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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
四章、ごたごた編

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第57話、公園で大立ち回り、足くじく9


「万が一のことがあっても、彼らは不敬罪ということで私は免責となります。問題ありません」

「ちょっと! 縁起でもないこと言わないでください」

「冗談ですよ、冗談」

「もう! 程があります」


 その後、シエンは傍に来た際、ぼそっと囁く。


「しかしアカリ様、結構どんくさいですね。ふふっ」


 突然からかわれたことに対し、それは最後だけであろうと、思わず声が出る。


「はあ?」


 人相手に戦闘を行うのは初めてであったため、善戦したことを褒めろとまでは言わないものの、せめて労いの言葉くらいかけてほしい。


「もっと他に言うことあると思うんですけど……」


 しかし、催促する私の言葉を気に留める様子もなく、シエンは横たわっている黒服を見下ろしながら話し始めた。


「主に命令されたにせよ、か弱き乙女を相手に、大の大人が二人がかりで臨むとは……開いた口が塞がりませんね」


 どうやら、聞き流されてしまったようである。不満を抱きながらも、諦めて口をつぐむ


「それに加え、護衛ともあろうものが、力量もわきまえず、主人より離れて動けなくなるというあるまじき失態……呆れてものも言えません」


 饒舌に語るシエンの説教は終わりそうにない。早く問題にけりをつけたい私は、そっと背を向けると、足の痛みに耐えつつ、ハクの元へゆっくり歩を進めた。


 足を運んでいる間にも、背後から言葉が刻々と聞こえてくる。


「アカリ様が本気を出されておられれば、あなたたちはその程度では済んでいませんよ。その慈悲深さに感謝しなさい」


 間断なく告げているものの、倒れた際の状態を見る限り、当の本人たちの耳には一言も届いていないであろう。


 そして、頑張って中程までやってきた時、頭にポンと、なにかを置かれる感触に見舞われる。それを確認する暇もなく、続いてシエンの言葉が耳に留まった。


「まあ、後はお任せください」


 そう言い残すと、すっと私を追い越して先へ行ってしまう。程なく、ハクと対峙したシエンから話し声が聞こえてきた。


「さて、面倒なことを起こしてくれましたね」

「なんだ、貴様は」

「王立学園の学長ですが……御存じない」

「知らねえよ」

「あなたは二年半ほど在籍しているというのに……そうですか」


 後頭部を人差し指で少し掻き、シエンは続ける。


「ここで提案なのですが……私、忙しいので、これ以上仕事を増やしたくないのですよ。残り数カ月、おとなしくしていただけたら、この件は不問にいたしますが……いかがです」

「ふん、なら暇にしてやるよ。俺がオヤジに頼んで、即刻首にしてやる」

「首……ですか。いいですね。魔法の研究が捗りそうです。ただ、あなたの父親では、私を解任させるなどできませんよ」

「俺のオヤジは領主だぞ」

「存じておりますよ。学長たるものが、生徒の家族構成を知らないとでもお思いですか」


 ここで私は、ようやくみんながいる場所へ辿り着いた。


 憂慮させたであろうソウナを安心させるべく、微笑みかけた後、静観するため、その横へ静かに腰を下ろす。すると、不意に話しかけられる。


「アカリさん、怪我はありませんか」


 尋ね方からして、足を捻ったことには気づいていない様子であった。


「大丈夫、大丈夫、ちょっと疲れただけ」


 そう言ってはぐらかし、二人のやり取りに耳を傾ける。


「勘違いしているようなので、はっきり言ってあげましょう。私が仕えているのは教育特区の領主、シドウ様であり、あなたの父親ではありません。それゆえ、学長を解任する権限など、持ち合わせていないのです」


 シエンが言い終えると、突如、矛先がこちらへ向いた。


「なら、お前の家をめちゃくちゃにしてやる。親の仕事も潰してやる」


 こちらに差し示されたハクの指を目にして、驚きの声を上げる。


「えっ、私?」

「他に誰がいるんだよ」


 しかしながら、これは中々の難題。ハクは知らないとはいえ、父親は同じく領主である。あまりの可笑しさに、噴き出しそうになりながらも、その問いにどう答えればよいのか分からず、首を傾げて呟く。


「えっと、できますかね……」


 その言葉に、シエンがすかさず応える。


「無理でしょう。領主を解任するとなると、国王くらいしか考えられません」

「ですよね」


 やり取りを進めていたところ、ハクが口を挟んできた。


「お前ら、なに訳の分からないことぐだぐだと……」


 言い終える間もなく、シエンが遮る。


「あなた、鈍感にも程がありますね。アカリ様は領主の娘だと言ってるんですよ」


 すると、ハクが応えるよりも先に、横にいるソウナが声を上げた。


「えっ、そうなのですか」


 驚くのも無理はない。髪の色のこともあり、注目されるのが苦手であったため、私は身分を明かすことを極力避けている。それに加え、入寮制限がある中、数少ない在寮者に領主の娘が二人も住んでいるなど、確率的にあり得ない。


 ゆえに、ソウナは知る由もなかった。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は十月五日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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