第4話、明日試験、急いで帰ろう屋敷まで、4
作者からのお断り。
構想は定まっていますが、執筆速度が激遅ゆえ、完結まで相当時間が掛かります。
興味のある方は作品をフォローして、気長にお待ちください。<(_ _)>
今の時間は一日で一番気温が高い時間帯である。しかし、疲労のせいか、行くときよりも寒く感じた。
ようやくたどり着いた外壁の門をくぐり、馬車へ向かう。その途中、王国騎士団員たちとすれ違った。
いつもなら声をかけられるはずである。今日は立ち止まって、ひそひそ話しながら、こちらを目で追っているような感じで、少し気になった。
違和感を抱きつつ歩き続け、冒険者組合が用意した送迎馬車に乗り込む。ドアを閉めたところ、前を向いていた御者が気づいて振り返った。何だかおろおろしているように感じる。
その後、無言で駆け出すと、飛ばしているのか、普段より激しく馬車が揺れ出した。そのため、気持ち悪くなった私はそっと目を閉じ、到着するまで眠ることにした。
「大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」
グラグラとした感覚と、その声で眠りから覚める。目に飛び込んできたのは、御者が両肩をがっちりつかんで、大きく揺さぶる姿であった。
追加でダメージを受けた私は、イラッとしながら、その手を払いのける。そして、馬車から降り立ち、冒険者組合へ歩き出した。
疲労に馬車酔いと、最悪の気分で押した扉は、やけに重く感じる。
日中にもかかわらず、左手にある酒場は盛り上がっており、屋内は騒然としていた。
充満するアルコールとタバコの匂いに耐えながら、重たい足取りでカウンターに直行する。そこへ討伐してきた植物型の魔物の花と、冒険者証を静かに置こうとした。しかし、躓き、ゴツンと音を立ててしまう。
下を向いて書類整理をしていた受付嬢は、その音に気づいたのか、ペンを置いてゆっくりと顔を上げた。
目が合ったところ、笑顔だった受付嬢の表情がすっと消え、動きが止まる。そして、息を吸い込んだように感じ、これはあれが来ると直感した。
素早くフードの上から、両耳を手で押さえ、防御する。
「きゃあああああーーーーーっ!」
予想通り、甲高い悲鳴が響き渡った。その声によって騒然としていた屋内は、一気に静まり返る。
しかし、大森林で散々聞いた悲鳴を、ここでも聞く羽目になるとは夢にも思わなかった。
「何だ?」
「どうしたんだ?」
次第に声が聞こえ始め、私は焦る。注目を浴びるのは嫌だなと思いつつ、立ち尽くしていると、カチャっとドアが開く音が聞こえた。
「どうかしましたか?」
奥にある事務所から、二人の警備員を伴って、組合長のクミが顔を出し、尋ねた。
小柄で白髪の玉ねぎヘアのこの女性は、元凄腕の冒険者と聞いている。しかし、物腰が柔らかく、面影はまったくない。
私が見る限りでは、花壇や屋内の植物に水をあげるだけのおばちゃんであった。
受付嬢がクミを見て、声を震わせながら呟く。
「血まみれで……」
その言葉を聞いたクミは、私に近づいてきて、じっと見た後、クンクンと匂いを嗅いだ。
「血液ではありませんね。これは植物の樹液かと」
それを聞いた受付嬢は、驚きの声を上げ、クミに問い返した。
「植物の樹液ですか?」
「はい。樹液です」
「樹液……」
ポンポンと受付嬢の肩を叩いて、クミは事務所に戻る。そして、静まり返っていた屋内は、少しずつ元のにぎやかさを取り戻していく。
受付嬢は両手を頬に当ててうつむいたまま、地蔵のように動かない。その隙間から見えた顔は、樹液と同じくらい赤く染まっていた。
しかし、出発時と逆の状況になるとは、世の中分からないものである。
立ち続けるのがやっとだった私は、一刻も早く処理を済ませて屋敷へ戻りたかった。とはいえこの状態では仕方がない。復活するまで、しばし待つことになった。
数分後、受付嬢は両頬をパチンと叩き、ようやく顔を上げる。
ほっとしたのも束の間、まだ落ち着かないのか、カウンターに置かれている花に伸ばした手が、わずかに震えていた。
「大変申し訳ありません、急いで手続きをいたします。しばらくお待ちください」
そう言った後、受付嬢は深呼吸を何度か繰り返した。
いつものように鑑定し、記録用紙に書き込んでいく姿を見ていると、表情が硬く、どこか様子がぎこちない。そして、時折ちらちらとこちらを向く視線が、非常に気になる。
「本当に大丈夫ですか? どこか痛むところはありませんか?」
この言葉を聞いて、遅まきながらようやく理解した。
赤い樹液で汚れたフード姿の私を見て、受付嬢はケガしていると思っていたのである。
そのように考えると、王国騎士団員たちの反応や、御者の行動も納得がいく。
心の中で、そのやさしさに感謝しながら、無言で頷いた。
「大変お待たせしました。依頼完了の確認と署名をお願いいたします」
受付所から差し出された書類に目をやり、金額を確認し、サインする。
「報酬の取り扱いはいつも通りでよろしいでしょうか?」
その問いかけに、再び無言で頷く。
私は二割を孤児院に寄付し、残りは国が運営する冒険者組合の口座に預けていた。
「ありがとうございました。お気をつけて」
笑顔が戻った受付嬢が両手を前で組み、深々とお辞儀をする姿を見て、くるりと振り返り、歩きながら軽く手を挙げて扉へ向かう。
その途中でふと掲示板に目をやる。例の植物型の魔物の討伐依頼が、また同じ場所に貼られていた。
ご拝読ありがとうございます。
視力が悪く文字を拡大して執筆しているため、改行が多く読みにくいかもしれません。
誤字脱字には気をつけておりますが、お気づきの点がありましたら連絡いただけると幸いです。
主人公の前日譚もあります。
https://ncode.syosetu.com/n3734jx/
カクヨムでも同一名義で連載しております。