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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
六章、猫ちゃん保護編

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85/88

第85話、不安だね、保護しに向かうこの面子。8

 すぐに、人差し指で両耳を塞ぐ。続いて、腕でバツ印を作った後、投げる動作をして見せた。私の見立てが正しければ、これでうまくいくはずである。


 予想通り、クミは植物型の魔物を、木の枝にぽいっと投げ捨てた。


 嬉しさのあまり小さく拳を握る。受付嬢とのやりとりに使用しているジェスチャーが、こんなところでも役に立った。


 程なく歩み寄ってきたクミに、素早く問いかける。


「身体、大丈夫なんですか?」

「はい、特に」


 返事を聞いた途端、膝の力が抜け、涙がこぼれ落ちそうになった。


「よかっ……」


 優しく声をかけようと思ったものの、ふと思いとどまる。次に同じことをされ、無事に済むという保証はない。軽率な行動を戒めるべく、心を鬼にして怒鳴りつけた。


「全くもう! なにしてるんですか!」

「んー、確かあの植物は引き抜くと、息絶えるはずなんですよね」


 的外れな返答を聞き、間抜けな声が出る。


「へっ?」


 先ほどの行動は、その理由を私たちに尋ねようとしていたらしい。


「おっかしいですねぇ」


 それはあなたの取った行動だと突っ込みたくなった。そのようなつまらない理由で巻き込まれるなど、まっぴら御免である。けれども、この流れでは暖簾に腕押しとなりかねない。話題を変えるべく、疑問に思ったことを尋ねる。


「あれを間近で聞いて、よく平気ですね?」

「年のせいかしら?」


 そういう割には、ここでの会話は普通。しかも、そこまで歳を食っているようには見えない。せいぜいユウシと同じくらいであろう。


 しかし、以前聞いていた元凄腕の冒険者という情報は、間違いではない模様。間近で植物型の魔物の悲鳴を聞いても、ネズミに似た生物に体当たりされてもものともせず、ケロッとしている。


 つかみどころがないという難点はあるものの、ユウコの人選は誠に正しかったというほかない。


 ともあれ、結果として誰も怪我をすることなく無事に切り抜けられた。目的を果たすべく、終わりよければ全てよしと割り切り、気持ちを切り替える。


「猫ちゃんも現れないようですし、先に進みましょうか」

「そうですね」

「クミさんは後ろから警戒していただけますか?」

「わかりました」


 やりとりを終え、二人に声をかけようと振り返った。すると、腕を組み、頬に手を当てたまま、動かないシエンが目に留まる。視線の先にあるのは、事切れているネズミに似た生物。


 さっとシエンの顔の前で手を振り、意識を呼び戻す。


「シエン様、行きますよ」

「失礼しました」


 そして歩き始めて間もなく、後ろからシエンとユウシの話す声が聞こえてきた。


「しかし陛下、先ほどの植物といい、あの生き物といい、良からぬことが起きているのでは?」

「そうじゃのう。後々面倒にならぬよう、一度調査せねばならぬな」


 二人の会話を聞き、ふと考える。


 とうの昔に、ネズミから始まり、カエルやヘビに加えて長い胴体の動物と、最近は依頼でここに来る毎に散々な目にあっていた。私に言わせると、いまさらである。


「すでに面倒なんだけどな……」

「アカリ様、なにかおっしゃられましたか?」

「いーえ、別に」


 その後、しばらくは順調に足を進めていたものの、徐々に足取りが重くなってきた。やはり、疲労が蓄積された身体では、長距離の移動がきつい。


 息を荒らして歩いていたところ、ユウシに告げられる。


「なんじゃ? もうばてたのか?」

「いえ、先日、魔法を使いすぎた反動から、まだ……」

「そうか……よし、儂が肩車してやろう」

「はい?」


 背負うではなく、肩に担ぐという提案もさることながら、私はもうそのような歳ではない。気持ちはありがたいものの、丁重に断りを入れる。


「いえ、同行していただいた上に、そのようなことまで」

「ん? もしかして抱っこの方がよいか?」


 突拍子もない一言に、盛大に噴き出す。すぐさま仮面を脱ぎ、飛んだ唾を拭きながら返答した。


「いえいえ、自分で歩きますので」


 すると、ユウシが残念そうに呟く。


「つれないのう。小さい頃は、嫌というほどせがまれたのに……」

「ほう、それは興味深い話ですね。ふむふむ」


 関心を示したシエンに、間髪入れず告げる。


「今のは忘れてください」


 和やかな雰囲気に包まれている中、クミがすっと近づいてきた。


「なにか、匂いますね」


 発した言葉で、緊張感が一気に高まる。とはいえ、急いで匂いをくんくん嗅いでみても、爽やかな緑の香りしかしない。


「いえ、私にはなにも……」

「そうですか、うちの爺さんみたいに嫌な感じが……」


 はたまた、これは難解。どう答えてよいのか全く分からない。


「えっと……」

「爺さんと言っても家族ではなく、腐れ縁みたいな関係なんですけどね」

「そうなんですね」

「あら、おいしそうなものがありますね!」

「へっ?」


 ころころ話題が変わり、困惑する。そして、そう言われたとて、私の視界には、それらしき物は映っていない。


「後でみんなで食べられるよう、取ってきますね」


 クミはそう言い残すと、歩調を速め、一人で先へ進んで行った。


「あっ、ちょっと!」


 また勝手な行動を起こされた。


 しかし、あの強さであれば、大抵の魔物の攻撃は防げるであろう。最早、心配するだけ野暮なのかもしれない――

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は二月二二日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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