第59話、意味不明、翌日寮から出られない。1
「ねぇ、アカリ、なにやらかしたの」
翌日、この言葉でたたき起こされた。
「うーん、ミナ、おはよう。なんのこと?」
「アカリとソウナさん、無期限外出禁止って、壁に掲示されてるよ」
言っていることが理解できず、間抜けな声が出てしまう。
「はぁ?」
確認するべく、一階へ向かおうとベッドより飛び起きる。そして床に足をつけた次の瞬間、心を砕くような激痛に見舞われた。すぐに叫び声を上げながら、のたうち回る。
「ぎゃああああ! 昨日、足を挫いたこと、すっかり忘れてた」
「相変わらず、おっちょこちょいねって、うわっ、なにこれ、すっごく腫れてるよ」
ミナにそう言われて、目を落とす。足首の外側、くるぶし周囲が真っ赤に腫れていた。寝てる間に冷やしておけばよかったと後悔しつつ、声を絞り出して話しかける。
「ご、ご、ごめんミナ、ちょっと肩貸してくれる?」
「うん、いいけど……歩けるの」
「無理なら、這ってでも行く」
そう告げたところ、正論を述べられた。
「アカリ、それ、階段下りられないよ」
「まあね、それくらいの気持ちってこと。だから、お願い」
「うん、わかった」
部屋を後にした私たちは、時間をかけて慎重に階段を下っていく。そして一階に降り立つと、掲示されている場所に、すぐさま足を運び、文章を確認した。
「えっと、なになに。左記の者、無期限の外出禁止とする。アカリ、ソウナ」
読み終えて間もなく、わなわなと怒りが込み上げ、声を荒げる。
「なんで私たちが処分されなきゃならないのよ!」
これは、一言言わねば気が済まない。処分を下したであろうシエンがいる王立図書館に、乗り込むことを即座に決断した。その最中、ミナの言葉が耳に留まる。
「なんでだろうねー。でも、心当たりないの、アカリ」
「えっと……あるといえば、あるんだけど」
公園での出来事はさすがに話せず、返答に困ってしまう。しかし、これで一気に冷静さを取り戻した。
状況を頭の中で整理する。この足の状態では、介助なしに到底歩けない。王立図書館へ向かうにせよ、付き添いを頼めそうなのは、ミナの他には考えられず。さりとて、連れて行ってもらったところで、話を聞かれるのはまずい。
思いとどまり、一人で辿り着けるよう対策を講じるべく、ひとまず部屋へ戻ろうと口を開く。
「しょうがないなぁ、どのみち今日は授業ないし、部屋で自習しよう」
「それがいいよ」
下りる時と同様、ミナの肩を借りてゆっくり階段を上る。自室へ戻った際、本日は木曜日であることにふと気づき、すかさず声をかけた。
「あっ、そうだ。ごめんミナ、今日は授業の終わりに迎えに行けそうにない」
「えっ、言わなくても分かるよ。アカリ、外出禁止だもん。それに、その足だとね」
ミナにそう言われ、ハッとなり、笑って誤魔化す。
「……だよね。ははは」
どうやら王立図書館へ向かうことに気を取られ過ぎて、自分の置かれた状況を一切考えず、無意識のうちに発言してしまったらしい。
「じゃ、お大事にね。アカリ」
「うん、ミナ。ありがとね」
ミナが退出した後、イスに腰を下ろし、思案する。
「やっぱり、杖だよね」
ボソッと呟くと、部屋の隅から隅まで視線を巡らせ、杖の代わりになりそうなものを探した。すると、タンスの横にあった細長い戸棚が目に留まる。
「あそこ、なにが入っていたかな……」
開けてみたところ、中にあったのは掃除道具。
入寮時に一度確認したものの、室内の清掃は不在時にメイドが定期的に行なっているため、その存在をすっかり忘れていた。
「これでいけるかな……」
ほうきとモップを手に取り、しばし眺める。
柄の部分は木製であるため、強度が十分ではないかもしれない。しかし、背に腹は代えられぬ。ということで、折れぬことを祈りつつ使うことにした。
そして、手に一つずつ持ち、穂先を上にして部屋を歩き回ってみる。腕の力を結構使うものの、何とかなりそうであった。
床に足をつけぬように気をつけながら、普段着に着替えた私は、部屋を後にすると、それらを使って慎重に階段を下りていく。少し時間はかかったとはいえ、無事に一階に到着した。続いて、玄関へ歩を進めたところ、違和感を感じる。
先程、下りた時には気づかなかったものの、ガラス張りの扉であるにもかかわらず、外の景色が一切伺えない。疑問に思いつつも、気づかれぬ間に、迅速かつ慎重に行動を開始する。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は十月十五日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




