表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
四章、ごたごた編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/69

第61話、意味不明、翌日寮から出られない。3


「ノックいたしましたが、返事がなかったので、失礼ながら入室させていただきました」


 そう言った後、続けて深々と頭を下げ、大声で謝罪される。


「昨日は、とんだご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした」


 そして、その言葉が響いた途端、下の方がざわつき始めた。そっと視線を向けると、上空を見上げる顔がちらほら散見される。


 ジュジュの言っていた目に入るとは、どうやらこのことなのかもしれない。玄関の扉の目隠しも、寮内で活動する人への配慮と考えれば、概ね合点がいく。


 意識をソウナに戻し、両手を胸の前で小さく振りつつ、控えめな声で応える。


「そんなことないよ。全然気にしないで」


 とはいえ、私のとった行動はソウナの瞳には映っていない。ずっと頭を下げ続けたまま。しかしながら、見ているうちに、不憫に思えてきた。


 火中の栗を拾いに行ったのは私。怪我をしたのも、運が悪かっただけである。何とかしなければ、そう考え、思い切って尋ねた。


「ねぇ、ちょっと聞いてみたいことあるから座って話さない?」


 その刹那、私の言葉を妨害するかの如く、怒声が響く。


「貴様ら、静まれい」


 ジュジュである。最悪なタイミングと思いきや、ソウナは顔を上げて、声のする方へ向いていた。魔術科の授業を受講していたため、反応したのであろうか。とはいえ、好機。


「騒がしくなりそうだから中に入ろ。ちょっと肩貸して、ソウナ」


 そう言って強引に腕を回して、室内へ誘ったのであった。その後、イスに腰を下ろすと、退散されぬよう、すぐに話を始める。


「えーっとね、公園で話した時から気になってたんだけど……言葉遣い。丁寧すぎない?」


「領主の御令嬢だと知ってしまった以上、以前のような話し方では失礼ではないかと」


 しかし、ソウナも製造特区の領主であるイーサンの長女。堅苦しい公の場であるならばともかく、そこまで畏まらなくても、そう思いつつ告げてみる。


「ソウナも領主の娘でしょ? 一緒じゃない」

「実は……勘当されておりまして」

「へー、勘当されたんだー、ってなんで?」

「縁談がうまくいかなかったことに対し、親に見限られました」

「え、縁談?」

「はい」


 若干驚いたものの、俄然興味が湧いた。詮索するのはよろしくないとはいえ、やはり尋ねずにはいられない。


「どんな相手だったの?」

「陛下です」

「ヘイカさん? うーん、知らないな……」

「いえ、国王様です」


 そう聞いて、少々戸惑い気味に応える。


「えっ、国王?」

「はい」


 かなり年上。正確には把握していないものの、二回りは年齢が違うのではなかろうか。さすれば、拒絶するソウナの心情も分からなくもない。それゆえ、同調するべく言葉をかける。


「それは断るよね」

「いえ、その、憧れておりまして……すごくかっこよかったです」


 ソウナの考えは私と逆であった。そう言って俯き加減で顔を赤らめている。どうやらまんざらでもなかったらしい。


 そうなると、理由を知りたくなるのが世の常。


「じゃ、なんで駄目になったの?」

「あなたはまだ若いから、知見や視野を広げなさいと。家庭に入るのはそれからでも遅くありませんよと仰いました」


 それは、縁談を体よく断るための口実に違いないであろう。


 ソウナがいくら望もうとも、相手から拒否されてしまえば、成立することはない。親であるイーサンの仕打ちに腹立たしくなり、声を荒げる。


「それで勘当って、ちょっとひどくない?」

「いえ、それまでに十件ほど、私からお断りしておりまして……はい」

「十件もあったの?」

「はい」


 半ば呆れながら尋ねた。


「ソウナの親って、なんでそんなに結婚させたがってるわけ?」

「それは分かりかねますが」


 ソウナが言葉に詰まる。それを見て、話題を変えるべきではないかという考えが脳裏をよぎった。


 しかしながら、自由気ままにさせてくれる私の環境に比べ、あまりにも束縛が強すぎる。同情の念を禁じ得ない。


「なんかいろいろと大変ね、ソウナのとこ。ハクもあんなふうだし。普通、人に向かってあんなの投げないよ」

「以前より、横柄な態度ではありましたが、私が勘当されてから、さらに拍車がかかりまして」

「身体の痣を見た時、びっくりしたもの」

「どうしてそれをご存じなのですか」


 驚きの声を上げるソウナに、微笑みながら応える。


「授業で倒れた時に、保健室で付き添ったの」

「そうですか……その節はお手数おかけいたしました」

「しかし、あそこまですることないのにね」

「あれは……その」


 唐突にソウナが口ごもる。そのしぐさに、聞き出すべく、すかさず突っ込む。


「隠しごとはなし! はっきり言ってよね」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は十月二十五日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ