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第9話、だるかった、この結果には不満足、4

作者からのお断り。

構想は定まっていますが、執筆速度が激遅ゆえ、完結まで相当時間が掛かります。

興味のある方は作品をフォローして、気長にお待ちください。<(_ _)>


「単式魔法陣、風」


 風切り音を立てながら、一直線に飛んでいった三日月状の鋭利な魔法弾は、的の真ん中の赤い部分に命中した。


「あれ……」


 やはり調子が悪いらしく、中心よりやや下である。首を傾げつつ、再発動が可能になるクールダウンが終わるのを待つ。そして、二回目の魔法を放った。


「単式魔法陣、風」


 くやしい、今度は中心から微妙に上にずれた。


「マジか……」

「おぉーっ」

「あの人すごい」


 周囲から感嘆の声が聞こえるものの、当の本人は二回とも失敗したと思っている。冷静になるため、左手で頬を軽く叩き、大きく深呼吸した後、三度目の魔法を放った。


 的の中心を捉えた瞬間、思わず声が出る。


「やった!」


 しかし、それをかき消すかの如く、観衆から歓声と拍手が巻き起こった。


 貴族枠の試験開始時刻である午前十時を過ぎ、来校していた受験生やその保護者と見られる人々も、その騒ぎに引き寄せられたのか、グラウンドの脇に集まってきた。校舎の二階の窓からも、こちらを見下ろす大勢の人影がある。


 華やかな織り柄の衣装を身に着けた者たちが目立つ中、メイドや執事、料理人と思われる姿も散見される。


 何か違う意味で私が的になってしまった。あと二回残っているものの、これ以上目立ちたくない。放たれる視線から逃げるように、スタートラインから離れ、こう告げた。


「残りの回数は棄権します」


 そして、右脇に抱えていたバインダーを手に持ち、試験官Cの元へ向かう。


「え、終わり?」

「続きは?」


 周囲がざわめき始める。すると、貴族らしき観衆の一人が試験官Cに駆け寄り、身振り手振りを交えながら何かを伝え出した。


「観客のみんなが次に注目しているのだから、やらせるように指示しなさい」


 どうやらそんなことを言っているようである。


「戻って、四回目を始めなさい」


 話し終えた試験官Cは、試験を続けるように促す。しかし、私は首を横に振って拒否した。


 そもそも幼い頃に髪の色のことでからかわれたり、嫌な目にあってきた私は、注目されるこの状況に慣れていない。銀髪を見られて何か言われる前に、この場を離れたい気持ちが強かった。


「ちっ、平民風情が」


 吐き捨てるように言った試験官Cは、スタンプを手にイスから立ち上がり、私からバインダーを奪い取る。そして、記入用紙にバンと勢いよく押印し、地面に投げ捨てた。


 その瞬間、怒声が学園中に響き渡る。


「この馬鹿たれが!」


 声のした方へ目を向けたところ、その主は案内してくれた黒いスーツを着た女性、ジュジュであった。


 ドアの陰にいた時よりも表情が険しく、眉間のしわはさらに深く刻まれ、目がつり上がっていた。見る者を威圧するその形相は、まさに鬼と呼ぶにふさわしい。


 拳を握って、顎を引き、肩を揺らしながらこちらに向かってくる。すると、周囲にいた人たちは蜘蛛の子を散らすように避けていく。


「うわあああっ!」


 試験官Cが叫び声を上げながら一目散に逃げ出したところ、ジュジュは手をかざし、緑色の精霊を三体顕現させた。三角形の各頂点に精霊が並んだ後、うっすら光り輝きながら、互いに線で結ばれていく。その光景を目にして、私は思わず呟いた。


「噓……、冗談だよね?」


 魔法陣が完成し、その前方に球体が形成されたその時、ジュジュは怒気混じりの口調で唱える。


「三式魔法陣、風」


 閃光が走り、巨大な竜巻状の魔法弾が放たれ、右へ左へ地面を這いながら、グラウンドの砂を巻き上げつつ、試験官Cへ向かっていく。


 私は慌てて被っていた帽子を右手で押さえ、伸ばした左手でスカートの裾をギュッと握りしめた。


「きゃぁ」


 しかし、その行動も虚しく、発生した強烈な風は、スカートの後ろをぱたぱためくりあげながら、全身を砂まみれにした。スパッツを履いていたとはいえ、やはり中を見られるのは恥ずかしい。


 そして、魔法は試験官Cに直撃する。すると、手を離された風船のように宙に舞った後、魔術の実技で使用していた的の真ん中に叩きつけられた。


 見事な一撃である。言わずもがな、歓声を上げる者は当然いない。


 周囲がざわつき騒然となる中、砂埃が目に入って半分涙目の私に、ジュジュが近づいてきた。


「監督官として部下の非礼を謝罪する」


 そう言って深く頭を下げた。しかし、この場合、後先を考えず魔法を放ち、私を砂まみれにした方が非礼であり、謝罪すべき事案である。


 とはいえ、人に向けて魔法を放つような恐ろしい人物に、そんなことを口にできなかった。


 その後、そこでジュジュは声を張り上げ、言い放つ。


「聞け! 皆の者よ、受験者に庶民も貴族もない!」


 そして、ふらつきながら、立ち上がる試験官Cの元へゆっくり近づいていった。


「貴様! 試験官という立場の者が身分で応対を区別するとは何事だ! 恥を知れ!」


 胸倉を掴み、顔を引き寄せて叫んだ後、試験官Cを勢いよく突き飛ばし、後襟を掴んでずるずると引きずっていく。


 その姿を横目に、耳までキーンとなり、完全に意気消沈した私は、風に飛ばされたバインダーを探し出し、拾っていた。


「ふっ、ふっ、ふははははっ」


 シーンと静まり返ったグラウンドに、突如大きな笑い声が響き渡る。


 目を向けると、王立図書館の二階からジュジュに呼び掛けていた男性が、その光景を指差して大爆笑していた。


 面白いのかもしれないが、少し空気を読んでほしい。

ご拝読ありがとうございます。

視力が悪く文字を拡大して執筆しているため、改行が多く読みにくいかもしれません。

誤字脱字には気をつけておりますが、お気づきの点がありましたら連絡いただけると幸いです。


主人公の前日譚もあります。

https://ncode.syosetu.com/n3734jx/


カクヨムでも同一名義で連載しております。

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