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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
四章、ごたごた編

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第62話、意味不明、翌日寮から出られない。4


「では申し上げますと……私が退出した後の行動が、兄にとって相当不愉快だったらしく」


 予想外の一言に、慌てて口を開く。


「えっと、もしかして……私のせい?」

「そうとも言えるかもしれません」


 そう聞いて、ふと考えた。苛立って、挑発するように立ち去った覚えがある。すぐさま、テーブルに頭をこすりつけんばかりの勢いで頭を下げ、反省の弁を述べた。


「ごめんなさい」

「いえいえ、もう済んだことです」


 きまりが悪いため、姿勢を戻すと、話題を変えるべく、次の話を振る。


「ところでソウナ、これからどうするの?」

「冒険者になろうと思っています」


 この言葉を聞き、戦闘系の授業にすべて出席していた理由をようやく理解した。


 以前、大浴場で目にした引き締まった身体を見る限り、本気なのかもしれない。とはいえ、現実は甘くなく、私はひどい目にあっている。


 ソウナに務まるのかと、不安に思いつつ口を開いた。


「冒険者か……」

「陛下が書き記した書物を目にした時から、七英雄の軌跡に憧れておりまして」

「本? もしかしてこれ?」


 ゆっくりと立ち上がり、片足で本棚に歩を進める。そして、愛読書の「わが国の成り立ち」を取り出して、ソウナに示した。


「そうでございます。アカリ様も、お読みになっておられたのですね」


 とうとう、様という敬称までついてしまう。本を直した後、席に戻りながら考える。


 自分の地位が低いという考えから、ソウナはへりくだっているものの、私から見ればただの同級生。気さくな関係を築きたいゆえ、このままでは不都合であった。よって、提案してみる。


「えっとね、ソウナ、すっごく気になるから、普通に話してよ」

「そう言われましても、身分の格差が」


 堅物すぎた。私は投げ捨てるように言葉を放つ。


「もう、めんどくさいわね」


 とはいえ裏を返せば、立場を利用して頼めばいい、ということになる。物は試しということで、ビシッと告げてみた。


「では、高位の貴族として厳命します。普通に話しなさい。これでいい?」

「分かりました」


 返事を聞き、心の中で小躍りする。効果てきめんであった。


「よろしい。でね、前にも言ったけど、私が領主の娘ということは、みんなに話してないの。だから、その言葉遣いだと、とーっても困るわけ」

「それは大変失礼いたしました」

「だから、学園卒業するまでの間だけでも、ね。お願い」

「了承いたしました」

「もう、言ってるそばから。妹に指摘する姉みたいじゃない」

「どちらかと言えば、姉は私の方です」

「えー、どう見ても私でしょ」

「それは譲れません」


 見つめ合い、しばし沈黙する。その後、二人して噴き出した。笑っている最中、またもや状況を伝える声が聞こえてくる。


「異常ありません」


 その声を聞いて、外へ目をやりつつ、ソウナに語りかけた。


「それにしても、寮周辺の人だかり、物々しいわね」

「昨日、家の者たちが、私たちの退学を求めて、学園に押し寄せたらしく」

「そんなことあったんだ……」


 とはいえ、私は誰からも聞いていない。ソウナは話を続ける。


「そして、しばらくは寮より出ないようにと」

「へー、それにしても……大げさすぎない? これ」

「領主直属の私兵だけでも五十人ほどおりまして、そのせいかと」

「五十人? それに備えて大勢いるのかぁ」

「そのようです」


 答えたソウナの声調が低い。


 やや、雰囲気が悪くなったような気がした。心を開いていない状態で、負い目を感じさせるのは極力避けたい。そして、話が長くなってきたこともある。そろそろ切り上げるべく、最後の仕上げに入ることとした。


「しばらく外出できそうにないな……ああ、困ったなぁ、困ったなぁ」


 抑揚なく淡々と言いながら、リズムよく首を左右に傾ける。すると、ソウナは謝罪した。


「ご迷惑をおかけします」


 予想通りの言葉を聞いて、決めに入る。


「じ、じゃあさ、助けると思って……私とお友達になって!」


 ビシッと言おうとしたものの、緊張したせいか、ややどもってしまった。


「すごい前振りですね、アカリさん」

「へへ。せっかく同じ寮に住んでいるんだし……家族のことが気になるとしても、この後一人ぼっちで過ごすのは寂しいでしょ?私はみんなと仲良くなりたい」

「ですが」

「なにかあったら私も協力するし……それに、シエン様も助けるって言ってたでしょ?」


 その問いかけに、反応がなく、静けさが漂う。時計の秒針の音が響く中、一分ほど経った頃、ようやくソウナが口を開く。


「では、お願いします」


 そして、小さくお辞儀をした。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そう応えた私は、軽く頭を下げて、微笑みかけた後、突っ込む。


「ね、私の方が姉っぽいでしょ?」

「そうですね、ふふふ」


 明かりが灯ったように、ソウナは顔に笑みを浮かべるのであった。

ご拝読ありがとうございます。これにて四章終了となり、次話から五章に突入。

次話更新は十月三十日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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