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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
六章、猫ちゃん保護編

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第87話、不安だね、保護しに向かうこの面子。10

 ――あり得ない一言。ユウシは集中しすぎて、あの大立ち回りを見落としたらしい。頭を抱えていると、シエンが語りかけてきた。


「二人もいるとなると、なにやら方法がありそうですね。帰った後、研究してみたいものです」

「そういえば、もう一人。カナ先生も凄い力を……」

「カナさんですか? あれは、魔石を使っているのですよ」

「へ? 魔石?」

「はい、鍛冶師ということで元から体力はあったのですが、冒険者として上を目指すのに必要だからと」


 不意に後ろより声が聞こえる。


「あら、目が赤くて力持ちって、うちの爺さんみたいですね。フクシュンさんって」


驚いて振り返ると、音もなく、知らぬ間にクミが戻ってきていた。しかし、手ぶら――


「いつからいたんですかって、あれ? カエルは?」

「なにやら以前食べたものと違う気がしたので、置いてきちゃいました」

「そうなのですね」


 安堵しつつ相槌を打ったところ、最低な案を提示される。


「味わってみたいなら、取りに戻りましょうか? お腹を壊すかもしれませんが」

「い、いえ、ご遠慮いたします」

「そうですか」


 会話が途切れたと見計らい、釘を刺すべく、思いを切り出す。


「あのですね、クミさん」

「なんでしょう」

「今日は猫ちゃんたちを保護しにここへ来ているわけでして」

「はい、知っておりますよ」

「勝手な行動を取られると、目的の達成が困難になりえます」

「でも、この辺りには、他に危険なものはいないようですし。もう少し先でしたら、紐みたいなものが……あとは先ほどのより小さいですが、三匹あちらの方に」

「えっ? そんなの分かるんですか?」


 慌ててシエンに視線をやる。首を振りながら、できませんと言わんばかりに軽く両手を上げた。これでは真偽のほどが分からない。頭を掻きつつ、クミに向き直る。すると、微笑みながら、語りかけられた。


「まあ、年の功ですよ。ふふっ」


 とはいえ、そのような能力があるのであれば、最初に言ってくれればもっと楽に進めたはず。もやもやしつつ、再び問いかける。


「それなら、猫ちゃんの居所も分かるのではないですか?」

「んー、どうでしょう? 先ほどのあれらはやや異質ですし」


 言っている意味が、甚だ理解できない。しかし、この能力を利用しない手はなかった。


「クミさん!」

「はい、なんでしょう?」

「先を歩いて、危険な場所を避けて進んでもらえないでしょうか?」


 尋ねたところ、ユウシが静かに口を開く。


「紐みたいなものが、すっごく気になるんじゃが」

「それでしたら、見に行かれますか?」

「えええええっ、ちょっとぉ……」


 二人の言葉に困り果て、シエンに助けを求める。


「進む方角が同じであれば、確認するくらい問題ないでしょう」


 止めることなく、あっさり肯定された。口を膨らませて言い放つ。


「もう、知りませんからね」


 とは言ったものの、私もどのようなものなのか興味があった。依頼をこなしている時、知らずに遭遇するよりも、一度見ておけば対処法を考えられると踏んだからである。


 案内されて足を進めていく。その最中、ズッズッとなにやら音が聞こえてきた。妙な胸騒ぎがしてならない。


「この先ですね」


 クミの言葉を聞き、立ち止まる。そして、じっと目を凝らしてみた。


「えっ……」


 正体を知って絶句する。そこにいたのは紐などという小さな物体ではなく、くねくね左右に身体を動かして進む、大きな白い蛇。


 以前見かけた際は、死骸であったため、あれとは直に戦っていない。そのせいか、すっかり存在が記憶から抜け落ちていた。


 君子危うきに近寄らずとばかりに、みんなに離れるよう促す。


「確認しましたし、あれは放っておいて、先へ進みましょう」

「弱そうじゃのう。あの程度なら一撃じゃ」


 言葉を聞き、顔を向けると、ユウシは抜刀していた。


「いやいや、なにしてるんですか?」

「まあ、ちょっと見ておれ」


 そう言い残し、大きな白い蛇に歩み寄っていく。ユウシの身に、なにかあれば大問題。戦いを止めさせるべく、声を上げる。


「クミさん、先になんとかしてください」

「困りましたね、弱い者に手を出してしまうと、後で怒られてしまいます」

「はあ?」


 散々カエルを叩きつけておいて、なんたる言い草。説得力のかけらもない。業を煮やした私は、近くにいたシエンの服を掴み、働きかける。


「シエン様!」

「ちょっと、近すぎますね……もろとも炭にしかねません。機を見ましょう」


 こちらもダメであった。焦る私をよそに、ユウシは挑発し始める。


「おーい、こっちじゃ」

「って、なんでわざわざ居場所を知らせるんですか!」


 こちらを向いた大きな白い蛇は、すぐに威嚇するように音を発した。


「シャアアアアアッ」


 そして、口を大きく開き、鎌首をもたげている。中でチロチロ動く舌が、妙に薄気味悪い。その後、勢いよく襲いかかってきた。


 ユウシはさっと後ろに飛ぶ。その刹那、片手で剣を水平に振るい、バキッと二本の牙を叩き折る。さらに着地と同時に剣を両手に持ち替えて前へ踏み込み、そのまま顔を切りつけた。


 まさに古川に水絶えず、七英雄の一人というだけあって、剣さばきは目を見張るものがある。とはいえ、大きな白い蛇も黙ってはいない。


 傷を負い、一瞬は引いたものの、頭を左右に振り、けん制し始めた。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は三月四日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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