第48話、山がある、煙突もある像も……あれ?13
床にあるつるはしを拾い上げた時、ふと浮かぶ。これは魔法を使って採掘できないものであろうか。意外といけるような気がしたため、立ち止まり、精霊を顕現させて、軽く魔法弾を放ってみた。
「単式魔法陣、風」
岩肌へ命中した後、駆け寄り、確認してみる。
「ダメか……」
傷がつくとはいえ、採掘できるような感じではなかった。普段、冒険者組合の依頼で使用している三日月状の魔法では、全く歯が立たない。
「穴を掘る感じのイメージかな」
違う術式を考えていたところ、遠くからカナの声が聞こえてきた。
「なにしてるの? 置いてくよ?」
「すみませーん。すぐ行きます」
もう少し試してみたかったものの、返事をして振り返り、先に行ってしまったみんなの後を追う。そして、カナは出発した建物へ戻った途端、手押し車を馬車の荷台に積み込む。その後、すぐに告げる。
「じゃ、王都に帰ろっか」
またしても突拍子もないことを口にした。しかし、慣れてしまったのか、驚くこともなく、手に持った工具をカナに見せ、冷静に返事をする。
「えーとですね、これも直していませんし、一晩お世話になったので、お礼を言ってから帰りたいのですが……」
「そう?」
「はい、ぜひ」
建物に歩み寄ったカナは、勢いよく大きな扉を開き、叫ぶ。
「とうちゃん、帰るよ」
「おー、カナ、ご飯できてるよ」
「うん、食べる」
そう応えて、カナは建物に入っていく。
「みんなも食べていきなさい」
おじさんにそう言われて、玄関に工具類を置き、私たちも食事を頂くことにした。そして、終えた後、帰りがけに礼を述べ、帰路へ就くことになる。
夕食後、すぐに出発したというのに、学園のグラウンドに到着したのは、火曜日の朝日が昇る時間であった。荷物を積んだ分、移動速度が遅くなったようである。
「みんな、気をつけて帰ってね」
カナのその言葉で、私たちは解散し、それぞれ家路に着くことになった。
ラクノは寮に住んでおり、帰り道が同じであったため、校内を通り抜け、一緒に裏門まで向かう。そして、別れる際に声をかける。
「私、こっちなので。それではまた」
ラクノは軽く頭を下げ、男子寮の方へ歩いて行く。
それを見て、私も帰るべく、女子寮へ足を進めた。途中で髪を隠すため、頭に巻いてあったスカーフを急いで外し、髪をかき上げて呟く。
「ふー、頭かゆいな、早くお風呂入りたい」
そして、寮に入った後、警備室で帰宅したことを告げ、自室へ向かおうとした時、ソウナに出会う。
「あっ、おはよう……」
声をかけたものの、ソウナは立ち止まることなく、軽く頭を下げたかと思うと、私が全て言い終わる前に、食堂へ入っていった。
あいかわらず、避けられてる気がする。
朝早く他の人もいないこともあり、腰を据えて理由を尋ねてみたい。しかし、今こじらせて、卒業までの長い期間、ギクシャクしてしまうのも、面倒である。
時間は薬ともいうし、馬車に揺られて疲れていたことに加えて、髪を洗いたかったゆえ、気持ちを抑え、二階へ歩を進めた。
部屋へ戻ると、荷物を床に置き、真っ先に浴室へ足を運ぶ。そして服を脱ぎ、シャワーに打たれながら、先ほどのことを考えてみる。しかし、良い案は浮かばない。
頭をワシャワシャ洗い、水を止めて、身体を拭きながら呟く。
「しっかし、何とかならないかな……他の人ともあんな感じなのかな……」
バスタオルを身体に巻き、浴室を出て、着替えを取ろうとタンスを開けた時、そこに見慣れぬ服があることに気がついた。
「あれ、こんな服あったかな?」
取り出し、掲げてみたところ、それは夏用の学生服であった。
そういえば、季節が夏に近づくにつれ、気温も上がり、そろそろ冬服で過ごすのも厳しい。
すぐさま鏡に歩み寄り、前に立つ。そして服を充てがい、姿を確認してみた。薄手の生地になり、袖が短くなるという変化はあるものの、見た目は冬用とあまり変わらない。とはいえ、やはり新しい制服は嬉しいものである。
「ふふふ、明日の授業から着ていこっと」
タンスに戻した後、パジャマを取り出して着替え、ベッドに飛び込む。
「やはり、ここのふっかふか感は最高ね!」
布団に潜り込み、目を閉じて、眠りにつくのであった。
ご拝読ありがとうございます。これにて三章終了となり、次話から四章に突入。
次話更新は八月二十一日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




