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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
三章、外出編

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第33話、そっといる、白い頭と白いやつ1

 昨日、孤児院から帰寮した後、部屋で考えた。


 その結果、思い立ったが吉日ということで、今日の月曜日と明日の火曜日の二日間、冒険者組合へ行き、依頼をこなそうと決意する。


 私が孤児院にいた期間は僅かではあった。しかし、父親の活動姿勢に感銘を受けており、困った人がいれば助けようという使命感に燃えたのである。


 とはいえ、午後は魔術科。ミナが気になるため、授業後の状態を見届けてから、冒険者組合へ向かうことにした。


 終業の鐘が鳴る頃を見計らい、学園に足を運ぶ。すると、生徒たちはまたまたグラウンドを走っていた。


「えーっ、また……」


 初日から三回連続である。この状況を見て、無関係であるがゆえに、いつまでマラソンを続けるのか、逆に興味が湧いてきた。


「全員止め! 今日はここまでだ」


 ジュジュの言葉を聞き、ミナの元へ歩み寄る。そして前回同様、身体を支えつつ、部屋へ送り届けた後、話を切り出した。


「ミナ、私、今日と明日、ちょっと実家に帰るんだ」


 姿が見えなくて心配しないよう、こう言っておくことにした。


「へーそうなんだ」

「また動けないと困るから、メイドさんにお世話を頼んでおくね」

「ありがとう、アカリ」

「ミナ、また明日ね」


 自室に戻り、用意しておいた装備類の入ったリュックサックを持つと、警備室に立ち寄り、マッサージの依頼と明日の帰寮時刻を告げ、冒険者組合へ急ぐ。


 到着した後、周辺を探索し、他に宿屋がないか調べた。しかし見回ったものの、発見できない。


「仕方ないな……」


 日が沈みかけてきたこともあり、諦めて今晩はここに泊まろうと決めた。屋内に立ち入り、カウンターへ足を進めると、前と同じようにジェスチャーで受付嬢に書くものを要求する。


「はい、どうぞ」


 そして、手渡された紙に「二階の宿に泊まりたいのですが」と記し、提示した。


「二階の一番奥ですよ」


 指定されたのは、前回見学した時と同じ部屋である。鍵を受け取り、軽く頭を下げ、二階へ上がった私は、部屋へ入った後、すぐに施錠した。続いてカーテンを閉め、室内を見られないようにする。


「さてと……」


 仮面を外し、ローブを脱ぐ。リュックサックを下ろし、部屋を見渡していたところ、寝具の汚れが気になったため、魔法できれいにすることにした。


「単式魔法陣、光」


 ピカピカにはならないものの、シミなど落ちた気がする。


「こっちもかな……」


 片っ端から魔法を放ち、ベッド中を綺麗にした後、縁に腰を下ろし、手で叩きながら呟く。


「結構硬いな……これ、寝られるかな……」


 腕を組み考えていると、感触を和らげる良いアイデアが浮かんだ。


 ペラペラな掛け布団を二つ折りにして下に敷き、マットにする。そして、代わりにローブを身体に掛けることにした。日中は温かくなってきたとはいえ、夜はまだひんやりするためである。準備を終えた私は、魔法を連発して無駄に疲れたこともあり、明日に備えて就寝した。


 しかし眠れない。


 夜が更けるにつれ、一階から酔っ払いどもの騒ぎ声が次第に大きくなってくる。次に対策したとはいえ、やはりベッドは硬すぎた。


 今晩だけの辛抱と、両手の指で耳を塞ぎつつ、目を閉じ、何とか寝ようと試みるものの、時間だけが刻々と過ぎていく。


「むーりーだーぁ」


 一晩くらい寝なくともなんとかなる。そう開き直り、リュックサックから愛読書の「わが国の成り立ち」を取り出し、目を落とす。とはいえ、今週の土曜に訪れる西の鉱山に関連する箇所を読みふけっていると、うとうとしてきた。


「う、うーん」


 身体の節々が痛い。本を読んでいるうちに寝落ちしてしまったようである。


 イスに座っていた方がマシだったかもしれないと思いつつ、よだれを拭き、備えつけてある時計に目をやった。時刻は午前四時。


 ここで二度寝する気も起きず、このまま大森林へ赴くことにした。


「さてと……」


 リュックサックを背負って、ローブを羽織り、仮面を装着する。部屋を出て、階段を下り、一階に着いたところ、カウンターに立つ組合長のクミが目に留まった。


 近づいた後、周囲に人がいないことを確認して、小さな声で挨拶する。


「お久しぶりでございます」

「はて、どちらさまでした?」


 そういえば、この人には正体を隠したことを伝えていなかった。冒険者証を提示し、仮面を少しずらして素顔を見せる。


「まぁ、アカ」


 驚きの声で私の名前を呼ぶクミの口を押えると、人差し指を自分の口元に当てる。


「しーっ、ちょっと……声が大きすぎます」

「そうですか?」


 頬に指を当て、首を傾げながらそう話すクミを目にし、長居は無用と思い立つ。さっさと用件を済ませることにした。


「これを……」


 そう告げて、宿の鍵をカウンターに静かに置く。


「はい、確かに」


 返事を聞いた後、軽く頭を下げ、出口へ足を進める。そして扉を開け、屋外へ目を向けたところ、いつもならそこに停まっている送迎馬車が、今日に限って一台も見当たらなかった。


「あれ、困ったな……」


 仕方がない。眠気覚ましがてら歩こうと、薄暗い中、足を向ける。すると、まだ日の出の時間ではないにもかかわらず、外壁付近はなぜかほんのり明るかった。


 私は疑問に思いながらも、ゆっくり道を進み始める。


「なるほどね……」


 近づくにつれ、その理由が判明した。外壁の上で大量のかがり火を焚き、周囲を監視していたのである。さらに王国騎士団員の姿は日中よりも多く、警備の状況は厳重であった。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は六月七日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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