表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
四章、ごたごた編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/69

第55話、公園で大立ち回り、足くじく7


「ごめんなはい、ひゅるひてください」


 さらに意味の分からない言葉を聞き、怒りが爆発する。


「あんた、ふざけてるの!」


 そう言うと、生徒は両手を突き出し左右に振り、大きく口を開け、指で中を示した。歯が欠けて、数本無くなっている。


「それで上手く喋れないのね」


 私の言葉に大きく頷く。そして、ボソボソと話し出した。


「あの時折れまひた」

「あの時?」


 よく見ると廊下でビンタした生徒である。


「知らないわよ! あんたが髪を引っ張ったからでしょう!」

「野蛮でふ」

「うっさい!」


 カチンときたため、そう言って胸倉を掴み、すぐさま張り倒す。すると、白目を向き、ふらついた後、どさっと倒れた。


「ったく、癇に障るなぁ」


 そう呟いた後、ジンジンと痺れた手を振りつつ、折れた傘をポイっと投げ捨てる。そして、ハクへ視線を向けたところ、その近くで内股でぺたんと座り込み、固まっているソウナが目に留まった。にこっと微笑んでから、元気よく呼びかける。


「すぐ終わらせるから、待っててねー」


 すると、ハクの叫ぶ声が響く。


「おい、ぼさっと見てないで、お前らもさっさと行け」


 そう言ってけしかけるものの、黒服の男性たちは顔を見合わせ、動かない。しびれを切らしたのであろうか、さらに言葉を続けた。


「お前ら首にするぞ」


 その一言に、黒服の一人が前に歩み出ると、すぐに手をかざし、精霊を顕現させる。程なく、うっすら赤く光り始めた。


 それを目にして、魔法で相殺するべく迎撃体制を取る。


 教科書通りであれば、火系には先ほど生徒が使用した水系が定石。しかし、精霊を所有しているとはいえ、水系は使い慣れていない。あえて風系で対処しようと試みる。


「単式魔法陣、炎」


 迫りくる火球に慌てることなく、冷静に狙いを定め、即座に放つ。


「単式魔法陣、風」


 風切り音を立てて飛んでいった魔法弾は、寸分違わず命中する。そして、火球を取り込み、勢いを失うことなく、そのまま飛んでいった。


 どうやら、私の威力が勝ったようである。


 その後、黒服の横をかすめ、背後にあった馬車に激突した。すると、けたたましい嘶きとともに火の手が上がる。それを見て、思わず声が出た。


「あっ、これはまずいかも……」


 キラキラしているとはいえ、馬車は主に木材で作られている。このまま見ぬふりをしてしまうと、燃え尽きそうであった。車室はどうでもいいものの、繋がれているお馬さんは逃げられない。


 可哀想ゆえ、ひとまず指摘する。


「ねぇ、ちょっと、あんたたち、後ろ大惨事よ」

「あぁん」


 怪訝な声を発したハクが振り返り、直後に叫ぶ。


「お、俺の馬車が。お前ら、早く消せ」

「は、はい」


 返事をした黒服たちが水魔法を放ち、消火し始めた。


 率直に言って、ここで仕掛ければ楽勝。とはいえ、先ほど放った魔法の威力から実力を推し量るに、そのようなことをせずとも、容易であろうと静観する。


 しかしながら、火の勢いは一向に衰えない。しびれを切らし、怒鳴った。


「もう、遅いわね! いつまでやってんのよ!」


 そして、左手に顕現させた精霊に全力で魔力を込め、馬車の上空へ魔法を放つ。


「単式魔法陣、水」


 大きな水の塊が飛び出し、遅いながらも放物線を描き、火元へ向かう。すると、不意に感嘆の声が上がる。


「おおっ」


 無駄に疲れた。成り行きを見守ったところ、見事に命中し、バシャンと水しぶきを上げる。火が収まったのを見て、誇らしげに告げた。


「私にかかればこんなものね!」


 上手くいったと思ったのも束の間、ボキッという音の後、ギイイッと響かせながら、馬車が傾く。どうやら、魔法の勢いで車軸が折れたらしい。全く、豪華なくせに、ひ弱な馬車である。


「まぁ、火が消えたから良いよね……」


 そう話しかけると、ハクが口を開く。


「良くねえよ、俺、どうやって帰るんだよ」


 そう聞いて、失態を誤魔化すように、恩着せがましく語りかけた。


「どっちにしろ、燃えたら乗れないでしょ! 助ける義理もないのに手を貸してあげたんだから、あんた少しは感謝しなさいよ!」


「あーあ、やっぱこいつ鬱陶しい。お前ら、さっさとあいつ始末しろ」


 ハクがそう言ったところ、先ほど魔法を放った黒服が、腰のあたりからなにやら取り出し、こちらに投げつけてきた。空中をクルクル回りつつ、私の頭上を越えていく。


「ん? 棒?」


 落下したものを確認するため、振り返る。そして歩み寄り、腰を屈めて拾おうとした時、タッタッタッタッタッと迫りくる足音が耳に届いた。


 姿勢を正し、音のする方へ視線をやる。気を取られた隙に、黒服がこちらに向かって走ってきていた。とはいえ、まだまだ距離はある。落ち着き払い、魔法で対処しようと手をかざした。


 その最中、黒服が叫ぶ。


「今だ、やれ」


 警戒感を抱き、急いで周囲を確認する。ハクの近くにいるもう一人の黒服は動いていない。そうなると、先ほど倒した四人の生徒。再び振り返り、見やったところ、全員地面に横たわっていた。


 間違いなく私の気を逸らすための虚言。こいつはなかなかの策士である。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は九月二十五日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ