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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
三章、外出編

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第31話、よし行こう、一年ぶりの、あの場所へ1


「う~ん」


 ふっかふかのベッドからゆっくりと起き上がり、大きく伸びをした後、大きな置時計に目をやる。時刻は午前六時であった。入学してから初の日曜日というのに、どうやら無駄に早く目が覚めてしまったようである。


「精霊さん、おはよう。今日は何しよっかな……」


 いつものように、身体の周りをゆっくりと飛び回っている精霊たちに声をかけ、差し出した掌に消えていく姿を見届けると、パジャマから普段着に着替え、部屋を出て食堂に向かう。


 あくびをし、目をこすりつつ階段を下りていたところ、ソウナにばったり出会った。そういえば、ハンカチを返しに来てから、それ以降は顔を合わせてない。頭に巻いてある包帯が目に留まったため、ケガが気になり、声をかけてみる。


「おはよう、あれからどう……」


 しかし、ソウナは言葉を交わすことなく、軽く頭を下げると、そのまま階段を上っていく。大浴場でマキに話しかけられた時も、あのような感じであった。この様子から、他人との関わりを避けている気がしてならない。縁あって同じ寮に住むことになったのに、残念である。私は少し寂しい気持ちを抱えながら、食堂に足を進めた。


 食事を済ませた後、部屋に戻って、ふと考える。今日はミナも不在ということもあり話し相手もおらず、他にすることもない。とても退屈な一日になりそうな予感がする。


 久しぶりにトレーニングでもしようかと思ったものの、うろちょろして再びソウナと出くわしても気まずい。という訳で、そろそろ顔を出さなければと思っていた孤児院へ行こうと決めた。しかし、以前は屋敷から執事が手配してくれた馬車で向かっていたこともあり、正確な場所は不明。おおよその位置しか分からない。


 交通案内図が載っている例の一覧表を、本棚から取り出し、開きつつ呟く。


「昨日ミナと一緒に行けば良かったな……」


 とはいえ、今更言ったところで、時すでに遅しである。


 ベッドに寝転がりながら、孤児院までのルートを急いで調べた結果、寮から送迎馬車で食料特区の門へ行き、そこからトロッコで次の保護特区で降りた後、乗合馬車に乗るルートが一番早いと分かった。


 所要時間も計算してみる。送迎馬車は十五分、トロッコは三十分、乗合馬車も三十分、探す時間を含めても、二時間あれば到着できそうである。続いて念のため、もう一つ見つけたルートも計算してみることにした。


 寮から送迎馬車で食料特区の門へ行き、そこの中心部にある中央市場からさらに乗り換えて、保護特区の中心部にある中央扶助事務所まで乗合馬車で向かう道順である。


 送迎馬車は十五分、乗合馬車は二時間三十分、探す時間を含めると三時間強。ここでふと気づいた。トロッコは時計回りでの運行であるため、大回りする。帰りはこちらのルートの方が早いはず。という訳で計算してみた。その結果、三時間十五分。


「微妙……」


 ボソッと呟き、一覧表を本棚へ戻した。その後、支度を整える。


「よーし、とりあえず行きますか……」


 そして気合を入れ、部屋を出ると、警備室で帰寮時刻を告げて、早い方のルートで孤児院へ向かう。


 保護特区の門でトロッコを降り、中心部にある中央扶助事務所行きの乗合馬車に足を進めていた私は、行き交いする人々の状態が気になった。ここは、魔物により親を亡くしたり、負傷した者たちを医療や経済的に支援するための地域ということもあり、他の特区では見かけない身体の不自由な人が多く活動しているのである。


 ちなみに、愛読書の「わが国の成り立ち」によれば、王都の外壁を築いたここの領主を務める七英雄の一人、フクシュンも隻腕であるらしい。


 気の毒に思いながら乗り込むと、程なく馬車は走り出した。その後、揺られつつ、記憶を頼りに孤児院のある場所を探すべく、窓から景色を眺める。


「あっ……」


 しばらくして、何となく見覚えのある風景が目に飛び込んできた。


「すみません。次で降ります」


 止まった停留所から、来た道を戻り、足を進める。そして、大きな広場のある建物を見て確信した。


「ここだ、間違いない!」


 約一年ぶりの訪問である。門をくぐり、広場で遊んでいる子供たちの間をすり抜けながら進み、建物の大きなドアの前に辿り着く。その横で洗濯物を干している人たちに軽く会釈をした後、建物と向き合っていると、懐かしさが込み上げてきた。


「ごめんください」


 そう言って、静かにドアを開ける。


 緊張しつつ立ち入ったところ、私の目に映ったのは、テーブルの上に食器が並べられている光景と、そこでせわしなく動く、見覚えのある恰幅の良い女性の姿であった。


「アスナさん、ご無沙汰しております」


 声をかけると、女性は大きな声で返事をした。


「おや、アカリかい、久しいね」


 私がここに来てから、義父のシドウに引き取られるまで、短い期間ではあったが、お世話になった女性である。その後、一時期離れていたものの、園長として舞い戻り、孤児院を切り盛りしていた。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は五月二十八日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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