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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
六章、猫ちゃん保護編

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第89話、不安だね、保護しに向かうこの面子。12

 その後、クミの能力を頼りに厄介なものを避けつつ、足を進めていく。


 しかし、猫ちゃんの居場所は依然として不明。時折、呼び寄せるべく声を上げる。その都度、教訓を生かし、即座にその場を離れ、危険を回避した。


 数回繰り返した頃、咆哮が聞こえてくる。


「アーッ」

「なんか奇妙な声がしたのう」


 私はユウシの言葉に喜々として答えた。


「あれ、猫ちゃんの声です」

「おお、ようやくお出ましか」


 知らない人がいるため、猫ちゃんを驚かせぬよう一計を案じる。


「臆病なので、みなさんは一旦、後ろに下がって隠れていてください」


 程なく、猫ちゃんはスタッと私の目の前に着地。そして、頬ずりしてきた。


「もう、探したのよ」

「ほう、これが例の」


 呼んでいないにもかかわらず、早々にユウシが歩み寄ってくる。相変わらず聞き分けが悪い。猫ちゃんを落ち着かせるべく、慌てて語りかけた。


「大丈夫よ、この人は……」

「かなり大きいのう」


 ユウシは直前で立ち止まり、腕を組んで見上げた後、近寄って足をポンポン叩く。


「うむ、立派な毛並みじゃ」


 初対面だというのに、お返しとばかりに、猫ちゃんはユウシの身体をベロンと舐め始める。私が出会った時と大違い。驚くと同時に、少しばかり嫉妬してしまう。


「確かにおっしゃる通り、犬のような猫のような、なんとも言えない形相ですね」


 続いて、シエンが姿を現した。


「アーッ」


 猫ちゃんは短く鳴いたかと思うと、軽くぴょんと跳ね、さっと木の陰へ逃走。そして、こちらの様子を伺うように小首をかしげる。とはいえ、例の如く丸見え――


「あっちゃー、えっと、性格に難はあるけど、悪い人ではないのよ」

「一言多くないですか? アカリ様」

「そうですかシエン様。って、えっ?」


 話している最中、猫ちゃんが頭を押さえ、小刻みに震え出す。見たことがない異様な行動を目にし、思わず問いかけた。


「ちょっと、どうしたの?」


 歩み寄ろうとした瞬間、後ろから声が聞こえる。


「あらあら、困りましたね」


 振り返ったところ、クミが傍まで来ていた。


「立派な体躯を持っているのですから、シャキッとしなさいな」


 そう告げて、パンッと手を叩く。


 すると、巨大なカエルと同じように、猫ちゃんは垂直に飛び上がった。折れた枝が次々落下し、木の葉がゆらゆら舞い落ちる。そして、遅れて猫ちゃんも降ってきた。


 ドーンと派手な音が辺りに響く。


 猫ちゃんは舌を出した状態で、四肢をだらーんと伸ばしてぐったり。ピクリともしない。急いで駆け寄る。


「ち、ちょっと、大丈夫?」

「まあ、敷物みたいですね」

「クミさん、ひどいこと言わないでください」


 しばらくして、耳がピクッと反応した。


「気がついたのね。よかった……」


 しかし、その後も震えて動こうとせず。これでは目的を果たせそうにない。


「埒があきませんね。アカリ様」


 シエンの言葉を聞き、元凶である人物を遠ざける。


「クミさん、目につかない場所まで離れてくれますか?」

「はい、わかりました」


 クミが遠ざかると、猫ちゃんの震えが徐々に収まってきた。そして、止まったところで語りかける。


「今日はね、助けに来たのよ。だから、小さな猫ちゃんのいる場所まで案内してくれるかな?」

「アーッ」


 返事をするように鳴くものの、人間の言葉が通じるわけもなく――苦肉の策として例のジェスチャーをしてみた。とはいえ、相手は動物。今回はうまく通じない。


「どうしましょうか?」

「やってきた方角に向かえばよろしいのでは?」


 シエンの提案にユウシが同意する。


「そうじゃのう」


 二人の考えに従い、そちらへと足を進めていくこととした。


 日も落ち、暗くなり始めた頃、洞窟らしき穴が見えてくる。ふと、猫ちゃんが穴の前で立ちふさがり、通せんぼした。ここに間違いない。


 小さな猫ちゃんを驚かせぬよう、二人には外にいてもらうこととする。


「シエン様とクミさんは、ここで辺りを警戒してていただけますか?」

「承知いたしました」


 返事を聞いた後、中へ足を踏み入れる。


 精霊を顕現させ、灯り代わりにして進むと、程なく小さな猫ちゃんの姿が飛び込んできた。近づいてみたものの、置物の如く横たわり、反応しない。


「動けそうにないみたいですね」

「ふむ」


 連れ出そうにも、運ぶ手立てがない。


 発煙筒を使って知らせるにしても、外はすでに闇に近い。煙が立ち上がったとて、王都にいるジュジュは確認できないだろう。


 悩んでいたところ、ピクッと反応した猫ちゃんが入口の方を向く。そして、牙を剥き、威嚇し始めた。


「あら、子供ですか?」


 声とともに、入口で警戒をお願いしたはずのクミが現れる。またしても身勝手な行動――


「子を思う気持ちは、等しく尊いものですね」


 一言告げて、小さな猫ちゃんの前でしゃがみ込んだ。


「うーん、これは衰弱しているだけのようですね……ちょっとこちらへ」


 この場を離れ、ひとまず外に出る。


「あの小さいのが動ければよいのですね?」

「そうですが……」

「邪魔されるとあれなので……少しの間、二人きりにさせてもらってもよろしくて?」

「変なことしないでくださいよ」

「ふふっ、大丈夫ですよ」


 再びクミが中へ入っていく。すると、猫ちゃんが興奮し始めた。


「いい子だから、少しだけおとなしくしててね」


 押し止めるべく、なだめながら身体を張って阻止する。


 しかし、念を押して留まっているものの、私とて気が気でならない。その思いを露ほども感じていないのか、ユウシが動き出した。


「なにをするのかのう、どれどれ」


 覗きに行こうとしている。猫ちゃんだけでも大変というのに、もう一人増えた。


「ダメですって」


 制止する最中、一瞬、眩い光が中を照らす。


「えっ、今のは……」


 あれは紛れもなく白い精霊の魔法。


 呆然としている中、クミが帰ってきた。すり寄りつつ歩く小さな猫ちゃんを見て少々戸惑う。不思議なことに懐いている。


「お待たせしました。用も済みましたし、帰りましょう」

「クミさん、さっきの光は……」

「あれですか? ちょっとしたおまじないですよ」

ご拝読ありがとうございます。これにて六章終了となり、次話から七章なんですが、膝をいわした後、ちょっとしたトラブルに遭い、そちらの対応に全身全霊を傾けているため、二話しか進んでおりません。

公開しても中途半端なところで止まってしまうので、切りよくここで休講いたします。

楽しみにしていただいている方には申し訳ありませんが、ご了承ください。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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