第74話、古い家、尋ねてみたら王がいた。3
とはいえ、生垣は整えられており、管理されている様子。
倉庫のように思えたものの、煙突があるため住居であろう。小屋と呼ぶには大きすぎるし、屋敷というには小さい。しかし、どこか懐かしく感じる。
引き寄せられるかの如く、そこに向かって足を進めた。近くまで寄った後、時計回りに進みながら眺める。その時、ふと思った。
「あれ?」
ここを知っている気がしてならない。立ち止まり、しばし考えてみる。
「うーん」
――かなり昔のことのようで、思い出すことができなかった。気を取り直し、再び歩み始める。
「しかし、広い庭だな……」
程なく、ブン、ブンと一定の間隔を刻む風切り音が聞こえてきた。
「なんだろう?」
異変があった際、対処できるように注意しつつ足を運ぶ。建物が途切れた先に、上半身裸で木刀を振る男性の姿があった。腕の筋肉もさることながら、背中もすごい。
横を通る際、ちらっと顔を見ると、わりと美形。後ろで軽く束ねた髪が似合っている。そしてふと思う。以前、どこかで会った気がした。
「んー、誰だったっけ……」
しかし、またしても思い出せない。考えつつ歩き続けるうちに男性の正面――この時、身体に刻まれた大小さまざまな傷が目に留まる。
「うわーすごいな……」
この人は幾多の魔物と戦いを繰り広げてきたに違いない。そう思わせられた。
ここで、ふと目が合う。不用意に凝視しすぎたようである。軽く会釈し、通り抜けようとしたところ、話しかけられた。
「おや、珍しい。お嬢さん、社会見学ですかな?」
渋く美声。覚えのある声を聞き、ようやく記憶の片隅から、ある名前が蘇ってくる。即座に尋ねそうになったものの、ひとまず言葉を飲み込む。先に返事をした。
「いえ、はい」
「ふむ、なにか心に残るものでもあればいいのだが」
話が途切れず、切り出せない。流れに乗りながら問いかけることとする。
「このお家……」
「ほう、このようなあばら家にですかな?」
「いえ、実は見覚えがありまして……」
「ん?」
「ここ、ゆうちゃんのお宅ではないでしょうか?」
この一言に男性はブフォッと噴き出す。同時に怒声が響き渡った。
「無礼にもほどがあるぞ!」
女性が生垣の陰からさっと姿を現し、私になにかを突きつける。しかし、とっさに反応し、手で払いのけた。
「いたっ」
――女性の目がつり上がり、顔がみるみる紅潮していく。
「貴様……一度ならず二度までも……」
意味不明。言っていることがさっぱり理解できず、恐怖感が増す。とはいえこの人、誰かに似ている気がしてならない――魔術科講師のジュジュであった。
顔は違うものの、髪型といい、雰囲気といい、瓜二つ。魔法でもぶっ放すのではないかと血の気が引き、額から冷たい雫がスーッと伝う。
相対していた最中、男性が女性を制止する。
「これ、いきなりなにをするのですか、やめなさい」
「しかしですね……」
「まったく、お前は短気でいかん。木刀など人に向けるでない」
「申し訳ございません」
「このお嬢さん、肝が据わっているようだ。瞬時にいなすとは恐れ入る」
素直に喜べない。とはいえ、褒められた。無下にするのも悪かろうと、男性に軽くお辞儀する。
しかし、ああいう行動を取る人には関わりたくない。速やかにこの場を立ち去るべく、口を開きかけたところ、先に男性が話し始めた。
「ユウちゃんでも間違いではないが、どのユウちゃんやら」
男性はそう言って女性の方をポンと叩いた後、言葉を続ける。
「しかし、懐かしい呼ばれ方だ、最近ではそう呼ぶものもいなくなってしまった」
「そうですね……寂しい限りです」
女性がしおらしくなり、重い空気が立ち込めてきた。ここで帰ってしまうのは少し気が引ける。話題を変えるため、ネタを探すべく、周囲に視線をやった。
――ふと、あることを思い出す。
「確かあの辺りに……」
すぐさま空き地に指さし、問いかける。
「そういえば、このあたりにブランコがあった記憶があるのですが」
「ブランコ?」
そう言って男性が首をかしげた。間を置かず、女性が静かに答える。
「確か……誰も使わぬため撤去したはずでございます。朽ちかけていましたし」
「ブランコ自体はこの辺りの家庭にはあるものだから、珍しいものではないが」
「そうですか……ピンクできれいだったのにな……」
男性が顔を女性に向けて尋ねた。
「そうだったかのう?」
すぐに女性は一歩後ろに下がり、男性に手招きする。
「ちょっとこちらへ……」
「うむ?」
「お知り合いではないのですか?」
「うーん。それがのう、まずいことに思い出せんのだ」
内緒話と見受けられるものの、大きい地声と通る声。こちらに丸聞こえであった。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は十二月二十九日となっております。
今話以降、予約時間を16時30分に固定することにしました。投稿間隔は5日毎と変更ありません。
カクヨムでも同一名義で連載中。




