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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
六章、猫ちゃん保護編

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第81話、不安だね、保護しに向かうこの面子。4

 程なく外壁に着く。すると、付近には普段とは比べ物にならないほど、多くの騎士団員の姿があった。それを見て、馬車の窓から外を眺めていた私は思わず感嘆の声を上げてしまう。


「うわー、今日は凄い人数ですね」

「このあと、演習を行う予定ですので」

「へー」


 ジュジュの返答に相槌を打つ。そして、他にもなにかないかときょろきょろ見渡していたところ、続けて話しかけられた。


「先にこれをお渡ししておきます」


 差し出されたのは、筒状になった棒のような物。とはいえ、なにに使うのかよく分からない。角度を変えながらじっくり確認する。


「ん?」


 底に小さな魔石がついていた。どうやら、魔力を込めて使うものらしい。ひとまず尋ねる。


「ジュジュさん、これは?」

「緊急事態が起きた場合に使用する発煙筒です」


 話している途中、なにやら焦げ臭い匂いが鼻を突き始めた。


「まあ、こうやって使うのね!」


 その一言を聞き、ふと顔を向ける。すると、私の正面に座っていたクミが持つ発煙筒から、モクモクと煙が立ち上がっていた。


「そうなのですが……」


 冷静に告げるジュジュをよそに、客車内に充満していく煙。瞬く間に視界を遮られていく。あたふたしつつ、私は叫ぶ。


「は、早く窓を開けてください」

「アカリ様、窓を開けたくらいでは、どうにもならないでしょう。天井をぶち抜きますよ?」

「ダメです! なに考えているんですか、シエン様」

「ふふふ、困りましたね」


 楽しげなクミをよそに、ジュジュが冷静に告げる。


「馬車を止めていただけますか?」


 今まで苦難を乗り越えた経験からなのか、この人たちは全く動じていない。しかし、御者は違った。ジュジュの言葉でこの状態に気づき、慌てふためいている。


「うわわわわっ、すぐに停車します」


 やはり、これが正常な反応であろう。まともな人がいて安心した。とはいえ、止まるまで、このまま我慢しているのもつらい。


 手探りでドアを開けた後、外に目をやり、馬車の速度を確認する。やや速いものの、今はブーツを装備しているため問題はなさそう――


「私、一足先に降ります」


 そう言い残し、余裕綽々の三人を横目に、馬車から飛び出した。


 地面寸前で魔石に軽く魔力を込め、華麗に着地すると、大きく深呼吸をして、肺の空気を入れ替えた。へなへな地面にくずおれて、ぼやく。


「全く、なんて目に……」


 猫ちゃんたちを保護しに向かう前に、軽く被害を受けてしまった。


「おーい、待ちくたびれたぞ」


 ふと、どこからともなくユウシの声が聞こえてくる。顔を上げたところ、私と同じように仮面をつけた人物が近寄ってきた。


「大層な礼をせずともよい、正体がばれるではないか」


なにやら、思いっきり勘違いされている。


「えっと、その……」


 弁明しようとした瞬間、言葉を被せられた。


「ん? その声はアーちゃんか? 美人なのに顔を隠すなど勿体ないぞ?」


 小恥ずかしいことを、さり気なく告げられて顔が熱くなる。


「いえ、これには訳が……あと、その呼び方はちょっと……」

「ふむ……では今後、アカリちゃんと呼ぼう」


 いずれにせよ、ちゃん付けであり、たいして違わない。元の方がマシな気がしてきた。


 身分が違いすぎるため、いっそのこと呼び捨ての方が望ましいと思うものの、ユウシに言ったとて、変わりそうもない気がする。ゆえに、諦めて話を進めた。


「でも、ここで会うなんて、凄い偶然ですね」

「あまりの暇さに、うろうろ見て回っていたのじゃ」


 やはり予想通り、待ちきれなかったようである。そしてふと、ユウシの装備が以前見せられたものと違い、真新しいことに気づいた。


「あれ?」

「ん? どうした?」

「あの時の剣や盾はどうしたのですか?」

「あれは、今となっては功績を示す宝物扱いでな」


 話している最中、後ろからジュジュの声が聞こえる。


「ここにおられましたか」

「おお、ジュジュ。久しいな、息災であったか?」

「はい、陛下もお変わりなく、なによりです」

「お初にお目にかかります。教育特区領主代行のシエンと申します」

「おお、そなたが例の特級冒険者か!」

「あれ、シエン様、領主代行なのに顔見知りではないのですか?」

「はい、会合などはシドウ様が出席されておりますので。私は実務担当でございます」

「ふむ、シエンとやら、今日はよろしく頼むぞ」

「承知いたしております」


 最後に、クミが声をかけた。


「お久しぶりでございます」

「えっと、お主は誰じゃったかのう?」

「まあ、お忘れですか? あんなに暑い夜を共にした中ですのに……」


 突然の告白を聞き、私は放心状態となる。気づかぬうちに、仮面の上から両手で口のあたりを押さえていた。


 そして、顔は先ほどよりもさらに熱くなる。仮面の中は、もはや蒸し風呂の状態。馬車に戻って外し、涼しみたくなった。


「はて……覚えがない。儂は亡き妻一筋だしのう」

「悲しいですわ」

「陛下、私に魔術の指南をなされていたクミさんです」

「クミ? そういえばユウコの屋敷で一度手合わせしたかのう。ことごとく防ぎおり、ちっとも当たらなんだ記憶がある」

「その節は暑かったですね」


 ――紛らわしすぎる。やはり、勘違いするほど、クミの言葉選びがおかしい。


「全員揃っておるようじゃのう。時間も惜しい、早く参ろうぞ」


 急かすユウシにジュジュが応える。


「承知いたしました陛下。お乗り物はこちらでございます」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は二月二日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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