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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
二章、授業編

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第30話、大変だ、貴族はびこるゆとり校、12


「ごめんなしゃい」


 そう言い、下を向くカナを見て、私はお子ちゃまみたいと笑いを必死で堪えた。


 イツキはため息をつき、頭を掻く。その後、床に落ちていた先端にコマのような物がついた工具を拾い上げ、カナに話しかける。


「続き、しましょう」


 頭を軽く下げたカナは、手に持っていた工具をイツキに手渡し、差し出された物を受け取った。


「えーっと、危ないので、少し離れてくださいね」


 そう言った瞬間、キュイーンという音と共に、工具の先端が勢いよく回り始める。


 生徒らが一斉にそこから距離を取った後、カナは先ほどの薄い金属を、大きな石板の上に置き、先端を当てた。激しく火花が飛び散るさまを見て、私は何が出来上がるのか胸がわくわくしてきた。


「ふぅ」


 しばらくして、黙々と作業していたカナが短く一言発する。そしてイツキから、先ほどの先が細く筒状になっている工具を受け取り、完成した物に風を当てて、削りカスを飛ばし、綺麗にした。


「はい、完成でーす」


 高々と掲げて見せた物は、とても小さなナイフである。カナはそれに一枚の紙を当てて切断した後、かけていた奇妙な眼鏡を額に戻し、持ってきた箱に使った工具を片づけ始めた。


 終業の鐘が鳴ると、カナは箱を両手で頭上に持ち上げ、こう告げる。


「来週、西の鉱山へ採掘と見学に行きますよーっ」

「えっ! うそ!」


 その言葉を聞いて、私は胸が高鳴った。鉱山の麓にある街は、七英雄と称されるうちの四人に関連があり、訪れてみたかったのである。


 愛読書の「わが国の成り立ち」には、国王のユウシと今は亡きフウガ、イルゼの出生地ということに加え、その三人が建国の契機となったフクシュンと出会った場所であると記されていた。


 カナが来た時と同じように掛け声を上げつつ、教室を出て行った時、ふと我に返る。


「あれ? 来週って出発は何時?」


 尋ねるため、慌てて追いかけようと足を踏み出した瞬間、イツキに呼び止められた。


「貴族養成科にいた、ビンタの人だよね」


 間違いではない。とはいえ、もうちょっと言い方があるんじゃないかともやもやしながら、ぶっきらぼうに答える。


「そうですが? 何か?」

「ティーカップを投げたやつ、ハクって言うんだけど、あいつやばいから気をつけた方がいいよ」

「ご忠告、ありがとうございます」


 そう答えると、軽く会釈をしてから教室を飛び出し、カナを追いかけた。階段を駆け降り、靴を履き替え、王立研究所の玄関を出た時、足が止まる。


 校舎はグラウンドを挟んだ向こう側。しかし、カナの姿は見当たらない。


「あれ、おっかしいな……」


 この結果、諦めてゆっくり職員室に向かう。そして到着し、ドアを開けようとした時、どこからともなく、あの掛け声が聞こえてきた。


「えっ?」


 横を向いたところ、こちらに歩いてくるカナの姿が見えた。本題より、そっちの方が気になり、思わず声を上げる。


「先生、どこから来たんですか?」

「あっちだけど」


 その言葉を聞き、カナが顔で示す方向に視線をやった。なんと、王立研究所と学園の校舎が、渡り廊下で繋がっている。それを見て、がっくりと肩を落としつつ、切り出す。


「西の鉱山へ向かう日の集合時間は、何時なんですか?」

「えーっと、まだ決めてません。てへへ」


 私は無駄なことをしたとショックを受け、何も言わず寮へと帰った。




 食堂でミナと昼食を取ってから学園に足を運び、午後にある医療健康科を一緒に受講する。とはいえ、西の鉱山のことで浮かれており、身に入らないまま授業を終えた。その後、寮へ戻り、孤児院へ手伝いに向かうミナを見送る。


「ミナ、気をつけてね」

「また、月曜日にね、アカリ」


 遠ざかる送迎馬車が見えなくなったところで自室に戻り、すぐさまベッドに飛び込む。そして、転がりながら思い出し、にやにやする。


「西の鉱山、うふふっ」


 その後、気が収まり起き上がると、食堂に足を運び、夕食を取った。そこでふと考える。


「明日からどうしよう……」


 本来なら冒険者組合に行き、依頼をこなす予定であった。しかし先週、死にかけたため気が向かない。


「暇になるし、ミナと一緒に行くべきだったかな……」


 呟くものの、日は落ち、時すでに遅しである。ということで、部屋に戻ってから寝るまでの間に、出席する授業など今後の予定を考え、紙に書き留めることにした。


「さてと……」


 言わずもがな、日曜日は学園の休校日である。


「月曜日は武術科と魔術科か……」


 魔術科はさておき、武器は一つくらい所持しようと考えていた。とはいえ、魔法を行使して依頼をこなす身である。そのため、授業を見学した時点で、武術は不要という考えに至っていた。


 次に火曜日をどうするか考える。


「この二つはいらないかな」


 魔石の扱いには慣れており、魔導武術科は必要ないと判断した。そして貴族養成科は出席する価値がない。


 続いて水曜日を考える。


 義父や亡くなった母親が医師である理由から、医療健康科は受講したい。そうなると、水曜日と土曜日は登校することになるため、ついでに、同じ日にある精霊育成科と魔導鍛冶科も併せて受講することにした。


 この結果、日、月、火、木、金の五日行動できることになった。休校日の日曜日または月曜日に組合に行って外泊し、翌日も依頼を受けて帰れば、効率がよさそうである。そう考え、木曜日と金曜日は復習と予習をする日に決めた。


「これでいっか」


 書き留めた予定の紙を眺め、私は満足げに頷いた。

ご拝読ありがとうございます。

二章終了まではストックがあり、他人よりも遅いながらも、更新してまいりました。しかし遅筆ゆえ、三十二話以降、ペースダウンいたします。<(_ _)>


下記リンク、以前執筆した学長シエンの前日譚になります。

https://ncode.syosetu.com/n8430jz/

よろしければ、暇つぶしにどうぞ。(怖そうなタイトルですが、ごく普通の短編小説です)


次話から三章、次話更新は五月二十五日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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