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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
三章、外出編

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第43話、山がある、煙突もある像も……あれ?8


「でしょ?」


 とはいえ、この量を一人で食べるとなると、胃もたれしそう。少し押しつけることにした。


「みなさんも、いかがですか?」


 振り返り、そう告げる。しかし、淡々と食事を進めており、誰も気がつかない。カナとのやり取りを歯牙にもかけない無関心さに少々腹が立ったため、八つ当たりに近いものの、この留飲を下げようと思案を巡らす。


 ラクノは味を知っているため、勧めたとて面白くない。それゆえ、先ほど食べることに疑問を抱いていたイツキに狙いを定め、ズカズカと足を進める。


「モグラのお肉、お一ついかがですか?」


 皿を差し出し、そう声をかけたところ、イツキは予想通りの反応を見せた。


「えっ、俺はいいよ」


 返答の後、座っていたイスを足で小突くと、語気を強め、再び勧める。


「い、か、が、で、す、か?」


 脅迫じみた行動が効いたのであろうか、イツキはすぐに前言を翻した。


「じ、じゃ、一つだけ」


 たどたどしい話し方を耳にして、ここぞとばかりに畳み掛ける。


「遠慮せずにどうぞ」


 イツキの皿に素早く、ひょい、ひょい、ひょいと三枚置く。満足して席につこうとした時、ふとラクノの視線に気がついた。


「食べます?」


 人差し指でモグラのお肉を示し、尋ねる。すると、ラクノは小さく頷いた。こちらは遠慮し、我慢していたのかもしれない。


「どうぞ」


 そう言って皿ごと手渡したところ、受け取ったラクノは軽く頭を下げ、黙々と食べ始める。一方、イツキは固まっていた。


 頬を伝う汗を見て、やりすぎちゃったかなと思う反面、先生がみんなのために頑張ったのだから、少しくらい食せ、という考えも過ってしまう。そして、頭の中で天使と悪魔が討論した結果、出てきた答えはこの一言であった。


「イツキさん、食べないんですか?」


 これは相手が受け入れることも、拒否することも可能な表現である。


「あ、ああ」


 私の言葉にイツキは短く返答し、腕で汗を拭った。その後、ひと息入れ、モグラのお肉にフォークを突き刺す。とはいえ、手がプルプルと震えている。どうやら先ほどの行動から、発言は脅しとして受け取られたらしい。


 それを目にして、煽ってしまった手前、気の毒になり、声をかけた。


「嫌なら無理しなくても……」

「そ、そう?」


 イツキが応えたところ、ラクノが口を開く。


「食べないなら、俺、貰いますよ」


 その言葉を聞き、先ほど手渡した皿にふと目をやる。既に空になっていた。ここでイツキが、人差し指を下に向け、モグラのお肉を示しながら手を動かし、ラクノに尋ねる。


「これ、どうなの?」

「うまいっす」

「そっかー」


 短く告げた後、イツキは目をつむり、口に運んだ。しばらくして、声を上げる。


「おっ、意外といけるね」


 単なる小心者の、食わず嫌いなだけであった。


「食べるなら、先生にお代わりいただいてきます」


 そう言って、皿を持ち、席を立つ。


「先生、もう少しいただいてもよろしいでしょうか?」


 近寄り、尋ねたところ、口いっぱいにモグラのお肉を頬張っているカナが目に留まった。


「ほへん、へんぶふぁべふぁふぁ」


 先ほど機嫌がよくなったのに、口を空にして話せと指摘して、再度拗ねられても面倒である。確実ではないものの、意味を理解できたゆえ、言葉を返した。


「あら、残念です」


 誰も相手にしなかったため、これは仕方がない。そう思いつつ、引き返す。そして、二人に告げた。


「売り切れでした」

「カナちゃんに、全部食べられちゃったか……」


 イツキはそう言った後、皿をラクノに差し出し、声をかける。


「これ、食べる?」

「うっす」


 ラクノは短く応え、イツキから皿を受け取り、すぐに平らげてしまう。


 優しいのか、先ほどの発言は建前で本音では口に合わなかったのか、真意は測りかねるものの、これでモグラのお肉はすべてなくなった。


 懸念材料もなくなり、落ち着いたところで食事を始めようと席に着く。テーブルには、大皿に盛り付けられた料理が所狭しと並べられていたため、まずは少しずつ皿に取り分け、味を見てみる。食して分かったことは、いずれも主な食材は魚であった。


 温かい料理は少し冷めてしまったとはいえ、揚げ物、焼き物、調味液に漬け込んだもの、いずれもおいしく、食欲をそそられてしまう。


 それに加え、昨日夕食を食べ損ねたおかげで空腹ということもあり、食べ進めるうちに手が止まらなくなる。すると、おじさんに問いかけられた。


「いい食べっぷりだね。口に合うかね?」

「はい、とっても」

「そうかい、それはよかった。ここは最近、漁業が盛んでね」


 話している途中でも、やはりどーんと置かれたあれが気になる。時々ちらっと目をやっていたところ、おじさんが尋ねてきた。


「ん? 食べてみるかい?」

「え? あのー、これは飾りでは?」

「いやいや、これが一番のごちそうだよ」


 そう言われても、食事で使用している手持ちのナイフでは歯が立ちそうにない。魔法をぶっ放して解体するわけにもいかず、どうやって食べるのか、少し考えてしまう。しかしここで、おじさんが片手で皿をひょいと掴んで、身体の後ろに回し、大声で叫ぶ。


「おーい、かあさんや、これを捌いておくれ」

「はいはい、ちょっと待っておくれよ」


 どこからともなく女性の声が聞こえた後、しばらくして、大きな魚の頭は動き出し、ここから離れていった。


 不思議な光景に目を疑うも、遠ざかるにつれ明らかになる。初めて見た時のカナと同じように、身長の低い人が頭の上に皿を乗せ、運んでいるだけであった。


 そして、食事を進めながら待っていると、しばらくして声をかけられる。


「お待ちどうさん。ここが一番おいしいんだよ」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は七月二十七日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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