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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
六章、猫ちゃん保護編

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第84話、不安だね、保護しに向かうこの面子。7

 この場所は危険であるため、ひとまず移動し、動向に目を配る。


 ふと、あの位置からでは、木の陰に隠れて見えなかった植物型の魔物の本体が視野に入った。クミはそこに向かっているようである。


「あのー、シエン様、つかぬことをお伺いいたしますが……」

「なんでしょうか? アカリ様」

「クミさんはなにをする気でしょうか?」

「見ての通り、本体を叩くようですが?」


 先ほどの質問から、クミは植物型の魔物が死の間際に意識を刈り取るような強烈な悲鳴を発するという特性を知らない可能性が高かった。不安げに尋ねる。


「例えば、どのように……」

「引き抜くようですよ、ほら」


 目を戻すと、クミはすでにしゃがみ込み、花の下を掴んでいた。


「よいしょっと」


 その言葉とともに勢いよく引っこ抜く。すると、直後に強烈な悲鳴がこだました。非常にまずい。まともにあれを食らってしまった。


 すぐに助けに行こうと思ったものの、予想だにしない事態が起こっている。


 普段であれば一瞬で収まる爆音が、今回に限ってなぜか止まない。植物型の魔物は絶え間なく悲鳴を上げ続けている。そして、クミは尻もちをついたまま微動だにせず――あのまま気を失った模様。


 ここから魔法で植物型の魔物を絶命させようにも、今日の体調は思わしくない。万全の状態ならともかく、入学試験の時のように狙いがずれる可能性がある。それゆえ、クミを傷つけてしまう恐れが高い。


 とはいえ、このままでは蔓にやられるのも時間の問題。


 焦燥感に駆られている中、信じられない光景を目にする。クミがゆっくり立ち上がった。そして、釣り上げた魚の如く、先端をピチピチと左右に動かして暴れている植物型の魔物を掲げて眺め始めた。


「クミさん、大丈夫なんですか?」


 思わず声を上げたものの、当然ながらこの大音量、私の声など届くはずもない。呼びかけに首を傾げている。あの様子から無事だと判断して、ひとまず胸を撫で下ろす。


 しかし、ほっとしたのも束の間。クミがこちらへ一歩踏み出してきた。間違いなくあれを持ったままこちらに来ようとしている。その行動を見て即座に訴えかけた。


「それ、捨ててください!」


 反応するように、クミの唇が動く。植物型の魔物を指差し、なにか話している。


 聞き取ることができず黙っていたところ、再びクミが歩を進めてきた。巻き添えを避けるべく、慌てて二人の腕を引っぱりながら叫ぶ。


「きゃー、こないで!」


 ユウシがふと呟く。


「ん? なんか来たのう」

「これはまずいですね」

「えっ?」


 二人の言葉を聞き、さっと振り返る。


 植物型の魔物の悲鳴を聞きつけ、ネズミに似た生物がクミに駆け寄ってきた。このままではぶつかってしまう。とっさに声を上げ、指で示す。


「クミさん、危ない!」

「そういう時は合図するのではなく魔法を放つのですよ、アカリ様」


 その言葉を聞き、シエンに顔を向ける。すでに掌をかざし、精霊を顕現させていた。


「単式魔法陣、雷」


 詠唱とともに、ジグザグに動く黄色い魔法弾が放たれ、ネズミに似た生物へ高速で飛んでいく。さらにシエンは、間髪入れず二発目を唱える。


「単式魔法陣、雷」


 直撃を受けたネズミに似た生物は、全身に青い光を纏うと、程なく黒煙を立ち上げた。そして、頭から地面に崩れるように倒れ込んでいく。


「あっ……まだいた」


 うまく排除したと思ったのも束の間、陰からさらに飛び出してくる。気づいたクミが顔を向けたものの、間に合いそうにない。最悪の事態が脳裏をよぎった。


 予想する未来を直視できず、無意識に手で顔を覆う。その直後、ユウシが驚きの声を発する。


「なんと!」


 気になり、指の隙間から、ちらっと覗く。クミは立ったまま。無事であった。


 パッと手をどけて辺りを確認したところ、逆にネズミに似た生物が倒れている。なにが起こればこのようになるのか、理解に苦しむ。状況を把握すべく、すぐさま問いかけた。


「えっ? これ、どうなってるんですか?」

「し、信じられん、あ奴、弾き飛ばしおった……」

「弾き飛ばした?」

「んーありえませんね。一般的には、ぶつかった場合、より軽い方が飛ばされます。あの状況では普通なら……」


 知識がある分、無駄に話が長い。結論を求め、話を折らせる。


「つまり?」

「クミさんの方が、かなり重いということになります」

「へっ?」


 以前、猫ちゃんに餌付けをする際に魔法で持ち上げた時、ふわふわとしか浮かなかったゆえ、ネズミに似た生物は決して軽くはない。


 おまけにクミの身長は私と同じくらいである。体型はややふっくらしているものの、そこまで体重は違わないであろう。


 大きさを再確認するべく、ネズミに似た生物に視線を送る。やはり、見比べてみてもあの時の大きさと差はない。というわけで、冷静に突っ込む。


「いやいや、シエン様、どう見ても……」


 言っている間に、倒れていたネズミに似た生物がふらふらと起き上がり、猛烈な勢いで逃走していく。どうやら危機は去っ――ていなかった。クミがこちら向いている。


「やだっ、また来るの?」


 踏み出す足を見て、思わず両手を突き出す。すると、動きを止めた。


「ん? そっか、あれなら」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は二月十七日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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