第80話、不安だね、保護しに向かうこの面子。3
そして、王立図書館を出て一時間強、冒険者組合に着いた。やはり乗り換えせず、直行できると楽である。普段ここへ向かうよりも、時間も半分ほどで済んだ。
「しばらくお待ちください」
そう言って、馬車のドアを開き、ジュジュが先に降りていく。すると、建物の外で植物に水をあげている人が目に留まった。あの後ろ姿は、組合長のクミである。
久しぶりに顔を見かけたゆえ、挨拶するべく私も下車して後に続く。ジュジュは真っすぐクミに歩み寄り、声をかけた。
「おはようございます。クミさん」
「まあ、ジュジュちゃん。ずいぶん大きくなって」
「ご無沙汰しております」
ちゃんづけも意に介さず、深々と頭を下げている。ここでも普段の威厳ある態度が影を潜めていた。今日はまるで借りてきた猫のように穏やかである。
「あら、こちらこそ。そうそう、ちょっとシゲさんに声をかけてきますね」
水やりを中断したクミは、そう言い残して建物へ入っていった。
聞き覚えのある名前を耳にして、嫌な思い出が蘇る。冒険者登録をする際、怪訝な扱いをしてくれた人。
ここの警備員を務めていると言っていたゆえ、腕はあるに違いないものの、良い印象はない。ため息をつき、私は呟く。
「あの人かぁ」
「どうかなされましたか?」
「今日、同行する人ですよね? シゲさんって、強いのでしょうか?」
「それはどちら様でしょう?」
予想外の一言に戸惑う。
「あれ? ユウコ様が手配した方は、その人ではないのですか?」
「違います」
会話している最中、建物の扉が開いた。
視線を向けたところ、現れたのはクミ一人。私は眉間にしわを寄せ、訝しみながらジュジュに尋ねる。
「もしかして……クミさんが行くのですか?」
「はい」
そういえば、元冒険者で凄腕と聞いていた。しかし、これまでの人柄を知る限り、おだやかで戦えるような感じには見えない。さらに今の状態は、普段と変わらぬ服装に加え、手にはじょうろ――不安でしかない。
クミがこちらへ歩み寄ってくる。そして、私たちに声をかけた。
「お待たせしましたね。さあ、参りましょうか」
ジュジュが冷静に告げる。
「クミさん。じょうろは必要ないと思いますよ?」
「あらまあ、失敗、失敗」
そう言って笑いつつ、クミは建物内へ戻っていった。
ジュジュの態度に不満を募る。思い違いかもしれないものの、指摘する様子が私の時だけ明らかに違う気がした。もやもやしながら、ジュジュに視線を送る。すると、目が合ってしまった。
「なにか?」
「い、いえ……」
凍てつきそうな瞳に怖気づく。これ以上、言葉が出ない。やはり、羊の皮を被った狼ならぬ、猫の皮を被った虎に見えてしまう。
すごすご馬車へ足を進めた私は、気持ちを紛らわすようにシエンに問いかけた。
「クミさんで大丈夫でしょうか? シエン様……」
「あの人、相当できますよ?」
意外な一言に驚きつつ尋ねる。
「そうなのですか?」
「アカリ様には、あの人の身体から漏れ出る魔力が見えませんか?」
「いえ……」
そう言ったところ、鼻で笑われた。
乗り気でないのに同行させられた意趣返しなのかもしれない。とはいえ、先ほどから腹立たし過ぎる。お返しとばかり、足を軽く拳でこついた。
「んあーっ」
シエンは足を押さえ、妙な悲鳴を上げる。予期せず、装備していたガントレットの固い角が脛に当たったらしい。
思わず笑いそうになったものの、我慢してこらえた。そして、とどめとばかりに嫌味を追加する。
「あら、ちょっとコツンとしただけですのに……シエン様、ひ弱ですね」
――ほんの少し、気分が収まった感じがした。
程なくクミが戻ってくる。手に持っていたのは大きな鎌。見たことのない得物を目にして、がぜん興味が湧く。
「変わった武器ですね?」
「これ、除草するのに便利なのよ、ふふっ」
歩み寄り尋ねたところ、農具であった。鋭利な刃がついているため、切るにせよ刺すにせよ、殺傷能力はありそうである。しかし、草刈りをするなら、もっと効率の良い方法があった。
「クミさん、除草って魔法でやったほうが早くないですか?」
「それは油断すると建物が倒壊してしまいますからね」
突拍子もない答えを聞き、驚きの声を発する。
「えっ?」
「いえいえ、でも身体を動かさないといけませんからね」
クミは人のいない方向でシュッシュッと刈る動作をした。見かけによらず、動きが軽い。難なく使いこなしている。
「でもこれ、馬車に乗りませんよね?」
その問いかけにジュジュが応えた。
「ここにちょうど良いものがあります」
そう言ってクミから大きな鎌を預かり、客車の後部に取りつけてある金具に嵌め込む。
「わー、きれいに収まりましたね」
「旗を差すための物が役に立ちました。では、急ぐとしましょう」
「はい」
私たちが乗り込むと、馬車は外壁へ向けて走り出した。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は一月二八日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




