表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
六章、猫ちゃん保護編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/89

第80話、不安だね、保護しに向かうこの面子。3

 そして、王立図書館を出て一時間強、冒険者組合に着いた。やはり乗り換えせず、直行できると楽である。普段ここへ向かうよりも、時間も半分ほどで済んだ。


「しばらくお待ちください」


 そう言って、馬車のドアを開き、ジュジュが先に降りていく。すると、建物の外で植物に水をあげている人が目に留まった。あの後ろ姿は、組合長のクミである。


 久しぶりに顔を見かけたゆえ、挨拶するべく私も下車して後に続く。ジュジュは真っすぐクミに歩み寄り、声をかけた。


「おはようございます。クミさん」

「まあ、ジュジュちゃん。ずいぶん大きくなって」

「ご無沙汰しております」


 ちゃんづけも意に介さず、深々と頭を下げている。ここでも普段の威厳ある態度が影を潜めていた。今日はまるで借りてきた猫のように穏やかである。


「あら、こちらこそ。そうそう、ちょっとシゲさんに声をかけてきますね」


 水やりを中断したクミは、そう言い残して建物へ入っていった。


 聞き覚えのある名前を耳にして、嫌な思い出が蘇る。冒険者登録をする際、怪訝な扱いをしてくれた人。


 ここの警備員を務めていると言っていたゆえ、腕はあるに違いないものの、良い印象はない。ため息をつき、私は呟く。


「あの人かぁ」

「どうかなされましたか?」

「今日、同行する人ですよね? シゲさんって、強いのでしょうか?」

「それはどちら様でしょう?」


 予想外の一言に戸惑う。


「あれ? ユウコ様が手配した方は、その人ではないのですか?」

「違います」


 会話している最中、建物の扉が開いた。


 視線を向けたところ、現れたのはクミ一人。私は眉間にしわを寄せ、訝しみながらジュジュに尋ねる。


「もしかして……クミさんが行くのですか?」

「はい」


 そういえば、元冒険者で凄腕と聞いていた。しかし、これまでの人柄を知る限り、おだやかで戦えるような感じには見えない。さらに今の状態は、普段と変わらぬ服装に加え、手にはじょうろ――不安でしかない。


 クミがこちらへ歩み寄ってくる。そして、私たちに声をかけた。


「お待たせしましたね。さあ、参りましょうか」


 ジュジュが冷静に告げる。


「クミさん。じょうろは必要ないと思いますよ?」

「あらまあ、失敗、失敗」


 そう言って笑いつつ、クミは建物内へ戻っていった。


 ジュジュの態度に不満を募る。思い違いかもしれないものの、指摘する様子が私の時だけ明らかに違う気がした。もやもやしながら、ジュジュに視線を送る。すると、目が合ってしまった。


「なにか?」

「い、いえ……」


 凍てつきそうな瞳に怖気づく。これ以上、言葉が出ない。やはり、羊の皮を被った狼ならぬ、猫の皮を被った虎に見えてしまう。


 すごすご馬車へ足を進めた私は、気持ちを紛らわすようにシエンに問いかけた。


「クミさんで大丈夫でしょうか? シエン様……」

「あの人、相当できますよ?」


 意外な一言に驚きつつ尋ねる。


「そうなのですか?」

「アカリ様には、あの人の身体から漏れ出る魔力が見えませんか?」

「いえ……」


 そう言ったところ、鼻で笑われた。


 乗り気でないのに同行させられた意趣返しなのかもしれない。とはいえ、先ほどから腹立たし過ぎる。お返しとばかり、足を軽く拳でこついた。


「んあーっ」


 シエンは足を押さえ、妙な悲鳴を上げる。予期せず、装備していたガントレットの固い角が脛に当たったらしい。


 思わず笑いそうになったものの、我慢してこらえた。そして、とどめとばかりに嫌味を追加する。


「あら、ちょっとコツンとしただけですのに……シエン様、ひ弱ですね」


 ――ほんの少し、気分が収まった感じがした。


 程なくクミが戻ってくる。手に持っていたのは大きな鎌。見たことのない得物を目にして、がぜん興味が湧く。


「変わった武器ですね?」

「これ、除草するのに便利なのよ、ふふっ」


 歩み寄り尋ねたところ、農具であった。鋭利な刃がついているため、切るにせよ刺すにせよ、殺傷能力はありそうである。しかし、草刈りをするなら、もっと効率の良い方法があった。


「クミさん、除草って魔法でやったほうが早くないですか?」

「それは油断すると建物が倒壊してしまいますからね」


 突拍子もない答えを聞き、驚きの声を発する。


「えっ?」

「いえいえ、でも身体を動かさないといけませんからね」


 クミは人のいない方向でシュッシュッと刈る動作をした。見かけによらず、動きが軽い。難なく使いこなしている。


「でもこれ、馬車に乗りませんよね?」


 その問いかけにジュジュが応えた。


「ここにちょうど良いものがあります」


 そう言ってクミから大きな鎌を預かり、客車の後部に取りつけてある金具に嵌め込む。


「わー、きれいに収まりましたね」

「旗を差すための物が役に立ちました。では、急ぐとしましょう」

「はい」


 私たちが乗り込むと、馬車は外壁へ向けて走り出した。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は一月二八日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ