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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
三章、外出編

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第45話、山がある、煙突もある像も……あれ?10

 しばらくは、何事もなく順調に事が運んでいたものの、進むにつれ、カナに変化が生じてきた。鼻歌に加え、身体がリズムよく左右に揺れ始める。突拍子もない行動を取りそうな、嫌な予感が脳裏をかすめた。


 阻止するべく策を練った結果、ひたすら話しかけ、気を紛らわす作戦を思いつく。


「お昼ごはん、おいしかったですね」


 素早く横につき、カナに声をかける。


「そう?」


 興味がない話題であったのか、関心が薄いようで食いつきが悪い。しかし、諦めることなく、続けて話しかけてみた。


「お魚、どのあたりで獲っているのですか」

「あっちだけど」


 そう言ってカナは、私の反対側へ顔を向ける。とはいえ、建物があるおかげで確認することができなかった。


「ちょっと、見えませんね」


 そう告げた私に、唸るような声を上げ、カナは応える。


「んんんんん、家が邪魔」

「ですね」

「もっと上がれば見えるよ。えいっ」


 その一言とともに砂埃をまき散らし、カナはぐんぐん坂を駆け上がっていった。


「またかよ、うわああああああーーーーーっ」


 遠ざかっていくイツキの悲鳴を聞き、あぜんとしながら、ただただその姿を見送る。しかしながら、このような結果になるとは露ほども思わず、ボソッと呟く。


「行っちゃった……」


 続いて、同じく取り残されてしまったラクノに声をかけた。


「私たちも行きましょうか」

「そうですね」


 そして、二人の後を追いかける。前を行くラクノが黙々と歩を進める一方、私はせっかくの見知らぬ地ということで、周囲に目を配り、目新しいものがないかと探してみた。


 とはいえ、この辺りは煙突が立ち並ぶ建物だらけの風景。しばらくは代わり映えしそうにないゆえ、半ば諦めつつ、足を運ぶ。


 ところが、歩き続けているうちに、建物が減り、徐々に視界が開けてきた。


 カナが言っていたことを思い出し、水辺があると思われる方向へ目を向ける。漁業を営む人たちの姿は確認できなかったものの、代わりに対岸に街らしき場所を見つけた。


「よそ見ばかりしてると転ぶよ」


 その声にハッとして、前を見る。注意散漫であったため、ラクノの行動を把握しておらず、少し驚く。ぶっきらぼうに見えても、意外と気にかけてくれているようであった。


「すみません。ありがとうございます」


 言葉を返した後、ラクノの背中を見据えながら、時々足元にも関心を払い、先へ急ぐ。そして、道の終点辺りに差し掛かった頃、なにか声が聞こえてきた。


「飛ばさないって言ったのに、飛ばさないって言ったのに」


 程なく、四つん這いでうなだれ、念仏のように同じ言葉を繰り返すイツキが目に留まる。続いて、その前でしゃがみ込み、頭を撫でているカナも見えた。


 声をかけようかと思ったものの、言葉が思いつかない。やむを得ず、横目で見つつ、歩を進める。坂を上り切ったそこは、広くひらけた場所となっていた。


 まず、目に飛び込んできたのは、正面に大きな坑口である。そこから二本の棒が地面を沿うように並んで伸びており、少し離れた左側の建物へ吸い込まれるように繋がっていた。


 その他にも、坑口のすぐ右横に、何か人型の像のようなものが建てられている。もしかすると歴史に関係があるものかも、そう思い、駆け寄ってみた。しかしそれは、手をかざした小さな少年らしき銅像。


「これは違うかな……」


 落胆していたところ、傍らにある石碑が目に入ったため、とりあえず碑文を読んでみる。


「坑内に魔物が巣食い、村は存亡の淵に立たされていた。冒険者組合に助けを求めるも、いずれも返り討ちに遭い、為す術もなく絶望していたところ、一人の少年が現れ、見事に討ち果たした。その者の名はシエン。その英雄の功績を称えるとともに、感謝の念を込め、これを建立する。――長老」


 読み終え、驚愕の声を上げた。


「えええええっ」


 王都からかなり離れたこのような場所で、シエンという予想外の名を目にし、仰天する。


「凄いでしょ?」


 銅像をペチペチと叩きながら、嬉しそうにカナが告げた。


 同意はするものの、銅像とはいえその扱いは、村の英雄に対する感謝の念が薄すぎるのではなかろうかと、思わず眉をひそめてしまう。


 それはさておき、石碑に再び目をやり、読みつつ、思案を巡らす。刻まれている内容からして他人とは思えないため、シエン本人の可能性が高い。しかし、万全を期すべく、カナに尋ねてみる。


「これって……」

「それ、おじいちゃんの力作」


 的外れも甚だしい。


「いえ、そうではなく……このシエンって……」

「シエン君?学長だけど」

「ですよね……」


 やはり、人違いではなかった。しかしながら、少年時代からこの様な依頼をこなせる実力に加え、困っている人々を救わんとする姿勢には、甚だ感服させられる。


 思いを巡らしていると、カナが興奮気味に語り出した。


「凄かったよ。小さいのに、あの入り口から魔法をドンドーンって。一瞬で終わっちゃったの」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は八月六日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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