第49話、公園で大立ち回り、足くじく1
「う~ん」
目を覚ますと、大きく伸びをして、時計に視線を合わせる。時刻は十六時を指していた。
「精霊さん、おはよう。ちょっと寝すぎちゃったかな……」
いつものように声をかけ、差し出した掌に消えゆく姿を見届けた後、ベッドを出る。空腹のためか、不意にグーと音が鳴った。
「ごはん食べたいな……」
しかし昨日は魔術科の授業の日。ミナの体調が心配であったため、食堂へ向かう前に、ひとまず様子を見にいくことにした。普段着に着替え、部屋を訪れると、ドアをノックして声をかける。
「ミナ、調子はどう?」
「あ、おかえり、アカリ。授業楽しかった?」
「うーん、何しに行ったのか、よくわからなかった」
「ふーん、そうなんだ」
「話したいことはたくさんあるんだけれど、さっきまで寝ていて、ちょっとお腹空いたから、先にご飯食べたいんだ。ミナも行く?」
「筋肉痛で、まだ足がちょっと痛いからやめとく」
「そっか……」
「うん、また後で聞かせてね」
「わかった。じゃ、行ってくるね」
そう告げて部屋を後にし、食堂へ足を運ぶ。するとまた、ソウナと出くわした。
目が合ったため、軽く頭を下げ、気を遣わせぬよう、少し離れた席につく。そして、ちらっと視線をやったところ、顔からポタッポタッと雫が流れ落ちていた。
「汗かな……」
テーブルに置かれている食事は、パンと飲み物であり、辛いものや熱い感じではない。
「暑いのかな?」
しかし、その割に服装は半袖ではなく、長袖である。間もなく食事を終えたソウナが食堂を出る際、横を通ったため、何気なく尋ねてみた。
「ねぇ、衣替えしないの?」
「あ、あなたには関係ありません」
きつい言葉に、思わず立ち上がり、頭を下げ、謝罪する。
「ご、ごめんなさい」
するとソウナは、さっと手で口を押え、消え入りそうな声で告げた。
「いえ、そんなつもりでは……ごめんなさい」
そう言い残し、食堂を飛び出していく。
「ハァ……」
やってしまった。飛び出していったソウナを見送った後、イスに座り直し、提供された食事に手をつける。お腹は空いているはずなのに、どこか味気なかった。
そして、しばらくして食事を終えた私は、ミナの部屋に立ち寄る。
本来であれば、道中で起こった出来事を聞いてもらおうと思ったものの、最早そんな気分ではなかったため、理由をつけて断ることにした。
「ミナ、ご飯食べたら眠くなっちゃった。お話はまた明日ね」
「そうなんだ、残念。おやすみアカリ」
自室に戻ると、イスに腰を下ろし、テーブルに頬杖をつきながら思い悩む。
「他人と生活するのって、大変だな……」
翌日の水曜日、一限は精霊育成科。あいかわらずセイジは眠そうであった。とりあえず急いで聞くことはなくなったゆえ、寝落ちしたのを見計らい、教室を後にする。
続いて、午後の二限の医療健康科をミナと共に受講して、本日の授業は終わった。
木曜日、朝から自習をして、魔術科の授業が終わる頃、ミナを迎えに行く。
学園のグラウンドに到着すると、いつものようにマラソンをしておらず、生徒たちは輪になり、中央に集まっている。珍しいこともあるものだと眺めていたところ、声が聞こえた。
「担架、持ってきました」
横を二人の生徒が駆け抜けていく。
「担架?」
追うように視線をやると、輪が乱れ、誰かが倒れている姿が確認できた。どうやら不測の事態が起こったため、授業を中断しているようである。
すぐにその人が乗せられ、こちらに向かってきた。通り過ぎる際、顔を見て仰天する。搬送されていたのは、ソウナであった。
呼吸が荒く、苦しそうである。どうするべきか一瞬悩んだものの、心配になり、後を追うことにした。
校舎に入り、設置されている案内板で、保健室の場所を確認し、階段を駆け上がる。そして、二階に到着した時、担架を運んでいた二人が、部屋から出てくる姿が見えた。
「あそこね」
すれ違いざまに軽く頭を下げ、急いで中へ進む。すると、シュニンがいた。
「先生、容体は? 大丈夫なんですか?」
焦りつつ話しかけたところ、いつもと変わらぬ口調で諭される。
「アカリ様、少し落ち着いてください」
そう言った後、シュニンはソウナの手を取り、診察し始めた。
「熱っぽいですね。脈も速い。とりあえず、冷やしましょうか」
そう聞いて、居ても立っても居られなくなり、口を開く。
「先生、私にも手伝わせてください」
「では、お願いできますか」
「何をすればよろしいのでしょうか?」
「私は他の準備をいたしますので、彼女の上着を脱がせてください」
「わかりました」
返事をして上から順番に運動着のボタンを外していく。それが終わり、肌着があらわになった際、ふと言葉が口に出る。
「スタイル良いな……少し、分けてくれないかな……」
「アカリ様、何かおっしゃいましたか?」
離れて作業していたシュニンに問われ、慌てて応えた。
「い、いえ、なんでもありません」
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は八月二十六日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




