第47話、山がある、煙突もある像も……あれ?12
「押します」
振り返ると、ラクノもこちらに来ていた。寡黙ながらも、そのさりげない気配りに感謝する。
「ありがとうございます」
礼を述べた私は、すぐに舞い戻り、カナに声をかけた。
「先生、行きましょう」
「うん」
返事をしたカナは、坑内に入り、先を行く。後ろをついて行ったところ、あちらこちらから、ガンガン叩く音が響いてくる。他にも、複数の人がここで採掘をしているようであった。
時折現れる横穴に目もくれず、カナはひたすら大きな本道を進む。すると、次第に壁より突き出す小さな黒い塊が、ぽつぽつ目立ってくる。
気になったため、近づき確認してみたところ、吸い込まれるような美しい艶があり、三角錐とか四面体と呼ばれる形をしていた。
「なんか、きれいな石ですね」
塊を指で撫でつつ、イツキの気を紛らわせようと話しかける。
「それ、鋼材の原料だよ」
「へー、そうなんだ」
そして、話しながら奥へと進んでいるうちに、少しずつ暗くなってきた。
「そろそろ使おっかな」
カナがそう告げた後、しばらくして、坑内がぽわっと明るくなり、視野が広がる。それを目にして私も使うべく、顔の前にランプを掲げ、構造を確認してみた。
太い紐が液体に浸かっており、ここに点火するのであろうということは理解できたものの、開口部が見当たらない。どうしたものかと、首を左右に傾けながら眺めて、ぽつりと呟く。
「これは、どうやって使えば……」
「アカリさん、底にある魔石に魔力を込めると火が灯るよ」
イツキにそう言われ、ランプの底に目をやったところ、刻印が刻まれた小さな魔石が取り付けられていた。
「これか……ありがとうございます」
礼を述べた後、掌の上にランプを乗せ、ゆっくり魔力を込めてみる。程なく、温かみのある光が周囲を照らした。
見晴らしがよくなり再び足を運び始めると、しばらくして徐々に道は狭くなる。そして、とうとう行き止まりになってしまった。
「さーて、始めるよ。手本見せるね」
そう言ったカナは手押し車からつるはしを取り出し、効果音を口ずさみつつ岩肌へ振り下ろす。
「えいっ、えいっ」
持ってきた工具から想像はしていたとはいえ、やはり力任せという原始的なやり方であった。魔導鍛冶科という最先端をいく技術を扱うというのに別の方法は考えつかなかったのであろうか不思議に思ってしまう。
叩く音が、ガン、ガンと響く中、手持ち無沙汰な私は、それを横目に、ふと転がってきた石を手に取り眺める。所々に先ほど目にした小さな結晶が付着していた。
石を静かに放り投げ、再びカナに目を向けた時、ふと気づく。つるはしを取り回す速度が上がり、打ちつける間隔が短くなっている。
そして、カナが不気味な笑い声を上げた。
「うふふ、うふふ、うふふふふっ」
「あっ、これ、やばい」
イツキがそう叫び、私の手を引っ張る。
「えっ、えっ」
強制的にその場から離されるという突然の行動に混乱している最中、ガンガンガンガンと激しい音とともに石が盛大に飛び散った。前方から飛んでくるものや、壁を跳ね返ったものが顔に当たり、思わず声が出る。
「いたたたたっ」
カナはその声を無視するかのように、一心不乱に岩を砕き続けていた。
すぐに顔を両手で覆い、身を守る。そして、指の隙間から様子を見て、食事の時に機嫌を損ねたままにしておけばよかったと、やや後悔した。
しかしながら、あの勢いで採掘できるのであれば、画期的な工具がなくとも問題ない。そんなことを考えていたところ、やがてカナの動きが止まる。
「ふぅー、いい汗かいた」
そう告げたカナは振り返り、額の汗を腕で拭う。周りには、石が山のように散乱していた。
とりあえず工具類を下ろした後、スコップを使い、手分けして手押し車に積み込むことにする。しかし、どう見ても容量を超えており、全て乗りそうにない。
「うーん、全部積めませんね」
手押し車に石が山盛りになったため、二人に話しかけると、カナがつかつかと近寄ってきた。
「ねぇ、こんなに要らないよ」
そう告げて、手押し車の取っ手を持ち上げる。次の瞬間、ガラガラガラと石が地面に散らばった。
「うそ……」
それなら積む前に言って欲しい。驚きのあまり、両手で口を押えながら、捨てられた石を眺め、放心状態になってしまう。
「じゃ、帰るよ。よいしょ、よいしょ」
そう言い残し、手押し車を押して、カナは来た道を戻っていく。どうやら自分が満足して、私たちに採掘体験をさせることをすっかり忘れているようであった。
とはいえ、壁を工具で叩くだけの作業である。実際に行わずとも問題ないということもあり、指摘せずこの場を離れることにした。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は八月十六日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




