第78話、不安だね、保護しに向かうこの面子。1
話を終えて帰路に就く。疲れているゆえ、部屋に帰り休みたかったものの、決行は明日である。今日中に話をつけるべく、戻ると王立図書館へ直行した。
「いた、よかった……シエン様、明日つき合ってください」
本を読んでいたシエンに話しかけたところ、露骨に嫌な顔で即答される。
「えっ、お断りします」
「それは非常に困るんですけど……」
「どうせ、厄介ごとでしょう? 私、忙しいんですよ」
その割には地縛霊の如く、いつここに来ても姿があった。
――とはいえ、指摘すると話が長くなりそうな予感がしたため、さっさと話を続ける。
「猫ちゃんの保護の件で……」
そう言った途端、シエンが口を挟む。
「あーあ、その件ですか。でしたら、私が出向かなくとも書状をですね……」
「そうではなくて、シエン様に陛下の護衛をお願いしたいのです」
この言葉にシエンは本を伏せ、目を見開き、顔をこちらに向けた。
「えっと、今なんとおっしゃいましたか?」
「ですから、陛下の護衛を……」
「陛下の護衛って、なぜゆえに?」
「直談判したら、成り行きで陛下も同行することになりまして……」
「直談判って、陛下にですか?」
「はい。それで万が一に備えて、シエン様に護衛を務めていただきたいと」
「それは大役ですね。身が引き締まる思いです」
「では、引き受けていただけるのですか?」
「ですが、人を守ることは不得手なんですよ。私」
面倒なことに渋っている。しかし、シエンを説得できないとなると、今後の予定が狂ってしまう。了承を取りつけるべく、かの名前を出してみた。
「ユウコ様もぜひと仰っておられましたけど……」
「えっ?」
短く一言発したシエンは肩を落とし、大きくため息をつく。そして、天井を見上げながら、顎に手を当て、抑揚のない声で告げた。
「それは必ず来なさいということですね……」
驚くほど効果てきめん。念押しして尋ねてみる。
「では、お引き受けいただけるのでしょうか?」
すると、ぽつりシエンは呟く。
「苦手なんですよね……」
普段聞いたことのない自信なさげな言葉を聞き、少し悩む。とはいえ、公園での出来事は対処できていた。その点を指摘してみる。
「でもあの時、うまく私を助けてくれたじゃないですか?」
「あれは相手が人間ですからね。知れてますよ」
あまり同意できない回答――さらに問いかけた。
「ですが、シエン様であれば、大森林で脅威となる存在はいないと思われますが?」
「それは運よく今まで強敵と出会わなかっただけでしょう。そもそも魔術師が護衛を務めること自体、理不尽ですよ」
「と、おっしゃいますと?」
「魔法は相手から一定の距離を空けて放つものです。襲われた場合、第一の選択は対象から離れて自身の安全を確保すること、それなのに……」
普段の態度から想像もつかないほど、思いの外慎重な考え――こうまで言われてしまうとお願いする手前、無理強いするのは気が引けてしまう。
「えっと、どうしても引き受けたくないのなら、ユウコ様に断りを入れますけど……」
「それとこれとは話が別でございます」
どうやら護衛するよりも、頼みごとを断る方がきついらしい。無駄に愚痴を聞かされたみたいである。
「では?」
「致し方ありませんね。それで、時間はいつ頃に」
「えっと……あれ……」
そう問われて、ふと気づく。目的を達成できた嬉しさのあまり、肝心なことを忘れていた。しかし、ユウシの子供っぽい振る舞いから、待ちきれないと予想して答える。
「多分、朝早いと思いますけど……」
「でしたら明日に備えて、今日は寝ましょうかね。アカリ様もお疲れのようですし、早くお休みになられた方がよろしいかと」
そう言ってシエンは階段の方へ足を進めていった。
「そうですね」
返事をしたものの、大切なことを思い出し、呼び止める。
「シエン様!」
「まだなにか?」
「どこで落ち合えば……」
「ここでよろしいかと」
「朝早いですが、開いてますかね?」
「それは問題ありません。ここに住んでいますので」
「えっ? 王立図書館にですか?」
「はい、忙しすぎて毎日家に帰るのが億劫になりましてね、倉庫を改造して住居代わりにしております」
公私混同も甚だしい。とはいえ、いいことを聞いた。今後、なにか言われた際、反撃するネタに使える。
「それって……」
「もちろん、シドウ様の許可は取っておりますよ。では」
――抜かりなかった。
「そうですか……おやすみなさいませ」
私は落ち込みつつ、寮へ戻り、明日に備えるのであった。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は一月十八日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




