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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
四章、ごたごた編

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第51話、公園で大立ち回り、足くじく3


「では、現時点までに分かっていることを話しなさい」

「講師陣及び本人への聞き取りの結果では、これは学園内での出来事ではありません」


 当初より授業の可能性は除外していた。


 以前に授業を見学した限り、無茶しそうな講師といえばジュジュである。しかし、魔術科の授業といえば、これまでマラソンのみであった。あのような怪我をすることは、考えられない。


「それは、貴族育成科も含めてのことでしょうか?」


 午前の魔導鍛冶科で、イツキにやんわりと尋ねてみたものの、あれ以降出席していないと聞き、状況が把握できなかったゆえ、確認を取る。


「はい、そうなります」


 続いて、先ほど口にした言葉で、知りたかった点も念押ししてみた。


「本人への聞き取りって、ソウナにも尋ねられたのですか?」

「当然でございます。意識が戻った後、傷の手当てをしながら真っ先に聞き取りを行いました」

「ソウナは、何と言っていましたか?」

「自主練習で負った怪我なので、大事になされぬようにと。真に受けておりませんが」

「わかりました。シュニン、ご苦労様です」


 軽く頭を下げ、出口のドアへ足を進める。そして、教室を出た瞬間、どっと汗が噴き出した。


「はー、芝居とはいえ、年上の人にあんな態度取るのって、心臓に悪いよね。さて、これからどうやって調べようかな……ソウナって、普段何してるかわからないし……」


 ここで、寮の規約を思い出す。外出時は、帰宅時間を知らせること。記録を見れば、何か分かるかもしれない。そう考えて急いで寮へ戻り、警備室で尋ねる。


「規則により、それはお見せできません」


 女性警備員の返答は想定内であった。先ほどと同じく、立場を利用した作戦に出る。


「私は、教育特区領主シドウの娘です」

「はい、存じております」

「学園で不祥事が起こった可能性があります。このことは父の名誉にかかわりますので、問題を把握するためにご協力ください」

「ご事情は承知いたしましたが、私の所属は魔導騎士団になります。閲覧には団長のジュジュ様、もしくは開拓特区の領主、ユウコ様の許可をお取りください」

「ええっ!」


 とんだ無茶振りである。ジュジュは父親の部下ではない。


 事情を話し、仮に許可が下りたとしても、後々面倒なことになりそうな予感しかしない。それよりも、あの性格から憤慨して暴挙に出そうである。


 そして、名前は聞き及んでいるものの、顔も知らなければ所在も分からない開拓特区の領主の許可など、取れるはずもない。


 とはいえ、ここで引くわけにもいかず、ごり押ししてみる。


「しかし、学園は教育特区領主である私の父の管轄ですよね?」

「はい、そうなります」

「では、お見せなさい」

「王都の治安に関しましては、開拓特区領主の専権事項となっております。外出台帳も、寮生の安全のため、行動を記しているものでありますから、許可なく閲覧させることは致しかねます。ご了承ください」

「ぐぬぬ……」


 予定が狂った。埒が明かないため、ひとまず退散しようと思い立つ。


「了承いたしました。お手数をお掛けして、申し訳ありません」

「こちらこそ、ご協力できず、申し訳ございません」


 そそくさと部屋に戻り、ベッドに飛び込む。そして、悔しさのあまり、大声で叫んだ。


「何で寮の警備が騎士団なのよ! もう」


 ごろごろ転がり、気を静めた後、しばらくして身体を起こす。


「なんで、こんなに必死になってるんだろう……」


 そう言って、バタッとベッドに倒れ込み、枕に顔をうずめ、呟く。


「なんか、ほっとけないんだよね……あの子。しかし、何かいい方法は……あああああ」


 両手で頭を掻きながら悩んでいるうちに妙案が浮かんだ。


「あっ! そうだ、シエン様にお願いしてみよう」


 急いで部屋を飛びだした私は、階段を駆け下り、女性警備員に帰寮時間を告げて、王立図書館へ駆け出す。


 入館した後、館内を捜索し、シエンの姿を探した。そして発見すると、すぐさま声をかける。


「シエン様、お願いしたいことがございます。女子寮の外出時間を記録している台帳を見たいのですが、どうにかなりませんか?」


 シエンは腕を組み、顎に手を当て、ため息をついた。


「何を言い出すかと思えば、そのようなもの、一生徒に見せられる訳がありません」

「そうですか……」


 当てが外れたようである。領主代行であるシエンには、シュニンや女性警備員のときのような口上は使えない。がっくり肩を落とし、踵を返す。


 失意の中、寮へ戻ろうとした時、不意に呼び止められた。


「アカリ様、とりあえず、事情をお伺いいたしましょうか」


 貴族育成科の出来事や、ソウナの腕や腹部に打撲痕があることなど、一通り説明したところ、聞き終えたシエンが口を開く。


「事情は分かりました」

「では」

「残念ですが、無理なものは無理でございます」


 それならば、話した時間が無駄である。なぜ聞いたのであろうか。


「もう、暗くなります。私が寮までお送りいたしましょう」


 そう告げられた私は、シエンとともに王立図書館を後にして、重い足取りで寮へ向かって歩いた。そして、玄関前に着くと、軽く頭を下げ、礼を述べる。


「お送りいただき、ありがとうございました」


 しかし、寮へ立ち入ろうと歩を進めた次の瞬間、シエンは予想を覆す行動を取るのであった。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は九月五日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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