第83話、不安だね、保護しに向かうこの面子。6
そして、歩き始めてから少し時間が経った頃、ユウシが問いかけてきた。
「一向に姿が見えぬな」
「きっと、小さい猫ちゃんの傍にいるんだと思います」
「ところでアカリ様」
「なんでしょうか、シエン様」
「そちらに向かっているようですが、方角は合っているのですか?」
「はい、間違っていないと思いますが……」
「不正確ですね。大丈夫ですか?」
疑問を投げかけるシエンに、素早くユウシが提案する。
「ふむ、いっそのこと呼び寄せて、後についていくのはどうじゃ?」
あえて危険を招く行動は避けたい。やんわり即座に否定した。
「いえ、大声を出してしまうと魔物が……」
「儂は構わんぞ?」
この言葉に、間髪入れずシエンが異議を唱える。
「いえ、陛下。それは危険です。避けるべきでしょう」
意見がまとまらない。困り果てた私は、助けを求めてクミに視線を送った。
「まあ、どうしましょう」
他人事のように告げられる。全く参考にならない。あてにした私が馬鹿であった。
とはいえ、安全第一。今回はシエンの意見に賛成である。正直なところ、私も叫びたくなかった。
「ついでではあるが、魔物を少しでも減らせば人々が暮らしやすくなるからのう」
さらりと発したユウシの一言に、驚くほどシエンがあっさり折れる。
「……そういうことを考慮しての発言でしたら、反対はいたしません」
そう言った後、視線を送ってきた。早く呼びかけろとばかりの無言の圧力――こうなればやけである。大声が出るよう、限界まで息を吸い込む。そして、辺り一面に響くよう、目一杯叫んだ。
「猫ちゃーん、どこー」
次の瞬間、予想通りの展開となる。カサカサと落ち葉を擦れる音とともに、植物型の魔物の蔓がこちらに向かって伸びてきた。
「なんじゃ、あれは? 蛇か?」
「違いますね。なにかの植物のようです」
反動で盛大にむせる私を横目に、提案者の二人は危機感なく悠長に話している。思わず突っ込む。
「いやいや、なに言ってるんですか? あれはこの辺りにたくさん生息していますよ?」
「儂が現役の頃は、あんなのいなかったのう」
「私も存じ上げませんね」
話しているだけで一向に戦う素振りを見せない。諦めて、この状況に対処すべく、行動を起こす。
いつものように目で蔓を辿り、即座に本体の居場所を見極めると、魔法を放つため、精霊を顕現させる。
ここで空気を読まず、クミが問いかけてきた。
「アカリさん、ちょっといいですか?」
「もう、なんですか」
苛立ちで口調が荒くなる。しかし、次の一言で気が抜けてしまった。
「確か……あれは傷つけると樹液で汚れるんでしたわね?」
「えっ、はい」
「では……」
そう言うと、クミは両手を後ろで組んだまま、つかつかと足を進めていく。どうやらこの問題を処理する気があるらしい。無駄に魔力を使わずに済んだ。
とはいえ、ほっとしたのも束の間、クミは得物を所持していないことを思い出す。そして、魔法を使う様子もない。慌てて声を上げる。
「ちょ、ちょっと、クミさん。なにしようとしてるんですか?」
呼びかけに反応しない。追いかけて止めようとした刹那、クミは掛け声とともに軽く飛び上がった。
「よいしょっと」
着地すると、こちらへ振り向き、にこやかに話しかけてくる。
「うまくいきました。ふふ」
その言葉を聞き、クミに歩み寄った後、地面に目を落とす。
「うそ……」
蔓の先っぽが地面に突き刺さり、動けずに蠢いていた。
あのように踏みつけるなど、一歩間違えれば、体液を吸われて死ぬ危険すらある。にもかかわらず、行動に躊躇がない。大胆すぎる。
自信があるのか、単に無謀なのか、いずれか分からないものの、これを続けられると見ているこっちの寿命が縮む。
「クミさん、その方法は……」
指摘する最中、能天気な声が背後から聞こえてきた。
「おお、器用じゃのう」
「鋭利な凶器で人を襲う植物とは、これまた奇妙ですね」
左右に立ち、腕を組んで蔓を眺めている。着いてきたらしい。
「ちょっと、感心してないで一緒にクミさんを止めてください」
「うむ?」
「なぜですか?」
あの行動の危険度を理解していない。身を震わせながら話を続けた。
「刺されたら怪我では済まないんですよ?」
「そうかのう?」
「大丈夫そうですよ。ほら」
私の心配をよそに、クミはさらに蔓を踏みつけている。
「ほらじゃありません!」
二人の馬鹿さ加減に額のピクピク感が止まらない。限界に達し、怒りのあまり大声で叫ぶ。
「あああああ、もう! 帰ったらユウコ様に言いつけますからね!」
「それは困るのう……」
「ちょっと勘弁していただきたいものです……」
効果てきめんではあったものの、すぐにやらかしたと気づく。蔓がこちらへ押し寄せてきた。申し訳ない気持ちで、一人頑張っているクミに視線を送る。
すると、クミは目をぱちぱちさせた後、首を傾げつつ頬に人差し指を当てた。
「あらあら、これではきりがありませんね」
そう言って私たちのいる反対側へ足を進めていく。なにを考えているのか皆目見当もつかない。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は二月十二日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




