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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
五章、けもの編

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第69話、忘れ物、取りに行ったらなにか出た。4

 言っている間に舞い戻ってきた。そして、私に近寄りペロッと舐める。先ほどとは打って変わって警戒心がない。効果絶大。そう思ったものの、前足を見てふと気づく。


「あれ? この子、毛が無い……」


 一部、抜け落ちていた。よくよく考える。二匹いることをすっかり忘れていた。しかし、こうなると問題。一瞬で見分けられない。


 苦肉の策として、両方とも同じ愛称で呼ぶこととした。


「猫ちゃん、元気だった?」


 軽く足を撫でつつ、念のため怪我が治癒しているのか確認する。問題なく一安心。あの魔法は、人間以外にも効果が効果があるらしい。


「じゃ、始めようか」


 そう言った後、魔法で怪我をさせぬよう、猫ちゃんの反対側にいる植物型の魔物を狙って、花を切り落とす。ネズミに似た生物が現れると、すぐさま倒して運んでいく。


 もうここからは完全に流れ作業。


 私は伸びてくる蔓を目安に魔法を放ち、猫ちゃんが戻ってくるたびに手を振り、声をかける。そして、樹液が収まるのを待って、花を回収するだけ。


 傍から見れば、さながら猛獣使いの様相。


「これは楽だな……」


 しばらく繰り返していたところ、欲が出てきた。


「回収までしてくれたら最高なのにな……まあ、それは高望みか……」


 袋に目を落とす。中にある花は二桁に達していた。久々の大漁に気分は上々。ウキウキである。しかし、ちょっと疲れてきた。


 餌付けの際、大量に魔力を消費したことが、ここにきて響いてきたらしい。


 今日は切り上げるべく、手を二回パンパンと叩く。すると、猫ちゃんはネズミに似た生物を咥えたまま、こちらにやってきた。そして座ると、前にぽとっと置き、小さく鳴き声を上げる。


「アーッ」


 失敗であった。あの合図は、私も欲しいと捉えられた感じ。


「えっと……違うんだけど……」


 困り果て、じっと見ている猫ちゃんに、ぽつり呟く。


 私にとってこれは不要のいやげ物。とはいえ、ふと思う。もしかするとモグラ同様、いけるのかもしれない。というわけで、ひとまず食べる方法を考えてみた。


 解体するのは風の魔法で何とかなるものの、火の魔法は使えない私に調理する術はない。生の状態で食べることになるため、間違いなくお腹を壊してしまうであろう。おまけに味付けは皆無――却下ということでそっと押し戻す。


「間に合ってます」


 そう告げた後、手でバツを作ったり、首を左右に振り、いりませんと必死に訴えた。すると、さっと咥えて走り去る。


「よかった……伝わった。ふう……」


 そして、ため息をつき、立ち尽くしていたところ、猫ちゃんは舞い戻ってきた。


「今日はおしまい。また明日来るからね」


 そう言って軽くなでた後、王都へ戻るべく足を進める。ここで問題が起こった。ついて来ようとしている。


「だめだよ。おうちにお帰り」


 諭すように声をかけると、猫ちゃんは小さく鳴き声を上げた。


「アーッ」


 こうなると名残惜しい。哀愁が漂う中、先ほどと同じように、身振り手振りで訴えかける。理解したのであろうか、私をペロッと舐め、走り去った。


「かわいいな……」


 その後、小一時間ほどかけて、冒険者組合に到着する。報酬の受け取りを済ませて、二階の宿に泊まり、明日に備えた。




 ――あくる日、目を覚ます。


「うぎぎぎぎ」


 起きると身体中が痛い。疲れていたため眠れたものの、やはりここのベッドは固すぎる。すぐに起き上がり、身体をほぐすように動かした。


 一通り終えて装備を整えると、一階へ降り、依頼の受付を済ませる。そして、冒険者組合を後にし、大森林へ向かった。


 道中にある草原を、鼻歌交じりで歩いて行く。


「ふんふんふーん」


 足取りは軽い。猫ちゃんが懐いてくれたおかげで、順調にこなせそうだからである。巨大なカエルや長い胴体の動物といった脅威はあるものの、きっと助けてくれるに違いない。かなり気が楽であった。


 そして、程なく大森林に到着。


「さて、今日も頑張ろうっと」


 一声入れて、すぐに足を踏み入れる。しばらく進んだところ、ガリガリと音が響いてきた。


「なにこの音……」


 なんだか、のこぎりで木を切っている感じに近い。とはいえ、このような場所で伐採する人はいるはずもなく――かなり不気味。


 新たな魔物ではないかと警戒しながら、確認するべく、慎重に音のする方へ向かう。


 すると、大木を引っ掻いている物体が目に飛び込んできた。ほっと安堵する。音の主は猫ちゃん。どうやら爪を研いでいたらしい。


「猫ちゃーん!」


 呼びかけるとピタッと動作が止まり、こちらを向く。次の瞬間、鳴き声を上げた。


「アーッ」


 猫ちゃんは木を離れ、すぐに駆け寄ってくる。


「元気だった?」


 声をかけると、ペロッと舐められた。


「ちょっと……くすぐったいよ」


 そう言いつつ、足元に目をやる。毛があった。どうやら二匹とも懐いてくれたらしい。感慨にふけっていたところ、私の周りを回り始める。


 猫ちゃんも、喜びを表しているのかなと思いきや、突如小さく飛び、地面をさっと引っ掻いた。どうやら戯れではなかったらしい。その場に近寄り、覗き込む。


 目に留まった物は、切断された植物型の魔物の蔓。危なかった。浮かれすぎて、忍び寄ってきたことに気づかなかったようである。


「守ってくれたの?ありがとね」


 偶然出会えた喜びから大声を出してしまったゆえ、向かってきたのであろう。急いで場所を変えると、お返しとばかりに、そいつの花を魔法で切断してやった。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は十二月四日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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