第87話、不安だね、保護しに向かうこの面子。10
――あり得ない一言。ユウシは集中しすぎて、あの大立ち回りを見落としたらしい。頭を抱えていると、シエンが語りかけてきた。
「二人もいるとなると、なにやら方法がありそうですね。帰った後、研究してみたいものです」
「そういえば、もう一人。カナ先生も凄い力を……」
「カナさんですか? あれは、魔石を使っているのですよ」
「へ? 魔石?」
「はい、鍛冶師ということで元から体力はあったのですが、冒険者として上を目指すのに必要だからと」
不意に後ろより声が聞こえる。
「あら、目が赤くて力持ちって、うちの爺さんみたいですね。フクシュンさんって」
驚いて振り返ると、音もなく、知らぬ間にクミが戻ってきていた。しかし、手ぶら――
「いつからいたんですかって、あれ? カエルは?」
「なにやら以前食べたものと違う気がしたので、置いてきちゃいました」
「そうなのですね」
安堵しつつ相槌を打ったところ、最低な案を提示される。
「味わってみたいなら、取りに戻りましょうか? お腹を壊すかもしれませんが」
「い、いえ、ご遠慮いたします」
「そうですか」
会話が途切れたと見計らい、釘を刺すべく、思いを切り出す。
「あのですね、クミさん」
「なんでしょう」
「今日は猫ちゃんたちを保護しにここへ来ているわけでして」
「はい、知っておりますよ」
「勝手な行動を取られると、目的の達成が困難になりえます」
「でも、この辺りには、他に危険なものはいないようですし。もう少し先でしたら、紐みたいなものが……あとは先ほどのより小さいですが、三匹あちらの方に」
「えっ? そんなの分かるんですか?」
慌ててシエンに視線をやる。首を振りながら、できませんと言わんばかりに軽く両手を上げた。これでは真偽のほどが分からない。頭を掻きつつ、クミに向き直る。すると、微笑みながら、語りかけられた。
「まあ、年の功ですよ。ふふっ」
とはいえ、そのような能力があるのであれば、最初に言ってくれればもっと楽に進めたはず。もやもやしつつ、再び問いかける。
「それなら、猫ちゃんの居所も分かるのではないですか?」
「んー、どうでしょう? 先ほどのあれらはやや異質ですし」
言っている意味が、甚だ理解できない。しかし、この能力を利用しない手はなかった。
「クミさん!」
「はい、なんでしょう?」
「先を歩いて、危険な場所を避けて進んでもらえないでしょうか?」
尋ねたところ、ユウシが静かに口を開く。
「紐みたいなものが、すっごく気になるんじゃが」
「それでしたら、見に行かれますか?」
「えええええっ、ちょっとぉ……」
二人の言葉に困り果て、シエンに助けを求める。
「進む方角が同じであれば、確認するくらい問題ないでしょう」
止めることなく、あっさり肯定された。口を膨らませて言い放つ。
「もう、知りませんからね」
とは言ったものの、私もどのようなものなのか興味があった。依頼をこなしている時、知らずに遭遇するよりも、一度見ておけば対処法を考えられると踏んだからである。
案内されて足を進めていく。その最中、ズッズッとなにやら音が聞こえてきた。妙な胸騒ぎがしてならない。
「この先ですね」
クミの言葉を聞き、立ち止まる。そして、じっと目を凝らしてみた。
「えっ……」
正体を知って絶句する。そこにいたのは紐などという小さな物体ではなく、くねくね左右に身体を動かして進む、大きな白い蛇。
以前見かけた際は、死骸であったため、あれとは直に戦っていない。そのせいか、すっかり存在が記憶から抜け落ちていた。
君子危うきに近寄らずとばかりに、みんなに離れるよう促す。
「確認しましたし、あれは放っておいて、先へ進みましょう」
「弱そうじゃのう。あの程度なら一撃じゃ」
言葉を聞き、顔を向けると、ユウシは抜刀していた。
「いやいや、なにしてるんですか?」
「まあ、ちょっと見ておれ」
そう言い残し、大きな白い蛇に歩み寄っていく。ユウシの身に、なにかあれば大問題。戦いを止めさせるべく、声を上げる。
「クミさん、先になんとかしてください」
「困りましたね、弱い者に手を出してしまうと、後で怒られてしまいます」
「はあ?」
散々カエルを叩きつけておいて、なんたる言い草。説得力のかけらもない。業を煮やした私は、近くにいたシエンの服を掴み、働きかける。
「シエン様!」
「ちょっと、近すぎますね……もろとも炭にしかねません。機を見ましょう」
こちらもダメであった。焦る私をよそに、ユウシは挑発し始める。
「おーい、こっちじゃ」
「って、なんでわざわざ居場所を知らせるんですか!」
こちらを向いた大きな白い蛇は、すぐに威嚇するように音を発した。
「シャアアアアアッ」
そして、口を大きく開き、鎌首をもたげている。中でチロチロ動く舌が、妙に薄気味悪い。その後、勢いよく襲いかかってきた。
ユウシはさっと後ろに飛ぶ。その刹那、片手で剣を水平に振るい、バキッと二本の牙を叩き折る。さらに着地と同時に剣を両手に持ち替えて前へ踏み込み、そのまま顔を切りつけた。
まさに古川に水絶えず、七英雄の一人というだけあって、剣さばきは目を見張るものがある。とはいえ、大きな白い蛇も黙ってはいない。
傷を負い、一瞬は引いたものの、頭を左右に振り、けん制し始めた。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は三月四日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




