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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
三章、外出編

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第46話、山がある、煙突もある像も……あれ?11

 この話を聞き、ふと思う。今のシエンは、私より身長が高く、余裕で上から見下ろしている。そしてカナは、私より背が低い。ということは、これはかなり前の出来事になるはず。気になったため、尋ねてみた。


「先生、これっていつ頃のお話ですか?」

「えーっとね、十五年くらい前かな」


 私が産まれた頃と同じくらいである。ここで率直に、現場を直接見ていたカナが何歳なのか知りたくなった。女性に年齢を問うのは失礼とは聞くものの、同性ならば問題ないであろうと伺ってみる。


「今、おいくつなのですか?」

「三十……てへ、忘れた」


 結構年を食っていた。その割には、やることなすこと子供じみている。そんなことを思っていたところ、坑内よりゴトゴトと音が聞こえてきた。気になったため、坑口に歩み寄り、覗き込んでみる。


 そこは広く、どこからか光が差し込んでおり、内部を優に見渡せる状況であった。そんな中、奥から二本の棒の上を沿いながら、こちらに近づくものが目に留まる。


「なんだろう、あれ……」


 凝視した私の瞳に映ったのは、足を屈伸させている人の後ろ姿であった。程なく、威勢の良い掛け声も聞こえてくる。


「ほいさ、ほいさ」


 そして、すぐ横を通過した時、思わず声が漏れた。


「あっ、トロッコ」


 形は違うとはいえ、あれは王都の内壁の上を走っていた乗り物。車輪のついた板に乗って操作している人たちは、そこで見た時よりも力強い動きでハンドルを交互に上下させていた。


 続いて、山のように石が積まれた箱が通過する。


「頑張ってるし、あれ重いんだろうな……」


 ここでは人を運ぶのではなく、荷物を運搬するために使用しているようであった。


 その後、キーッという音を立てながら、トロッコは速度を落とし、建物に吸い込まれていく。中の様子が気になったものの、自分が知っている珍しい乗り物をみんなに教えようという気持ちが勝り、声をかけようと振り返る。


 すると知らぬ間に、ラクノの姿があった。


「ねぇ、知ってる? あれ、トロッコって言うんだよ」


 意気揚々と二人に話しかけたところ、予想外の答えが返ってくる。


「知ってるよ」

「そうですね」


 カナはともかく、ラクノまで知っているようであった。この状況に困惑する。


「あれ……えっと、少しお尋ねいたしますが、割と有名な乗り物なのでしょうか?」

「うん」

「はい」


 どうやら私がただ、無知なだけであった。顔が熱い。すぐに恥ずかしさを誤魔化すべく、坑内を指差し声を上げる。


「ここ明るいですね!」

「山頂から掘り下げて光源を取ってるの」

「へー」


 カナの返答に相槌を打った後、少し下がり、山を見上げてみた。


 頂上はかなり高そうである。困難を伴う作業であっただろうと感心し、眺めていると、カナに話しかけられた。


「でもね、大きな道は明るいけど、小さい道は暗いよ」

「そうなのですね」


 そう聞いて、ふと思う。精霊を顕現させ続ければ、ほんのりとはいえ、周囲を照らすことはできる。しかし、やりすぎると疲れてしまう。


 カナは精霊を所有しておらず、残る二人も当てにできるか現時点では分からない。少し悩んだ後、質問を投げかけてみる。


「なにか灯りがあればいいですね」


 その言葉に、カナは首を傾げつつ、私を指差した。アカリ違いである。その反応を否定するかの如く、すぐに突っ込んだ。


「違います! 先生が暗いと仰られるので、明るくするものです」

「えへへ、いいものあるよ」


 ニコッと笑みを浮かべ、そう言ったカナは、坑口に歩み寄ると、坑内へ少し入った場所で、横の壁に手をやり、効果音を口ずさむ。


「ジャジャーン」


 そして、なにやら掲げ、こちらに見せた。ランプである。カナが手をやったあたりに視線を向けると、壁を削った棚のように凹みに、いくつか並べられていた。


「すごーい! きちんと用意されているのですね」


 褒めたところ、カナは自慢げに笑う。


「へへへ」


 すぐに歩み寄り、ランプを両手に取る。片方をラクノに差し出し、残りをイツキに手渡そうと思った瞬間、そこに姿が見当たらないことに気づいた。


「ん? あれ……イツキさんは……」


 先ほどの場所から動かず、まだ四つん這いのままうなだれている。すっかり忘れていた。


「イツキさーん。行きますよ」


 声をかけて駆け寄り、手を取って起き上がらせた後、みんなが待つ坑口まで引っ張っていこうとした矢先、傍らにある手押し車が目に留まる。


「あっ、これ、どうしよう……」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は八月十一日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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