第89話、不安だね、保護しに向かうこの面子。12
その後、クミの能力を頼りに厄介なものを避けつつ、足を進めていく。
しかし、猫ちゃんの居場所は依然として不明。時折、呼び寄せるべく声を上げる。その都度、教訓を生かし、即座にその場を離れ、危険を回避した。
数回繰り返した頃、咆哮が聞こえてくる。
「アーッ」
「なんか奇妙な声がしたのう」
私はユウシの言葉に喜々として答えた。
「あれ、猫ちゃんの声です」
「おお、ようやくお出ましか」
知らない人がいるため、猫ちゃんを驚かせぬよう一計を案じる。
「臆病なので、みなさんは一旦、後ろに下がって隠れていてください」
程なく、猫ちゃんはスタッと私の目の前に着地。そして、頬ずりしてきた。
「もう、探したのよ」
「ほう、これが例の」
呼んでいないにもかかわらず、早々にユウシが歩み寄ってくる。相変わらず聞き分けが悪い。猫ちゃんを落ち着かせるべく、慌てて語りかけた。
「大丈夫よ、この人は……」
「かなり大きいのう」
ユウシは直前で立ち止まり、腕を組んで見上げた後、近寄って足をポンポン叩く。
「うむ、立派な毛並みじゃ」
初対面だというのに、お返しとばかりに、猫ちゃんはユウシの身体をベロンと舐め始める。私が出会った時と大違い。驚くと同時に、少しばかり嫉妬してしまう。
「確かにおっしゃる通り、犬のような猫のような、なんとも言えない形相ですね」
続いて、シエンが姿を現した。
「アーッ」
猫ちゃんは短く鳴いたかと思うと、軽くぴょんと跳ね、さっと木の陰へ逃走。そして、こちらの様子を伺うように小首をかしげる。とはいえ、例の如く丸見え――
「あっちゃー、えっと、性格に難はあるけど、悪い人ではないのよ」
「一言多くないですか? アカリ様」
「そうですかシエン様。って、えっ?」
話している最中、猫ちゃんが頭を押さえ、小刻みに震え出す。見たことがない異様な行動を目にし、思わず問いかけた。
「ちょっと、どうしたの?」
歩み寄ろうとした瞬間、後ろから声が聞こえる。
「あらあら、困りましたね」
振り返ったところ、クミが傍まで来ていた。
「立派な体躯を持っているのですから、シャキッとしなさいな」
そう告げて、パンッと手を叩く。
すると、巨大なカエルと同じように、猫ちゃんは垂直に飛び上がった。折れた枝が次々落下し、木の葉がゆらゆら舞い落ちる。そして、遅れて猫ちゃんも降ってきた。
ドーンと派手な音が辺りに響く。
猫ちゃんは舌を出した状態で、四肢をだらーんと伸ばしてぐったり。ピクリともしない。急いで駆け寄る。
「ち、ちょっと、大丈夫?」
「まあ、敷物みたいですね」
「クミさん、ひどいこと言わないでください」
しばらくして、耳がピクッと反応した。
「気がついたのね。よかった……」
しかし、その後も震えて動こうとせず。これでは目的を果たせそうにない。
「埒があきませんね。アカリ様」
シエンの言葉を聞き、元凶である人物を遠ざける。
「クミさん、目につかない場所まで離れてくれますか?」
「はい、わかりました」
クミが遠ざかると、猫ちゃんの震えが徐々に収まってきた。そして、止まったところで語りかける。
「今日はね、助けに来たのよ。だから、小さな猫ちゃんのいる場所まで案内してくれるかな?」
「アーッ」
返事をするように鳴くものの、人間の言葉が通じるわけもなく――苦肉の策として例のジェスチャーをしてみた。とはいえ、相手は動物。今回はうまく通じない。
「どうしましょうか?」
「やってきた方角に向かえばよろしいのでは?」
シエンの提案にユウシが同意する。
「そうじゃのう」
二人の考えに従い、そちらへと足を進めていくこととした。
日も落ち、暗くなり始めた頃、洞窟らしき穴が見えてくる。ふと、猫ちゃんが穴の前で立ちふさがり、通せんぼした。ここに間違いない。
小さな猫ちゃんを驚かせぬよう、二人には外にいてもらうこととする。
「シエン様とクミさんは、ここで辺りを警戒してていただけますか?」
「承知いたしました」
返事を聞いた後、中へ足を踏み入れる。
精霊を顕現させ、灯り代わりにして進むと、程なく小さな猫ちゃんの姿が飛び込んできた。近づいてみたものの、置物の如く横たわり、反応しない。
「動けそうにないみたいですね」
「ふむ」
連れ出そうにも、運ぶ手立てがない。
発煙筒を使って知らせるにしても、外はすでに闇に近い。煙が立ち上がったとて、王都にいるジュジュは確認できないだろう。
悩んでいたところ、ピクッと反応した猫ちゃんが入口の方を向く。そして、牙を剥き、威嚇し始めた。
「あら、子供ですか?」
声とともに、入口で警戒をお願いしたはずのクミが現れる。またしても身勝手な行動――
「子を思う気持ちは、等しく尊いものですね」
一言告げて、小さな猫ちゃんの前でしゃがみ込んだ。
「うーん、これは衰弱しているだけのようですね……ちょっとこちらへ」
この場を離れ、ひとまず外に出る。
「あの小さいのが動ければよいのですね?」
「そうですが……」
「邪魔されるとあれなので……少しの間、二人きりにさせてもらってもよろしくて?」
「変なことしないでくださいよ」
「ふふっ、大丈夫ですよ」
再びクミが中へ入っていく。すると、猫ちゃんが興奮し始めた。
「いい子だから、少しだけおとなしくしててね」
押し止めるべく、なだめながら身体を張って阻止する。
しかし、念を押して留まっているものの、私とて気が気でならない。その思いを露ほども感じていないのか、ユウシが動き出した。
「なにをするのかのう、どれどれ」
覗きに行こうとしている。猫ちゃんだけでも大変というのに、もう一人増えた。
「ダメですって」
制止する最中、一瞬、眩い光が中を照らす。
「えっ、今のは……」
あれは紛れもなく白い精霊の魔法。
呆然としている中、クミが帰ってきた。すり寄りつつ歩く小さな猫ちゃんを見て少々戸惑う。不思議なことに懐いている。
「お待たせしました。用も済みましたし、帰りましょう」
「クミさん、さっきの光は……」
「あれですか? ちょっとしたおまじないですよ」
ご拝読ありがとうございます。これにて六章終了となり、次話から七章なんですが、膝をいわした後、ちょっとしたトラブルに遭い、そちらの対応に全身全霊を傾けているため、二話しか進んでおりません。
公開しても中途半端なところで止まってしまうので、切りよくここで休講いたします。
楽しみにしていただいている方には申し訳ありませんが、ご了承ください。
カクヨムでも同一名義で連載中。




