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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
五章、けもの編

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第66話、忘れ物、取りに行ったらなにか出た。1


「さて、始めますか……」


 三日後の木曜日、先日落とした袋の捜索や蛇の牙を回収するべく、私は大森林へ赴いていた。あの時の受付嬢の態度や告げられた言葉が頭から離れず、悔しかったからである。


 絶対ぎゃふんと言わせたい。その思いが心を突き動かしたのであった。


 老人のおかげで脅威は多少減ったと思われる。それでも安全とはいえないため、無茶は避け、今回は回収のみ――それゆえ、依頼を受けずに直行した。


 しかし、いざ大森林に足を踏み入れるとなると、やはり不安が押し寄せてくる。


「大丈夫かな……」


 落とし物を見つけるのはともかく、魔物に見つかるのはまずい。五感を研ぎ澄ませ、警戒しながら記憶を頼りに、老人と出会った地点へ歩を進めた。そこにある可能性が一番高いと思ったからである。


 普段は依頼をこなすことに夢中で、気づかなかったものの、リリリリと虫の音色が心地よい。平和に終わりそうな気がしてきた。


 そして、しばらく歩き続けたところ、広範囲に切り開かれた場所に辿り着く。どうやらここで間違いない。付近には血なまぐさい臭いが漂っている。


「あれ?」


 ふと疑問に思う。死骸が一つも見当たらない。


「ここじゃないのかな?」


 しかし、黒ずんだ痕跡に加え、私を押し潰しかけた忌まわしき存在が、例の場所だと示していた。


 訝しみつつも歩み寄り、大木の周囲を探してみる。すると、拍子抜けするほどあっさり見つかった。


「よかった……」


 袋を拾い上げ、開けて目をやる。舌先も無事。これを見てピンときた。


 きっと死骸は、巨大なカエルが処理したのであろう。あいつはネズミに似た生物を食べていたゆえ肉食、間違いない。続いて蛇の牙も見つかった。


 残るは突き刺した時に使ったもののみである。


「確かこっちから来たよね」


 そう呟き、足を運ぶ。とはいえ、見つからない。


「ここだと思うんだけどな……」


 先ほどと同じような痕跡はある。しかし、またしても消え失せていた。


「まあ、仕方ないよね」


 探そうにも見つける当てがないため、これにて捜索を終える。


「さてと、帰ろっかな」


 そう思ったものの、女心と秋の空。あっけなく探し物が見つかったこともあり、時間に余裕があった。おまけに、魔物の気配は感じられない。


 ということで、少しばかり狩って帰ることにする。しかしそうなると、蛇の牙がかなり邪魔――


 植物型の魔物を倒す際、かなり移動するため、どこかに置けば分からなくなってしまう。それでは正に本末転倒。


 ローブの中に物入れはあるものの、なにかの拍子に身体に刺されば大怪我――


「んー、何かいい方法は……」


 それは置いといて、ひとまず網を取りに向かうことにした。発見し、手に持った時、ふと閃く。


「ここに固定すれば、使う時でも問題ないよね」


 普段、邪魔ものである植物型の魔物の蔓を利用しようと案出する。網の柄に蛇の牙を沿えて巻きつけた。なかなかいい感じである。


「よし、完成! さて、やりますか」


 気合を入れた後、魔法で花を切り落とす。すると、ネズミに似た生物が転がってきた。どんくさい個体もいるものだと思った最中、犬のような猫のような大きな動物が、その後を追う様に走ってきた。


 絶句する。あんなのに襲われたらひとたまりもない。


 慌てて魔法を放つ準備をした。しかし、精霊は現れない。鼓動が高鳴る。クールダウンであった。逃げるしかない。


 とはいえ、先程の瞬発力を見る限り、ブーツの魔石を使ったところで追いつかれてしまう。ガントレットの魔石で防げる可能性はあるものの、あの大きさであれば一回では仕留められない。反撃されてしまう。そう考えると、最大火力の魔法でぶった切るほか手はない。


 気づかれぬよう息をひそめ、時が過ぎるのを待つ。一秒一秒が長く感じる。


「ファー」


 その刹那、そいつが小さく鳴き、不意にこちらを向いた。そして視線が交わる。最悪。発動する準備が整う前に気づかれた。魔法は間に合わない。


 うまくいくか分からぬものの、隙を作るべく手に持っていた網を投げつける。次の瞬間、大きな動物は声を上げた。


「アーッ」


 襲ってくる。そう思いきや、毛を逆立てると、ぴょんと小さく跳ね、勢いよく逃走した。予想外の行動に呆然とする。それにしても――でかい。あれは優に三メートルはあろう。


 安堵したのも束の間、木の陰からこちらを見ていた。とはいえ、大きすぎて丸見え。頭隠さず尻隠さずである。


 偶然の産物とはいえ、距離は稼げた。しかし、油断は禁物。不測の事態に備えるため、視線を逸らさぬよう、少しずつ後ろに下がる。


 すると、大きな動物はこちらを見ながらゆっくりと歩みを進め、ネズミに似た生物へ近づく。そして、それを咥えると、消えるように走っていった。


 ひとまず危機は去ったようである。


 ほっとした途端、足が震えてきた。動けぬゆえ、それが収まるのをしばし待つ。その後、網から蛇の牙を回収し、大森林を抜けるため、急いで足を進める。


「げっ!」


 間の悪いことに、長い胴体の動物が前を横切った。なんか――ついてない。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は十一月十九日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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