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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
六章、猫ちゃん保護編

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第78話、不安だね、保護しに向かうこの面子。1

 話を終えて帰路に就く。疲れているゆえ、部屋に帰り休みたかったものの、決行は明日である。今日中に話をつけるべく、戻ると王立図書館へ直行した。


「いた、よかった……シエン様、明日つき合ってください」


 本を読んでいたシエンに話しかけたところ、露骨に嫌な顔で即答される。


「えっ、お断りします」

「それは非常に困るんですけど……」

「どうせ、厄介ごとでしょう? 私、忙しいんですよ」


 その割には地縛霊の如く、いつここに来ても姿があった。


 ――とはいえ、指摘すると話が長くなりそうな予感がしたため、さっさと話を続ける。


「猫ちゃんの保護の件で……」


 そう言った途端、シエンが口を挟む。


「あーあ、その件ですか。でしたら、私が出向かなくとも書状をですね……」

「そうではなくて、シエン様に陛下の護衛をお願いしたいのです」


 この言葉にシエンは本を伏せ、目を見開き、顔をこちらに向けた。


「えっと、今なんとおっしゃいましたか?」

「ですから、陛下の護衛を……」

「陛下の護衛って、なぜゆえに?」

「直談判したら、成り行きで陛下も同行することになりまして……」

「直談判って、陛下にですか?」

「はい。それで万が一に備えて、シエン様に護衛を務めていただきたいと」

「それは大役ですね。身が引き締まる思いです」

「では、引き受けていただけるのですか?」

「ですが、人を守ることは不得手なんですよ。私」


 面倒なことに渋っている。しかし、シエンを説得できないとなると、今後の予定が狂ってしまう。了承を取りつけるべく、かの名前を出してみた。


「ユウコ様もぜひと仰っておられましたけど……」

「えっ?」


 短く一言発したシエンは肩を落とし、大きくため息をつく。そして、天井を見上げながら、顎に手を当て、抑揚のない声で告げた。


「それは必ず来なさいということですね……」


 驚くほど効果てきめん。念押しして尋ねてみる。


「では、お引き受けいただけるのでしょうか?」


 すると、ぽつりシエンは呟く。


「苦手なんですよね……」


 普段聞いたことのない自信なさげな言葉を聞き、少し悩む。とはいえ、公園での出来事は対処できていた。その点を指摘してみる。


「でもあの時、うまく私を助けてくれたじゃないですか?」

「あれは相手が人間ですからね。知れてますよ」


 あまり同意できない回答――さらに問いかけた。


「ですが、シエン様であれば、大森林で脅威となる存在はいないと思われますが?」

「それは運よく今まで強敵と出会わなかっただけでしょう。そもそも魔術師が護衛を務めること自体、理不尽ですよ」

「と、おっしゃいますと?」

「魔法は相手から一定の距離を空けて放つものです。襲われた場合、第一の選択は対象から離れて自身の安全を確保すること、それなのに……」


 普段の態度から想像もつかないほど、思いの外慎重な考え――こうまで言われてしまうとお願いする手前、無理強いするのは気が引けてしまう。


「えっと、どうしても引き受けたくないのなら、ユウコ様に断りを入れますけど……」

「それとこれとは話が別でございます」


 どうやら護衛するよりも、頼みごとを断る方がきついらしい。無駄に愚痴を聞かされたみたいである。


「では?」

「致し方ありませんね。それで、時間はいつ頃に」

「えっと……あれ……」


 そう問われて、ふと気づく。目的を達成できた嬉しさのあまり、肝心なことを忘れていた。しかし、ユウシの子供っぽい振る舞いから、待ちきれないと予想して答える。


「多分、朝早いと思いますけど……」

「でしたら明日に備えて、今日は寝ましょうかね。アカリ様もお疲れのようですし、早くお休みになられた方がよろしいかと」


 そう言ってシエンは階段の方へ足を進めていった。


「そうですね」


 返事をしたものの、大切なことを思い出し、呼び止める。


「シエン様!」

「まだなにか?」

「どこで落ち合えば……」

「ここでよろしいかと」

「朝早いですが、開いてますかね?」

「それは問題ありません。ここに住んでいますので」

「えっ? 王立図書館にですか?」

「はい、忙しすぎて毎日家に帰るのが億劫になりましてね、倉庫を改造して住居代わりにしております」


 公私混同も甚だしい。とはいえ、いいことを聞いた。今後、なにか言われた際、反撃するネタに使える。


「それって……」

「もちろん、シドウ様の許可は取っておりますよ。では」


 ――抜かりなかった。


「そうですか……おやすみなさいませ」


 私は落ち込みつつ、寮へ戻り、明日に備えるのであった。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は一月十八日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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