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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
三章、外出編

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第32話、よし行こう、一年ぶりの、あの場所へ2


「私も、お手伝いいたします」


 そう言って帽子を脱ぎ、頭にスカーフを巻き、腕をまくり上げる。そして、食器を並べ始めた。


「そうか、すまないね」

「いえいえ」


 置き終えた後、そこにアスナがパンを盛りつけていく。その様子を見て、私も同じように取りかかる。さらに、厨房から大きな寸胴の乗った台車が出てきた。それをアスナが動かしながら、スープを別の食器に注いでいくのを目にして、声をかける。


「私、それ、押します」

「そうかい、助かるよ」


 すべて終えると、アスナはフライパンとおたまを持ち、入口の両側のドアを開けた。そして外へ出て、それを打ち鳴らし、大声で叫ぶ。


「小僧ども、メシだぞー」


 その言葉で、遊んでいた子供たちが一斉に建物のドアへ押し寄せてくる。それを見て、勢いで用意した食事が倒されないかとても心配になった。しかしそれは杞憂に終わる。全員が席につく頃を見計らって、アスナが声を上げた。


「よく噛んで食べるんだぞ」


 その言葉の後、子供たちは元気に応える。


「いただきます」


 部屋の隅でそれを眺めていた私に、アスナが近寄ってきて告げた。


「アカリ、あんたも食べな」

「では、お言葉に甘えまして……」


 アスナの隣の席に腰を下ろし、パンを手に取り、ちぎって食べてみた。寮で出されるものにはかなわないとはいえ、小麦の風味を感じる素朴な味わいであり、これはこれでおいしい。そしてスープを口に運ぶ。とても懐かしい味がした。


 和気あいあいとした雰囲気の中、ゆっくり食事を進めていると、子供たちがふざけながら部屋の中を動き回る姿が徐々に増えてくる。


 ここでアスナがイスから立ち上がり叫んだ。


「食べ終えたんなら、外へ行きな」

「ごちそうさまでした」


 大きな声で返事をした子供たちは、部屋を飛び出していく。私が食べ終えた頃、アスナはパンパンと手を打ち鳴らし、言葉をかける。


「そろそろ、片づけるからみんな遊んできな」

「はーい」


 子供たちが部屋からいなくなったところで、アスナが呟く。


「さて、片づけるかね」


 そう言って腰を上げた後、首を左右に曲げ、腕を上げ肩を回していた。そして厨房から、かごを乗せた台車を押してくると、使い終わった食器を次々とそこに入れ、洗い場へと運んでいく。


「アスナさん、私は何をすればいいのでしょうか?」

「じゃ、テーブルを拭いて、それからほうきで掃いて貰おうかね」

「はい、わかりました」


 返事をし、言われた通りに作業していたところ、しばらくしてアスナが両手にカップを持ち、声をかけてきた。


「アカリ、飲むかい」


 窓際のテーブルにそれを置き、アスナはイスに腰を下ろす。


「はい、ありがとうございます」


 そう応え、壁にほうきを立てかける。その後、反対側の席に足を進めた。そして、イスに座ると、窓の外に目をやっていたアスナがこちらを向いて話しかけてきた。


「今日は助かったよ」

「いえいえ、お役に立てて良かったです」

「最近、人手が少なくてね……」


 軽くため息をつき、アスナは話を続ける。


「ところで元気でやってるのかい?」

「はい、ぼちぼちとですが」

「まぁ、シドウ様から近況は聞いていたけど」


 この言葉から、父親はここも訪問しているのだと嬉しく思った。


「たまに帰って顔を見せるんだよ」

「はい」


 話をしていたところ、ドアが開く音が聞こえ、呼びかけられる。


「あれ、アカリ来てたんだ」


 その声を聞いて振り返ると、大きなカバンを持ったミナが立っていた。


「ミナ、どこに行ってたの?」

「えへへ、内緒」

「えーっ」


 そう突っ込んで見たものの、作業したり、アスナと話し込んで、ミナのことはすっかり忘れていた。


「ミナには薬を取りに行ってもらってたんだよ」


 やり取りを聞いていたアスナが答える。


「そうなんだ、おつかれさま」


 私はそう言ってから、隣にあったイスを軽く後ろに引き、座るように促す。


 ミナが席についた後、学園での生活など、少し世間話をして程なく作業の続きを始めた。そして掃除が終わった頃、アスナが話しかけてきた。


「明日授業だろ?差しつかえるといけないからそろそろ帰りな」


 そう言われて窓の外に目をやる。まだ日は高いし、私は明日授業はない。それゆえミナの判断に任せることにした。視線を送ると、ミナはすぐさま返事をする。


「うん、分かった。もう、帰るね」


 その答えを聞き、私も同じく言葉を返す。


「では、そろそろおいとまいたします」


 その後、帰り支度を整え、私は話しかける。


「アスナさん、また伺いますね」

「勉強、しっかりやるんだよ」

「はい」

「うん」


 そう言われ、二人でアスナに軽くお辞儀をし、孤児院を後にした。


 帰りの馬車に揺られながら、ふと思う。そういえば寄付している割には、一年前と変化は見られない。寄付する比率を変えるか、もう少し依頼をこなしてみようか、悩んでしまう。


「どっちが良いのかな……」

「ん?何が」

「ごめんミナ、ひとりごと」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は六月二日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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