとまず謝りにだけ行ってくるか。
「ごめん。 俺謝ってくるからみんなは授業の準備してて」
俺はみんなに向かって小さく頭を下げる。
「俺も行くー。 お前の怒られるとこ、じゃなくて勇姿を見ないとな!」
お辞儀する俺に今度はのしかかる勢いで腕を乗せてきた。
「言い直してもあんま意味変わってない気がするぞ」
俺はため息を吐きつつ、机の上を片付ける。
さっさと終わらせよ。
先に歩き出した蓮の後ろにつき、教室を進んで行った。
しかし、
「ん? 何やってんの蓮? 早くドア開けろよ」
なぜか、教室のドアの前で蓮の動きが止まった。
数秒しても動く気配はない。
具合でも悪くなったのだろうか。
なんて思いながら、今度は俺が蓮の肩に腕を乗せる。
しかし、
「早く行くぞー」
蓮は動かなかった。
それどころか言葉も発さない。
段々と不気味に思えてきた。
「おい、大丈夫か?」
俺はゆっくりと蓮の顔を覗き込む。
そこにあったのは、俺の知る蓮の顔ではなかった。
血が抜けたように真っ青になった顔色。
大きく開いた目。
荒れた息。
額には冷や汗が滲み、何かに恐怖しているように見えた。
蓮がそっとこちらを振り向く。
そして、少しの間を置いてこう答えた。
「———ドアが、開かない」
そんなバカなことはない。
俺はすぐにそう思った。
しかし蓮のこの怯え様、嘘をついている風には見えない。
まさかと思いつつ、俺はそっとドアに手を伸ばした。
「っ! 嘘だろ!?」
本当に開かない。
どれだけ力を込めても、助走をつけてもびくともしない。
どうなってるんだ。
さっき先生が開けてたはず。
鍵を見てみても、閉まっているようには見えない。
俺と蓮は顔を見合わせる。
次の瞬間、床に光の陣が浮かび上がった。
『勇者召喚!!』
声とともに、世界が光に飲み込まれる。
咄嗟に目を覆う俺たち。
そして再び視界を開けたとき、そこはもう教室にではなかった。
ーーー ーーー ーーー
「………ここは?」
深い森の奥。
どこかも分からない、日の光もまばらな場所。
周りには誰もいなかった。
俺はそんな森の中を歩き出す。
木陰から覗く鋭い視線にも気づかずに。




