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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
五章、けもの編

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第67話、忘れ物、取りに行ったらなにか出た。2

 前回、魔法は避けられたゆえ、ガントレットの魔石で対処する。さらに念を入れ、突き刺せるように、真ん中付近を持っている蛇の牙を端に持ち替えた。


 しかし、準備は整ったものの、まだ気づかれない。


 いずれにせよ、対峙する羽目になる。それゆえ、足を踏み鳴らし、私の存在を知らしめた。すぐに長い胴体の動物はこちらを向き、唸り声を上げる。


「ガーッ」


 響いた直後、どこからともなく雄たけびが轟いた。


「アアアアーッ」

「えっ、また来た?」


 長い胴体の動物は、キョロキョロと顔をせわしなく動かしている。そして程なく、大きな影が忍び寄ってきた。


「上?」


 慌てて見上げる。次の瞬間、大きな物体が舞い降り、長い胴体の動物に被さった。声から予想できたものの、やはり先ほどの大きな動物――


 片方の前足で踏みつけ、残る足でペチペチ叩くように攻撃している。犬であればかみ殺すであろう。この様子から察するに、あれは犬ではなく、恐らく猫。


 それはそうとして、肉食動物同士の戦いという見慣れない光景に、目が釘づけになった。


 そうこうしているうちに、長い胴体の動物が反撃する。踏みつけている足をガブリと噛む。すぐに猫らしき大きな動物は足を持ち上げ、激しく地面に押しつけた。


「キッ」


 短い叫び声が聞こえた後、顔が足より離れる。長い胴体の動物は口から血を流し、ぐったり。ここで間髪入れずに、猫らしき大きな動物は、前足で勢いよく叩いた。すると、長い胴体の動物は、血しぶきをまき散らしながら、私の前に転がってくる。


「きゃっ」


 驚きのあまり、小さく悲鳴を上げてしまう。そして、視線を落とし見やった。ヒクヒクしており虫の息。勝敗は決したようである。


 となれば、私の脅威は正面にいる猫らしき大きな動物。瞬時に視線をやったところ、またしても逃げていく。しかし例の如く、木の陰からこちらを覗いている。


 再び長い胴体の動物に意識を戻した。


 動かないものの念のため、手に持っていた蛇の牙を顔に突き立て、とどめを刺す。これで完全に息絶えたであろう。ふと悩む。


「うーん。困ったな……」


 猫らしき大きな動物が隠れている方向は帰り道。あの様子では襲ってくる確率は低いと考えられるものの、生きて帰るには、念には念を入れ、万全を期したい。


「あとで綺麗にすればいいか……よし!」


 私が戦っていたとて同じことと開き直り、ローブは汚れるのを我慢して、長い胴体の動物を頭上高く持ち上げた。


「えーい」


 声とともに、猫らしき大きな動物の近くに投げつける。ドサッと音を立てて落ちると、すぐに飛び出し、咥えて走り去った。


 この光景から見るに、たくさんあった死骸は巨大なカエルではなくあれが処理した模様――とか、のんびり考えている暇はない。戻ってくる前に急いでこの場を離れる。


 道中、魔物と遭遇することなく、順調に距離を稼げた。


「もう、大丈夫だよね……」


 一息つき、周囲を見渡す。特に問題はなさそう。うまく逃れたようである。ここで、きれいにしてから戻ろうと決めた。


「ふんふんふーん。今日はずいぶん汚れちゃったな」


 鼻歌交じりでローブを脱ぎ、魔法を放った直後、ドンと大きな物音がする。


「今のはいったい……」


 慌てて視線を向けたところ、揺れている大木が目に留まった。あそこになにかいるのは間違いない。目を離さぬようにして急いでローブをまとう。


 しかし、待てど暮らせど姿を現さず――しびれを切らし声を上げた。


「隠れてないで出てきなさいよ!」


 すると、のそっと大きな物体が動き、顔を覗かせる。目を疑った。そこにいたのは猫らしき大きな動物。


「なんでここまで……」


 ここでふと思う。もしかして、あれは犬ではなかろうか。そうであれば嗅覚が優れているため、においで追跡できる。とはいえ、なんとかせねばならない。


 不用意に叫んだこともあり、辺りが騒がしくなってきた。場所を変えるべく動く。すると、猫らしき大きな動物は私についてくる。


「しつこいな……」


 この後、付かず離れずの状態が続いた。動けば同じように、逆に近づくと離れていく。そして、さっと目をやると、隠れてしまう。


「どうしたものかな……」


 ここなら木を盾に身を守れる可能性がある。しかし、草原で襲われてしまえば、防げるものがなくイチコロ――


「よし、こうなったら」


 ネズミに似た生物を利用して、離れたすきに煙に巻くことにした。獲物が一匹ではすぐに戻ってくると考え、時間を稼ぐべく、複数匹出現させる。


 急いで植物型の魔物を探し、花を切り飛ばす。悲鳴を聞きつけ、ネズミに似た生物が寄ってたかってきた。猫らしき大きな動物も、それにつられる。


 他の魔物にも注意しつつ、蔓を目安に次なる植物型の魔物を見つけると、すかさず魔法を放つ。運よくネズミに似た生物が二匹走ってきた。


「やった!」


 小さくガッツポーズして動向を見守る。猫らしき大きな動物は一匹をその場で食べ、もう一匹を咥えて走り去った。


「えっ……」


 呆気を取られ固まる。先ほどの場所へ目をやったところ、ネズミに似た生物はいなかった。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は十一月二十四日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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