第75話、古い家、尋ねてみたら王がいた。4
「名前を尋ねてみればいかがでしょうか?」
「それで分からぬとなれば失礼ではないかな?」
「そうですか? では、両親のことなど聞いてみてはどうでしょう? 王立学園の制服ですし、どこかの貴族の令嬢かと思われますので」
「なるほど、さすがは我が娘」
娘と聞き、ハクの家にいた警備員とのやりとりをふと思い出す。接する態度というものは、やはり人によるらしい。前言撤回。
そして、話し終えた男性がこちらに歩み寄り、言葉をかけてきた。
「お嬢さん、少し伺ってもよろしいかな」
「はい」
「父親はご健在かな」
「私が五歳の時に亡くなりました」
「では、名前は?」
「覚えておりません」
「では、母親は?」
「私を生んですぐに亡くなったと聞いております」
「うむ……もしや」
男性はなにか分かったらしい。一方、私はさっぱりであった。
「失礼、お名前を伺ってもよろしいかな?」
「アカリです」
「やはりそなた、シドウの娘か……」
あの流れより、突然出てきた父親の名前を耳にして、一気に緊張感が高まる。相手に見えぬよう、生垣の陰で精霊を顕現させると、静かに尋ねた。
「……なぜそれをご存じなのですか?」
私の質問に答えることなく、男性は目を閉じ、腕を組む。そして短く告げた。
「そうか……」
すかさず女性が声をかける。
「どちら様でしょう?」
男性はゆっくり目を開き、女性の方を向いて応えた。
「アーちゃんだよ。覚えてないか、ユウコ」
自分でも忘れているくらい昔の呼ばれ方を耳にして、不意に目頭が熱くなる。すぐに、ユウコが男性に聞き返す。
「アーちゃん?」
「……フウガの娘だ」
ユウコは両手で口を押さえつつ、ぽつりと声を発した。
「えっ?まさか……」
その後、次第に目を潤ませていく。まさに鬼の目にも涙。これを見て私は、警戒する必要もなくなったと判断し、精霊を引っ込めた。
しかし、一人だけ置いてきぼりで話が見えない状況。会話が途切れたと見計らい、二人に話しかける。
「あの……」
「名乗るのが遅れた。儂はユウシ、お嬢さんの言うユウちゃん本人だ」
その名前を聞き、反射的に言葉を返した。
「へー、ユウシって国王と同じ名前ですね」
間髪入れず、ユウコが口を開く。
「いえ、陛下本人です」
私は思わず聞き返す。
「ん? 本人?」
「そう、儂は国王」
――そう言われたとて、にわかに信じがたい。
王宮と目と鼻の先とはいえ、最高位である国王ともあろうものが、こんな古い家で鍛錬するなどありえない。口を押さえ、軽くボールを投げるように手を動かし、突っ込む。
「まったまた……ご冗談を、うふふふふふっ」
あまりの可笑しさに、笑いが止まらない。対するユウシは腕を組んで、唸り声を上げ始めた。
「うぬぬぬぬぬ」
怒らせてしまったようである。ひとまず謝罪することとした。
「失礼いたしました。笑いすぎですよね……」
「いや、子供相手にその程度で怒るほど、儂の器量は狭くないぞ?なにか証明する方法はないかと考えておるのだ」
ユウコみたいに短気ではなく、ほっと胸を撫で下ろす。そして、しばしユウシが思いつくのを待ってみる。
――長い。完全に手持ち無沙汰。あまりの暇さに、いろいろ考えてしまう。ここでふと、先ほど耳にした実の父親の名前が脳裏をかすめた。問いかけてみる。
「あの……私の……」
「おお、そうだ! あれなら……」
間が悪く、そう告げてユウシは走って家に入って行く。しかし、すぐ戻ってきた。
「これでどうだ?」
そう言って、私に透明の板を差し出す。キラキラ輝いており、綺麗ではある。とはいえ、価値など分からない。
「それはなんでしょうか?」
思わず尋ねた。すると、自慢げに返事される。
「ふっふーん、儂の冒険者証だ」
「拝見いたします」
両手で丁寧に受け取り、目を落とす。確かに特級冒険者証と刻まれていた。
以前、一級は見たことがある。しかし、この国で任命されている特級冒険者は、国王のユウシ、保護特区領主のフクシュン、教育特区領主代行のシエンの三名のみ――
シエンは身近な存在ではあるものの、これまでに冒険者証を見せてもらうような出来事はなく、フクシュンは名前しか知らなかった。
実物は見たことがないゆえ、そう言われたとて分からない。ひとまず指ではじき、材質を確認してみる。キーンと重厚な音が響いた。ガラスではないようである。
次に太陽にかざしてみるべく、両手に持ち直す。その際、冒険者証越しにユウシの得意げな顔が目に飛び込んできた。
そうなると、ちょっぴり意地悪したくなるのが人の常。
――けれども、横に佇んでいたユウコを怒らせたくはない。なにもせず、ユウシにそっと返却した。
「どうだ?」
そう問われたものの結局のところ、分からずじまい。悩んだ末、私が絞り出した言葉はこうであった。
「これ、本物ですか?」
その一言に、ユウシはくずおれる。
「これで分からぬとは……」
自称とはいえ、仮にも国王を名乗る人物。らしからぬ反応に、あぜんとした。言葉を失っている最中、他より声が響いてくる。
「まずい!」
次の瞬間、私とユウシを寸断するように人が現れた。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は一月三日となっております。
12月22日、こそっと小説家になろうラジオ大賞7向けに執筆した短編を https://ncode.syosetu.com/n7920lm/ 投稿しております。よろしければどうぞ。よいお年を。
カクヨムでも同一名義で連載中。




