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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
四章、ごたごた編

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第52話、公園で大立ち回り、足くじく4


「あぁ、そうだ。生徒の行動は常に把握するよう、シドウ様に厳命されていたのをすっかり失念しておりましたー」


 そう言ってシエンは私を追い越し、先を行く。


 完全に棒読みの発言である。三文芝居も甚だしい。とはいえ、協力する気があるのなら素直に最初から言ってくれればと、少しもやもやしてしまう。


 そして、寮へ入ったシエンは警備員室の前で告げた。


「王立学園学長のシエンです。今年度の帰宅時間を記録してある台帳を拝見したい」


 その一言に、ガタガタっと音を立て、女性警備員はイスより立ち上がる。その後、敬礼しつつ、返事した。


「か、かしこまりました」


 話し方といい、態度といい、明らかに動揺が見て取れる。


 しかしながら、学園においてシエンはジュジュの上役であるため、閲覧には問題ないのであろうか。正直、解せぬ。


 女性警備員は台帳を手に、即座に部屋から出てくると、深々と頭を下げつつ差し出した。受け取ったシエンは、ページをパラパラめくって返却し、礼を述べる。


「ご協力ありがとうございました」


 時間にして数秒。あまりの速さに、ちゃんと確認したのであろうか、少々不安になった。そして、受け取った女性警備員は丁寧に返事をする。


「お、お役に立てて、光栄でございます」


 ここでふと、顔が赤くなっていることに気づく。それほど緊張するものなのかと思いながら、先ほどあしらわれたお礼とばかりにからかう。


「えっと、閲覧の許可は、ジュジュ先生かユウコ様とおっしゃっていましたよね?」

「それは、ジュ……」


 女性警備員が言い終わる前に瞬時に言葉を被せる。


「シエン様は、特別ですか?」

「ち、ち、違います」

「へー、どうなのでしょうかね」

「アカリ様、その辺りで」


 楽しくなってきたところで、制止された。溜飲も下がり満足したため、諫言に従い、会話を止める。しばし沈黙の後、シエンはポンと手を叩き、声を上げた。


「そうそう、ここまで来たついでに寮内の視察も行います。よろしいですね?」

「では、ご同行いたします」


 そう告げた女性警備員を手で制し、シエンはとんでもないことを口にする。


「いえいえ、将来、私の上司になられるお方に、学園のことを勉強していただかないといけませんので。アカリ様、少しばかりお手伝いを願います」

「えっ?」


 またもやこの話題。ここまでくると、シエンは本気で私を領主に据えようと考えているとしか思えない。


「何か問題でも?」


 しかし、そう問われたとて、この場を穏便に済ませるには、受け流すしかない。


「いえいえ」

「ところでアカリ様、何か書き留めるものはお持ちですか?」


 静かに首を横に振ったところ、シエンは懐からペンと手帳を取り出し、私に手渡す。


「そのペンは、非常に大切なものなので、丁寧に扱ってくださいね。では、参りましょうか」


 そう言って、足を進める。そして、食堂へ到着した後、すぐに話しかけてきた。


「これから私が言うことを、書き留めて頂けますか?」

「はい、わかりました」


 返事をして手帳を開き、用意を整える。すると、シエンは食堂内をゆっくり歩きながら語り出した。


「四月、月曜二週午前十時出、十二時帰……」


 これは、ソウナの外出記録に違いない。背を追いながら、一字一句聞き漏らさぬよう、必死に手帳に書き留めていく。


 しかし、あの一瞬で暗記したことにもさることながら、一言も詰まることなく、流暢に日時を述べる才能に、驚きを隠せない。


 そして、厨房の前に来たシエンは、料理人に尋ねる。


「何かお困りの点は?」


 料理人は、ありませんと言わんばかりに片手に持った包丁を左右に振ると、会釈をしたシエンは、食堂を後にした。


 続いて、トレーニングルームのドアの前に立ち、ちらっとこっちを見る。私はそっとドアを開けて覗き、中を確認して声をかけた。


「シエン様、誰も居ませんよ」


 立ち入ったシエンは、周りに目を配りながら足を運び、淡々と時間と日時を告げていく。そして部屋を出たところで、こちらに振り返る。


「以上になります」


 そう言って、シエンは軽く頭を下げた後、笑みを浮かべた。


 大切なものといっていたゆえ、私は返却するのを忘れないよう、先にペンを差し出し、礼を述べる。


「これ、ありがとうございました」


 すると受け取ったシエンは、さらりとまつわる話を口にした。


「それ、書きやすいでしょ? 私がシドウ様にお仕えした時、記念に頂いたものです」


 ここで、ふと思う。以前より感じていたものの、主君である父親のシドウへ対する振る舞いは、一貫して敬意に満ちている。


 私が娘でなかったならば、協力は得られなかったかもしれない。そう考えると、父親には感謝の念を抱かずにはいられない。


 そして、手元に残った手帳を、どうすればいいのか分からず眺めていたところ、話しかけられた。


「それは、ご自分で解決したいでしょうから、ひとまずお預けいたします」


 その言葉に、深くお辞儀をして、礼を述べる。


「シエン様、本当にありがとうございました」

「こちらこそ、学園の問題に対処していただき、大変感謝しております」


 そう言って、深々と頭を下げたため、私も再びお辞儀をした。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は九月十日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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