第57話、公園で大立ち回り、足くじく9
「万が一のことがあっても、彼らは不敬罪ということで私は免責となります。問題ありません」
「ちょっと! 縁起でもないこと言わないでください」
「冗談ですよ、冗談」
「もう! 程があります」
その後、シエンは傍に来た際、ぼそっと囁く。
「しかしアカリ様、結構どんくさいですね。ふふっ」
突然からかわれたことに対し、それは最後だけであろうと、思わず声が出る。
「はあ?」
人相手に戦闘を行うのは初めてであったため、善戦したことを褒めろとまでは言わないものの、せめて労いの言葉くらいかけてほしい。
「もっと他に言うことあると思うんですけど……」
しかし、催促する私の言葉を気に留める様子もなく、シエンは横たわっている黒服を見下ろしながら話し始めた。
「主に命令されたにせよ、か弱き乙女を相手に、大の大人が二人がかりで臨むとは……開いた口が塞がりませんね」
どうやら、聞き流されてしまったようである。不満を抱きながらも、諦めて口をつぐむ
「それに加え、護衛ともあろうものが、力量もわきまえず、主人より離れて動けなくなるというあるまじき失態……呆れてものも言えません」
饒舌に語るシエンの説教は終わりそうにない。早く問題にけりをつけたい私は、そっと背を向けると、足の痛みに耐えつつ、ハクの元へゆっくり歩を進めた。
足を運んでいる間にも、背後から言葉が刻々と聞こえてくる。
「アカリ様が本気を出されておられれば、あなたたちはその程度では済んでいませんよ。その慈悲深さに感謝しなさい」
間断なく告げているものの、倒れた際の状態を見る限り、当の本人たちの耳には一言も届いていないであろう。
そして、頑張って中程までやってきた時、頭にポンと、なにかを置かれる感触に見舞われる。それを確認する暇もなく、続いてシエンの言葉が耳に留まった。
「まあ、後はお任せください」
そう言い残すと、すっと私を追い越して先へ行ってしまう。程なく、ハクと対峙したシエンから話し声が聞こえてきた。
「さて、面倒なことを起こしてくれましたね」
「なんだ、貴様は」
「王立学園の学長ですが……御存じない」
「知らねえよ」
「あなたは二年半ほど在籍しているというのに……そうですか」
後頭部を人差し指で少し掻き、シエンは続ける。
「ここで提案なのですが……私、忙しいので、これ以上仕事を増やしたくないのですよ。残り数カ月、おとなしくしていただけたら、この件は不問にいたしますが……いかがです」
「ふん、なら暇にしてやるよ。俺がオヤジに頼んで、即刻首にしてやる」
「首……ですか。いいですね。魔法の研究が捗りそうです。ただ、あなたの父親では、私を解任させるなどできませんよ」
「俺のオヤジは領主だぞ」
「存じておりますよ。学長たるものが、生徒の家族構成を知らないとでもお思いですか」
ここで私は、ようやくみんながいる場所へ辿り着いた。
憂慮させたであろうソウナを安心させるべく、微笑みかけた後、静観するため、その横へ静かに腰を下ろす。すると、不意に話しかけられる。
「アカリさん、怪我はありませんか」
尋ね方からして、足を捻ったことには気づいていない様子であった。
「大丈夫、大丈夫、ちょっと疲れただけ」
そう言ってはぐらかし、二人のやり取りに耳を傾ける。
「勘違いしているようなので、はっきり言ってあげましょう。私が仕えているのは教育特区の領主、シドウ様であり、あなたの父親ではありません。それゆえ、学長を解任する権限など、持ち合わせていないのです」
シエンが言い終えると、突如、矛先がこちらへ向いた。
「なら、お前の家をめちゃくちゃにしてやる。親の仕事も潰してやる」
こちらに差し示されたハクの指を目にして、驚きの声を上げる。
「えっ、私?」
「他に誰がいるんだよ」
しかしながら、これは中々の難題。ハクは知らないとはいえ、父親は同じく領主である。あまりの可笑しさに、噴き出しそうになりながらも、その問いにどう答えればよいのか分からず、首を傾げて呟く。
「えっと、できますかね……」
その言葉に、シエンがすかさず応える。
「無理でしょう。領主を解任するとなると、国王くらいしか考えられません」
「ですよね」
やり取りを進めていたところ、ハクが口を挟んできた。
「お前ら、なに訳の分からないことぐだぐだと……」
言い終える間もなく、シエンが遮る。
「あなた、鈍感にも程がありますね。アカリ様は領主の娘だと言ってるんですよ」
すると、ハクが応えるよりも先に、横にいるソウナが声を上げた。
「えっ、そうなのですか」
驚くのも無理はない。髪の色のこともあり、注目されるのが苦手であったため、私は身分を明かすことを極力避けている。それに加え、入寮制限がある中、数少ない在寮者に領主の娘が二人も住んでいるなど、確率的にあり得ない。
ゆえに、ソウナは知る由もなかった。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は十月五日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




