第81話、不安だね、保護しに向かうこの面子。4
程なく外壁に着く。すると、付近には普段とは比べ物にならないほど、多くの騎士団員の姿があった。それを見て、馬車の窓から外を眺めていた私は思わず感嘆の声を上げてしまう。
「うわー、今日は凄い人数ですね」
「このあと、演習を行う予定ですので」
「へー」
ジュジュの返答に相槌を打つ。そして、他にもなにかないかときょろきょろ見渡していたところ、続けて話しかけられた。
「先にこれをお渡ししておきます」
差し出されたのは、筒状になった棒のような物。とはいえ、なにに使うのかよく分からない。角度を変えながらじっくり確認する。
「ん?」
底に小さな魔石がついていた。どうやら、魔力を込めて使うものらしい。ひとまず尋ねる。
「ジュジュさん、これは?」
「緊急事態が起きた場合に使用する発煙筒です」
話している途中、なにやら焦げ臭い匂いが鼻を突き始めた。
「まあ、こうやって使うのね!」
その一言を聞き、ふと顔を向ける。すると、私の正面に座っていたクミが持つ発煙筒から、モクモクと煙が立ち上がっていた。
「そうなのですが……」
冷静に告げるジュジュをよそに、客車内に充満していく煙。瞬く間に視界を遮られていく。あたふたしつつ、私は叫ぶ。
「は、早く窓を開けてください」
「アカリ様、窓を開けたくらいでは、どうにもならないでしょう。天井をぶち抜きますよ?」
「ダメです! なに考えているんですか、シエン様」
「ふふふ、困りましたね」
楽しげなクミをよそに、ジュジュが冷静に告げる。
「馬車を止めていただけますか?」
今まで苦難を乗り越えた経験からなのか、この人たちは全く動じていない。しかし、御者は違った。ジュジュの言葉でこの状態に気づき、慌てふためいている。
「うわわわわっ、すぐに停車します」
やはり、これが正常な反応であろう。まともな人がいて安心した。とはいえ、止まるまで、このまま我慢しているのもつらい。
手探りでドアを開けた後、外に目をやり、馬車の速度を確認する。やや速いものの、今はブーツを装備しているため問題はなさそう――
「私、一足先に降ります」
そう言い残し、余裕綽々の三人を横目に、馬車から飛び出した。
地面寸前で魔石に軽く魔力を込め、華麗に着地すると、大きく深呼吸をして、肺の空気を入れ替えた。へなへな地面にくずおれて、ぼやく。
「全く、なんて目に……」
猫ちゃんたちを保護しに向かう前に、軽く被害を受けてしまった。
「おーい、待ちくたびれたぞ」
ふと、どこからともなくユウシの声が聞こえてくる。顔を上げたところ、私と同じように仮面をつけた人物が近寄ってきた。
「大層な礼をせずともよい、正体がばれるではないか」
なにやら、思いっきり勘違いされている。
「えっと、その……」
弁明しようとした瞬間、言葉を被せられた。
「ん? その声はアーちゃんか? 美人なのに顔を隠すなど勿体ないぞ?」
小恥ずかしいことを、さり気なく告げられて顔が熱くなる。
「いえ、これには訳が……あと、その呼び方はちょっと……」
「ふむ……では今後、アカリちゃんと呼ぼう」
いずれにせよ、ちゃん付けであり、たいして違わない。元の方がマシな気がしてきた。
身分が違いすぎるため、いっそのこと呼び捨ての方が望ましいと思うものの、ユウシに言ったとて、変わりそうもない気がする。ゆえに、諦めて話を進めた。
「でも、ここで会うなんて、凄い偶然ですね」
「あまりの暇さに、うろうろ見て回っていたのじゃ」
やはり予想通り、待ちきれなかったようである。そしてふと、ユウシの装備が以前見せられたものと違い、真新しいことに気づいた。
「あれ?」
「ん? どうした?」
「あの時の剣や盾はどうしたのですか?」
「あれは、今となっては功績を示す宝物扱いでな」
話している最中、後ろからジュジュの声が聞こえる。
「ここにおられましたか」
「おお、ジュジュ。久しいな、息災であったか?」
「はい、陛下もお変わりなく、なによりです」
「お初にお目にかかります。教育特区領主代行のシエンと申します」
「おお、そなたが例の特級冒険者か!」
「あれ、シエン様、領主代行なのに顔見知りではないのですか?」
「はい、会合などはシドウ様が出席されておりますので。私は実務担当でございます」
「ふむ、シエンとやら、今日はよろしく頼むぞ」
「承知いたしております」
最後に、クミが声をかけた。
「お久しぶりでございます」
「えっと、お主は誰じゃったかのう?」
「まあ、お忘れですか? あんなに暑い夜を共にした中ですのに……」
突然の告白を聞き、私は放心状態となる。気づかぬうちに、仮面の上から両手で口のあたりを押さえていた。
そして、顔は先ほどよりもさらに熱くなる。仮面の中は、もはや蒸し風呂の状態。馬車に戻って外し、涼しみたくなった。
「はて……覚えがない。儂は亡き妻一筋だしのう」
「悲しいですわ」
「陛下、私に魔術の指南をなされていたクミさんです」
「クミ? そういえばユウコの屋敷で一度手合わせしたかのう。ことごとく防ぎおり、ちっとも当たらなんだ記憶がある」
「その節は暑かったですね」
――紛らわしすぎる。やはり、勘違いするほど、クミの言葉選びがおかしい。
「全員揃っておるようじゃのう。時間も惜しい、早く参ろうぞ」
急かすユウシにジュジュが応える。
「承知いたしました陛下。お乗り物はこちらでございます」
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は二月二日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




