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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
三章、外出編

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第34話、そっといる、白い頭と白いやつ2

「ありがたいな……」


 心の中で感謝しつつ歩を進め、いつものように境界に立つ門番に冒険者証を提示する。許可を得て王都の外へ足を踏み出すと、周囲を警戒しつつ、大森林まで急いだ。


 そして、到着してまず最初に、前回慌てていて忘れてきた虫取り網を探す。


「あった」


 しかし状態が気になる。急いで確認したところ、穴も開いておらず、使用には問題なさそう。


「よかった」


 その後、軽くストレッチして、カエルを警戒しながら、ゆっくり慎重に植物型の魔物の討伐を開始した。ネズミに似た生物の妨害にもめげず頑張ったものの、やはり集中できないため、ペースは上がらない。


「こんなもんでいっか」


 日が昇り、温かくなってきたゆえ、頃合いと考え、切り上げる。花を数えたところ、七個と期待外れの結果に終わった。


「仕方ないよね……」


 装備を魔法できれいにした後、冒険者組合に帰還する。そして屋内に立ち入り、受付嬢に手続きをお願いした時、驚きの言葉をかけられた。


「あの……依頼を受けていないようなのですが……」

「えっ?」


 その言葉を聞いて、慌てて掲示板から依頼書を引っこ抜き、手渡す。


「うふふ、手続きをいたします。少々お待ちください」


 受付嬢のその返答にほっと胸を撫で下ろし、原因を考える。そういえば出かける際、組合長の応対に危うさを感じ、急いだため、忘れてしまったらしい。


「大変お待たせしました。報酬の取り扱いは、いつも通りでよろしいでしょうか?」


 しばらくして、受付嬢が声をかけてきた。


 その言葉を聞いて、今日ここに来た目的を思い出す。左手を顔付近まで上げた後、掌を受付嬢に向け、ジェスチャーで少し待ってと合図する。


「どうかなされましたか?」


 首を横に振り、頷く。そして内容を確認し、署名を済ませた。


 少し悩んだものの、とりあえず依頼の回数を増やし、様子を見ようという結論に達したのである。


「ありがとうございました。お気をつけて」


 そう言った受付嬢が両手を前で組み、深々とお辞儀をする姿を見て、くるりと振り返り、歩きながら軽く手を挙げ、建物を後にした。


「ふー、疲れたな……」


 乗り継ぎを重ね、冒険者組合から二時間半程して、寮へ辿り着く。荷物の入ったリュックサックを自室に置くと、ミナの部屋へ行き、様子を伺った。


「ミナ、調子はどう?」

「お帰り、アカリ。大丈夫だよ」


 昨日、あまり寝ていないこともあり少し眠い。この状態なら私がいなくとも問題ないと考え、ミナに告げる。


「そう、良かった。私、疲れたからご飯食べて今日は休むね」

「えー、まだ夕方だけど……アカリ大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。また明日ね」


 不安げに話すミナにそう言い残し、部屋を出る。そして食堂で昼夜兼用の食事を取り、自室に戻って就寝した。




 翌朝、目を覚ますと、しっかり寝たおかげか、体調は万全である。


 ミナを誘い朝食を取った後、支度を整え、水曜日の一限の精霊育成科を受講するため学園へ向かった。


「あれ……」


 教室には、間もなく授業開始だと言うのに誰もいない。一人ぽつんと席につき、待っていたところ、悪戯心が芽生えてきた。


 誰もいなかったら、セイジはどういう行動に出るのであろう。わくわくしつつ、柱に隠れる。始業のチャイムが鳴り、ドアの開く音が聞こえた。しかし、足音が聞こえない。


「ん?」


 こっそり教壇へ目をやると、そこには誰もいなかった。想定外の事態である。急いで飛び出し、廊下を歩くセイジを見つけて声をかけた。


「先生、すみません。授業お願いします」

「あ、はい……」


 教室に入った後、即座に尋ねてみる。


「精霊について聞きたい事があるのですが……」

「青色は水、赤色は火、緑色は風、黄色は雷、茶色は土です」

「その五種類ではなく、白い精霊のことなのですが……」


 この一言で、先ほどまでと打って変わって、覇気のないセイジの話し方がはっきりとした口調になった。


「白い?」


 目までシャキッとなったセイジに、戸惑いながらも返事をする。


「はい」

「そうですね……かなり前に噂レベルで聞いたことはありますが、実際に目にしたことはありません」

「私、顕現できるんですけど……今、お見せします。精霊さん、お願い」


 しかし、掌をかざし試みたものの、不発に終わった。


「あれ……なんで?」

「現れませんね……」

「こっちはどうだろう……」


 試しに、緑色の精霊を顕現させてみる。


「これは風の精霊ですね。しかし、なかなかのものをお持ちで」

「そうなんですか?」

「はい。色といい、大きさといい、かなりのレベルです」

「へー」

「まだ預かって間もない精霊と比較すれば、よく分かると思いますよ」


 そう言ってセイジが一体の精霊を顕現させ、私に見せた。


「成長していないので、色も薄く、大きさも小さいでしょ?」


 見比べると、確かに私が顕現した精霊の方が色も濃く、鮮やかである。そして二回りほど大きい。


「はい、違いが分かります」

「よほど相性が良いのか、育成が上手なのか、はたまた優秀な精霊を受け継いだのか……」


 私の精霊を眺めていたセイジがこちらを向き、提案してきた。


「あなたも精霊育成士を目指してみませんか?」


 ジュジュに続いてまた勧誘である。とはいえ、普段から眠そうなセイジの姿を目にしていたため、やりたくはない。


「いえいえ、私はちょっと……」


 やんわり拒否し、話題を変える。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は六月十二日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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