第56話、公園で大立ち回り、足くじく8
「やってくれるわね」
そう告げて向き直った直後、黒服が飛び上がり、蹴り込む姿が目に入った。右足の魔石を発動させ、間一髪回避する。
図らずも、接近戦に持ち込まれてしまった。
着地した黒服は、投げつけてきた棒を足で蹴り上げ、器用に手中へ収めると、頭上に掲げ、振り下ろす。カシャン、カシャンと音を立てながら伸びていく様を見て、ただの棒でなかったと、遅まきながら気づく。あれは、三段式の警棒。
その後、すぐさま横殴りの攻撃が飛んできた。
瞬時に武器の軌道を見極め、腕を十字に重ね合わせる。続けて、ガントレットの魔石を発動させたところ、打ち込まれた警棒が風にぶつかり、キンキンキンキンと金属音が響き渡った。
「うおおおおお」
競り合う最中、黒服は雄たけびを上げつつ、すかさず圧力をかけてくる。
「ぐうう……重い」
必死にこらえたものの、大人の男性と子供の女性の力は歴然。力及ばず、両腕は弾かれてしまう。そして黒服は、無防備の状態になった身体めがけ、ここぞとばかりに再び蹴り込んできた。
ブーツの魔石を発動させ、後ろに飛びながら、左手に精霊を顕現させた私は、着地した瞬間、お返しとばかり腹部めがけて魔法を放つ。
「単式魔法陣、風」
「ぐほっ」
うめき声を上げた後、黒服は膝をつき、動きが止まる。すると、遠くから怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前も、とっとと行けや!」
ハクのその言葉に、残る一人の黒服も手をかざし、突撃してくる。こいつら、一息つく暇すら与えてくれない。
すぐさま迎撃しようと試みるも、魔法の再発動までに少々時間があったため、動向に注意しつつ距離を取る。そして、誰もいない場所へ足を進めていたところ、不意に詠唱が耳に届く。
「単式……」
驚いて目をやると、倒したはずの黒服が立ち上がり、手をかざして精霊を呼び出していた。
「魔法陣、炎」
放たれた火球を慌てて回避した後、いぶかしみ尋ねる。
「当たったのになんで?」
先ほど私が放った魔法は、瞬時に発動させたため、威力は低かったかもしれない。とはいえ、短時間で動けるほど弱いはずはない。
「これだよ」
そう応えた黒服は上着を片手で開く。すると、分厚い保護具のようなものが目に留まる。またまたしてやられた。要するに、膝をついたのも演技ということである。これで大人相手に二対一。状況はかなりやばい。
そして気を取られた隙に、こちらに向かっている黒服が魔法を放ってきた。
「単式魔法陣、炎」
避けるべく、急いでブーツの魔石を発動させる。しかし、着地した際、なにかに足を取られた。
「わっ、たったったった」
声を発しながら姿勢を制御して、倒れぬよう踏ん張ったものの、重力には勝てずその場に尻もちをついてしまう。すぐさま地面より、消え入りそうな声が漏れ聞こえる。
「い、痛いでぶ」
見やったところ、そこにいたのは歯の欠けた生徒。言葉にカチンときた私は、馬乗りになり、胸倉を掴んで引き寄せ、怒鳴りつけた。
「デブ? 失礼ね! 私、太ってないわよ!」
思いっきり張り倒し、立ち上がろうとした時、ズッキーンと足に激痛が走り、地面にうずくまる。まずい、どうやら捻ったらしい。冷や汗が頬を伝っていく。
動きが止まった私に、黒服たちが近づいてきた。
「これまでのようだな」
そう言った後、黒服の一人がハクの方へ振り返る。次の瞬間、ハクは立てた親指を下に向けた。どうやら、やってしまえという合図らしい。諭すように、黒服が語り出す。
「恨みはないが、こちらも生活がかかっているのでね」
潮時のようである。
「そう……仕方ないわね……」
小さく呟いた私は、大きく息を吸い込み、両手を口元に当てると、公園中に響き渡る声で呼びかけた。
「ちょっと、そろそろ助けなさいよ。いるのでしょう?」
即座に、どこからともなく声が響いてくる。
「仕方ありませんね、ご命令とあらば。単式魔法陣、雷」
さらに、間髪入れずに詠唱が轟く。
「単式魔法陣、雷」
ジグザグに動く黄色い魔法弾が各々に突き刺さると、黒服たちは瞬く間に突っ伏した。
「こんなものでよろしいでしょうか、アカリ様」
声のする方へ視線を向けたところ、そこにいたのはシエンであった。
とはいえ、そう聞かれたとて、返事に困ってしまう。横たわる二人から、白い煙のようなものが微かに立ち上り、ピクリともしない。指を差し、恐る恐る尋ねる。
「あのー、シエン様? この人たち、生きてますよね?」
「一応、加減してますよ」
しかし、自業自得とはいえ、さすがにやりすぎではないであろうかと思ってしまう。困惑している最中、シエンはこちらに足を進めつつ、恐ろしいことを口にした。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は九月三十日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




