第85話、不安だね、保護しに向かうこの面子。8
すぐに、人差し指で両耳を塞ぐ。続いて、腕でバツ印を作った後、投げる動作をして見せた。私の見立てが正しければ、これでうまくいくはずである。
予想通り、クミは植物型の魔物を、木の枝にぽいっと投げ捨てた。
嬉しさのあまり小さく拳を握る。受付嬢とのやりとりに使用しているジェスチャーが、こんなところでも役に立った。
程なく歩み寄ってきたクミに、素早く問いかける。
「身体、大丈夫なんですか?」
「はい、特に」
返事を聞いた途端、膝の力が抜け、涙がこぼれ落ちそうになった。
「よかっ……」
優しく声をかけようと思ったものの、ふと思いとどまる。次に同じことをされ、無事に済むという保証はない。軽率な行動を戒めるべく、心を鬼にして怒鳴りつけた。
「全くもう! なにしてるんですか!」
「んー、確かあの植物は引き抜くと、息絶えるはずなんですよね」
的外れな返答を聞き、間抜けな声が出る。
「へっ?」
先ほどの行動は、その理由を私たちに尋ねようとしていたらしい。
「おっかしいですねぇ」
それはあなたの取った行動だと突っ込みたくなった。そのようなつまらない理由で巻き込まれるなど、まっぴら御免である。けれども、この流れでは暖簾に腕押しとなりかねない。話題を変えるべく、疑問に思ったことを尋ねる。
「あれを間近で聞いて、よく平気ですね?」
「年のせいかしら?」
そういう割には、ここでの会話は普通。しかも、そこまで歳を食っているようには見えない。せいぜいユウシと同じくらいであろう。
しかし、以前聞いていた元凄腕の冒険者という情報は、間違いではない模様。間近で植物型の魔物の悲鳴を聞いても、ネズミに似た生物に体当たりされてもものともせず、ケロッとしている。
つかみどころがないという難点はあるものの、ユウコの人選は誠に正しかったというほかない。
ともあれ、結果として誰も怪我をすることなく無事に切り抜けられた。目的を果たすべく、終わりよければ全てよしと割り切り、気持ちを切り替える。
「猫ちゃんも現れないようですし、先に進みましょうか」
「そうですね」
「クミさんは後ろから警戒していただけますか?」
「わかりました」
やりとりを終え、二人に声をかけようと振り返った。すると、腕を組み、頬に手を当てたまま、動かないシエンが目に留まる。視線の先にあるのは、事切れているネズミに似た生物。
さっとシエンの顔の前で手を振り、意識を呼び戻す。
「シエン様、行きますよ」
「失礼しました」
そして歩き始めて間もなく、後ろからシエンとユウシの話す声が聞こえてきた。
「しかし陛下、先ほどの植物といい、あの生き物といい、良からぬことが起きているのでは?」
「そうじゃのう。後々面倒にならぬよう、一度調査せねばならぬな」
二人の会話を聞き、ふと考える。
とうの昔に、ネズミから始まり、カエルやヘビに加えて長い胴体の動物と、最近は依頼でここに来る毎に散々な目にあっていた。私に言わせると、いまさらである。
「すでに面倒なんだけどな……」
「アカリ様、なにかおっしゃられましたか?」
「いーえ、別に」
その後、しばらくは順調に足を進めていたものの、徐々に足取りが重くなってきた。やはり、疲労が蓄積された身体では、長距離の移動がきつい。
息を荒らして歩いていたところ、ユウシに告げられる。
「なんじゃ? もうばてたのか?」
「いえ、先日、魔法を使いすぎた反動から、まだ……」
「そうか……よし、儂が肩車してやろう」
「はい?」
背負うではなく、肩に担ぐという提案もさることながら、私はもうそのような歳ではない。気持ちはありがたいものの、丁重に断りを入れる。
「いえ、同行していただいた上に、そのようなことまで」
「ん? もしかして抱っこの方がよいか?」
突拍子もない一言に、盛大に噴き出す。すぐさま仮面を脱ぎ、飛んだ唾を拭きながら返答した。
「いえいえ、自分で歩きますので」
すると、ユウシが残念そうに呟く。
「つれないのう。小さい頃は、嫌というほどせがまれたのに……」
「ほう、それは興味深い話ですね。ふむふむ」
関心を示したシエンに、間髪入れず告げる。
「今のは忘れてください」
和やかな雰囲気に包まれている中、クミがすっと近づいてきた。
「なにか、匂いますね」
発した言葉で、緊張感が一気に高まる。とはいえ、急いで匂いをくんくん嗅いでみても、爽やかな緑の香りしかしない。
「いえ、私にはなにも……」
「そうですか、うちの爺さんみたいに嫌な感じが……」
はたまた、これは難解。どう答えてよいのか全く分からない。
「えっと……」
「爺さんと言っても家族ではなく、腐れ縁みたいな関係なんですけどね」
「そうなんですね」
「あら、おいしそうなものがありますね!」
「へっ?」
ころころ話題が変わり、困惑する。そして、そう言われたとて、私の視界には、それらしき物は映っていない。
「後でみんなで食べられるよう、取ってきますね」
クミはそう言い残すと、歩調を速め、一人で先へ進んで行った。
「あっ、ちょっと!」
また勝手な行動を起こされた。
しかし、あの強さであれば、大抵の魔物の攻撃は防げるであろう。最早、心配するだけ野暮なのかもしれない――
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は二月二二日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




