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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
四章、ごたごた編

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第59話、意味不明、翌日寮から出られない。1


「ねぇ、アカリ、なにやらかしたの」


 翌日、この言葉でたたき起こされた。


「うーん、ミナ、おはよう。なんのこと?」

「アカリとソウナさん、無期限外出禁止って、壁に掲示されてるよ」


 言っていることが理解できず、間抜けな声が出てしまう。


「はぁ?」


 確認するべく、一階へ向かおうとベッドより飛び起きる。そして床に足をつけた次の瞬間、心を砕くような激痛に見舞われた。すぐに叫び声を上げながら、のたうち回る。


「ぎゃああああ! 昨日、足を挫いたこと、すっかり忘れてた」

「相変わらず、おっちょこちょいねって、うわっ、なにこれ、すっごく腫れてるよ」


 ミナにそう言われて、目を落とす。足首の外側、くるぶし周囲が真っ赤に腫れていた。寝てる間に冷やしておけばよかったと後悔しつつ、声を絞り出して話しかける。


「ご、ご、ごめんミナ、ちょっと肩貸してくれる?」

「うん、いいけど……歩けるの」

「無理なら、這ってでも行く」


 そう告げたところ、正論を述べられた。


「アカリ、それ、階段下りられないよ」

「まあね、それくらいの気持ちってこと。だから、お願い」

「うん、わかった」


 部屋を後にした私たちは、時間をかけて慎重に階段を下っていく。そして一階に降り立つと、掲示されている場所に、すぐさま足を運び、文章を確認した。


「えっと、なになに。左記の者、無期限の外出禁止とする。アカリ、ソウナ」


 読み終えて間もなく、わなわなと怒りが込み上げ、声を荒げる。


「なんで私たちが処分されなきゃならないのよ!」


 これは、一言言わねば気が済まない。処分を下したであろうシエンがいる王立図書館に、乗り込むことを即座に決断した。その最中、ミナの言葉が耳に留まる。


「なんでだろうねー。でも、心当たりないの、アカリ」

「えっと……あるといえば、あるんだけど」


 公園での出来事はさすがに話せず、返答に困ってしまう。しかし、これで一気に冷静さを取り戻した。


 状況を頭の中で整理する。この足の状態では、介助なしに到底歩けない。王立図書館へ向かうにせよ、付き添いを頼めそうなのは、ミナの他には考えられず。さりとて、連れて行ってもらったところで、話を聞かれるのはまずい。


 思いとどまり、一人で辿り着けるよう対策を講じるべく、ひとまず部屋へ戻ろうと口を開く。


「しょうがないなぁ、どのみち今日は授業ないし、部屋で自習しよう」

「それがいいよ」


 下りる時と同様、ミナの肩を借りてゆっくり階段を上る。自室へ戻った際、本日は木曜日であることにふと気づき、すかさず声をかけた。


「あっ、そうだ。ごめんミナ、今日は授業の終わりに迎えに行けそうにない」

「えっ、言わなくても分かるよ。アカリ、外出禁止だもん。それに、その足だとね」


 ミナにそう言われ、ハッとなり、笑って誤魔化す。


「……だよね。ははは」


 どうやら王立図書館へ向かうことに気を取られ過ぎて、自分の置かれた状況を一切考えず、無意識のうちに発言してしまったらしい。


「じゃ、お大事にね。アカリ」

「うん、ミナ。ありがとね」


 ミナが退出した後、イスに腰を下ろし、思案する。


「やっぱり、杖だよね」


 ボソッと呟くと、部屋の隅から隅まで視線を巡らせ、杖の代わりになりそうなものを探した。すると、タンスの横にあった細長い戸棚が目に留まる。


「あそこ、なにが入っていたかな……」


 開けてみたところ、中にあったのは掃除道具。


 入寮時に一度確認したものの、室内の清掃は不在時にメイドが定期的に行なっているため、その存在をすっかり忘れていた。


「これでいけるかな……」


 ほうきとモップを手に取り、しばし眺める。


 柄の部分は木製であるため、強度が十分ではないかもしれない。しかし、背に腹は代えられぬ。ということで、折れぬことを祈りつつ使うことにした。


そして、手に一つずつ持ち、穂先を上にして部屋を歩き回ってみる。腕の力を結構使うものの、何とかなりそうであった。


 床に足をつけぬように気をつけながら、普段着に着替えた私は、部屋を後にすると、それらを使って慎重に階段を下りていく。少し時間はかかったとはいえ、無事に一階に到着した。続いて、玄関へ歩を進めたところ、違和感を感じる。


 先程、下りた時には気づかなかったものの、ガラス張りの扉であるにもかかわらず、外の景色が一切伺えない。疑問に思いつつも、気づかれぬ間に、迅速かつ慎重に行動を開始する。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は十月十五日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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