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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
五章、けもの編

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第68話、忘れ物、取りに行ったらなにか出た。3

 これではすぐに戻ってきてしまう。またしても失敗。しかしあっぱれ。いや褒めている場合ではない。とはいえ、これで闘志に火がついた。


 攻略法を編み出していた私は、植物型の魔物を狩ることに関し、王都で一番の腕前と自負している。


「よーし、あんたが満足するまでやってあげようじゃないの」


 片っ端から植物型の魔物の花を切り落とし、ネズミに似た生物を誘き寄せてやった。幾度となく続けたものの、猫らしき大きな動物は一向に満足する気配はない。ひたすら咥えて運んでいる。


「どうなってるのよ、まったく」


 疲れ果て、空を仰いだ時、ふと気がつく。


「ん? あれ……」


 去った瞬間、すぐ現れた。これはなにかおかしい。注意深く監視してみる。驚くことに前足に血痕があるものとないものが交互に獲物を運んでいた。


「ちょっと、ズルじゃない……」


 いいようにあしらわれている。いや、勘違いした私がお馬鹿さん。


 悟った直後、張り詰めていた糸が切れたように、ガクンとした感覚に襲われた。続けて疲労感が漂ってくる。以前にもなったこの状態。魔力を使い過ぎた反動に違いない。とっさに膝をつく。


 すると、屈んでいたところに、猫らしき大きな動物が寄ってきた。


 とはいえ、恐怖感はない。私より強い上、二体もいる。この状況から、もはや危害は加えられないと考えていた。襲う気であれば、とっくの昔にしているであろう。


 続いて、間近で小さく鳴く。


「アーッ」

「言葉分からないんだけど……やっぱり猫だよね」


 猫らしき大きな動物は私をじっと見て、べローンと舐めた。急に動かなくなったゆえ、心配されたのかもしれない。しかし、そういうことをされると、愛着が湧いてくる。


「大丈夫、疲れただけだよ」


 そう告げて、撫でようと手を伸ばした時、前足の血痕辺りにある傷口が目に留まった。怪我をしている。そういえば、長い胴体の動物に噛みつかれていた。


「ちょっと、じっとしててね」


 人間以外に効くかは分からぬものの、魔法を試してみる。


「単式魔法陣、光」


 精霊が光り輝き、パッと辺りを照らすと、猫らしき大きな動物はぴょんと小さく跳ね、勢いよく逃げていった。


「あっ、待って」


 これでは効果のほどが分からない。とはいえ、効かなかった場合、他に対処しようもない。諦めて木の陰からこちらを見ている猫らしき大きな動物に話しかける。


「びっくりさせてごめんなさい。またね」


 そう告げて手を振った後、疲れた身体に鞭を打ち、王都へ帰還するのであった。




 ――三日後の日曜日。猫らしき大きな動物を手なずけるべく、意気軒昂と大森林へ赴く。お互いに利点があると踏んだからである。


 間隔が空いたこともあって、そろそろ孤児院に顔を出したかった。しかし、鉄は熱いうちに打てと伝え聞く。ということもあり、こちらを優先した。


 前回は疲労困憊で、冒険者組合に寄らず直帰。それゆえ、依頼と同時に報酬の受け取りを済ませる。


 その際に発見した袋を見せたものの、忘れていたのであろうか、何事もなかったかのように受付嬢に応対された。努力を無駄にされ、やや落ち込む。


 その後、大森林に到着した私は、猫らしき大きな動物を呼び込むべく、行動を開始する。植物型の魔物を探すと、花を魔法で切り落とし、ネズミに似た生物を誘き寄せた。


 とはいえ、お目当ての猫らしき大きな動物は姿を現さない。


「あれ? 来ないな……どうしよう」


 これでは予定が狂ってしまう。追加で植物型の魔物を倒し、数を増やしてみる。


「アアアアーッ」


 ここでようやく、猫らしき大きな動物の雄たけびが聞こえてきた。私も歓喜の声を上げる。


「きたあああああっ」


 現れた瞬間、すぐにネズミに似た生物を叩く。すると、またしても私の目の前に転がってきた。不意に視線が交わる。


「アーッ」


 叫び声を上げ、木の陰へ逃走してしまった。そして、そこからこちらを見ている。


「あれ……」


 この様子から、すでに忘れられたのかもしれない。少々不安になりながらも、意思疎通を図るべく、話しかけてみることにした。ここで、ふと悩む。


「なんて呼ぼうかな……」


 愛称をつけねばなるまいと、急いで頭を働かせる。


「うーん」


 全然思い浮かばない。時間をかけたくないため、安易ではあるものの、こう決めた。


「猫ちゃーん!」


 ついでに大きく手を振り、自分の存在を知らしめる。とはいえ、反応は鈍い。木の陰より出てくる気配が一切ない。


「参ったな。なにかいい方法は……よし」


 目の前にあるネズミに似た生物で、餌付けしようと試みる。


 しかし、長い胴体の動物ならともかく、これを持ち上げるには大きすぎ。そうなると手は一つ。魔法でなんとかするよりほかはない。


「うーん、飛ばせるかな……」


 入学試験の時、ジュジュが試験官に放ったのは三式。まだ私は使えない。代わりに、魔力で差を補おうと決め、脳内で術式を組み替える。続けて、精霊を顕現させると、最大限込めて魔法を放った。


 砂埃とともに、ネズミに似た生物はふわふわ浮き上がる。


「や、やったあ」


 その後、ゆっくり進み、ぽとり落下した。次の瞬間、猫ちゃんは木を飛び出し、咥えて走り去る。


「でも、ちょっと疲れた……」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は十一月二十九日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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