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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
二章、授業編

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第29話、大変だ、貴族はびこるゆとり校、11

 土曜日、一限は魔導鍛冶科の授業である。朝食時にミナから、前回と同じく午前にマッサージを受けると聞いたため、今日も一人で学園に向かうこととなった。


 十五分前に寮を出て、校舎の二階にある教室に足を運ぶと、そこには誰もおらず、ドアには鍵がかかっている。


「あれ……おかしいな……」


 疑問に思った私は、事情を聞くべく、三階の職員室に向かった。ドアをノックして開けたところ、三つ編みで小柄な女性が目に留まる。


「すみません。一限の魔導鍛冶科を受講したくて教室に行ったのですが、開いていなくて」

「ふふっ、魔導鍛冶科の授業は、王立研究所の三階だよ」


 そう答える女性に軽く会釈をし、礼を述べた。


「ありがとうございます」

「えっとね……」


 女性は他に何か言いたげであるものの、のんびり聞いてる暇はない。急いで職員室を後にし、階段を駆け降りた私は、玄関で靴を履き替えると、上履きを手に持ち、隣接する王立研究所までダッシュする。続いて、案内板で場所を確認し、階段を必死で上った。


「ハァ、ハァ」


 なんとか開始時刻に遅れることなく、教室に辿り着けたようである。すぐに中へ足を進め、そこにいた生徒たちに軽く会釈をし、空いている席に腰を下ろした。そして、呼吸を整えつつ、いつものように人数を数える。生徒は七人であった。


 その後、授業の開始を待っていたところ、小気味よい掛け声が外から耳に届いてきた。


「よいしょ、よいしょ」


 ガラガラっとドアが開き、教室に入ってきたのは、先ほど職員室で場所を教えてくれた女性である。箱を両手で頭上に持ち上げつつ、教壇へ向かう姿を見て、狐につままれたような気分になった。急いでここに来た私は息も絶え絶えである。しかし、女性は息切れひとつもなく、平然と歩いていた。


「えいっ!」


 教壇に着くや否や、女性はその声と共に箱を投げ捨てるように置く。程なく始業の鐘が鳴り渡り、すぐに高く可愛らしい声が聞こえてきた。


「講師のカナです」


 そう言うものの、元々低い身長に箱が重なって、姿が全く見えない。


「魔導鍛冶科というのはね、武器や防具といった装備を、魔力を使って作ることを教える学科だよ」


 次の瞬間、生徒から突っ込みが入った。


「カナちゃん、そこでは姿が見えません」


 その一言で、教室は笑いの渦に包まれる。指摘されたカナは、笑いながら頭を掻き、教壇の前に出て、話を続けた。


「百聞は一見に如かずです。実演するね」


 そう言って、教壇へ振り返った後、何かを取り出そうと背伸びしながら、箱を斜めにしている。


「うぬぬぬぬ」


 唸り声を上げているさまを見て、なぜ地面に置かなかったのだろうと疑問に思いつつ、私は手伝おうと立ち上がった。


「あっ!」


 その直後、箱が倒れ、中身が辺りに散乱する。しかし、何事もなかったかのように、カナは額にあった奇妙な眼鏡を装着し、落ちている手袋を手に取って嵌めた。呆然としている私をよそに、カナは湯呑のような容器と小さな金属の塊を順番に拾い上げている。そして、小さな金属の塊を容器に入れ、両手で持ち、嬉しそうに告げた。


「さてさて、お立合い」


 程なく、容器の中がほんのり赤く発光し始める。


「そろそろかな」


 そう呟いた後、カナは床に落ちていた型まで歩いて行き、両手で持っていた容器を傾けた。すると、ドロドロとした真っ赤な液体が、型に流れ込んでいく。


「ふんふんふーん」


 続いて鼻歌を歌いながら、落ちている火造り箸を拾い上げる。しばらくしてから、流した液体を軽く叩いたところ、カンカンと甲高い金属音が教室に響いた。


「こんなもんかな」


 そう言って火造り箸でそれを掴み、何かを探すようにキョロキョロ辺りを見回している。すぐに先ほどの上級生が、大きな容器を指差し、声をかけた。


「カナちゃん、あそこですよ」

「えへへ」


 カナは照れ笑いしつつ、そこに歩いて行き、掴んでいるものを突っ込む。すぐさま、じゅおおおおおっという音と共に、白い蒸気が一気に立ち昇った。


「ジャジャーン」


 そして、効果音を口ずさみ、満面の笑みで取り出した物を掲げる。私の目に映ったのは、板状になった一枚の薄い金属であった。


「こんな感じだよ」


 その言葉を聞いた生徒の一人が、カナに問いかける。


「それ、ごく普通の鍛冶屋でもできるんじゃないですか?」


 予想外の一言であったのか、カナはぷうっと口を膨らませていた。どうやら拗ねているようである。しかし、ここで先ほどの上級生が口を挟んだ。


「できるけど、燃料を運搬したり、炉の準備に手間と時間がかかるでしょ?」

「それはそうですね」


 その生徒の返答に、先ほどの上級生は説明を続ける。


「この技術があれば、材料となる金属だけ運搬すれば、製造できるからね」


 ここでカナに目をやると、満足そうに笑顔で、うんうんと頷いていた。


「もう一つ言うと、魔導鍛冶の利点は、魔法の力で高温を生み出し、普通の鍛冶では扱えない素材も加工できるんだ」


 言い終わったところで、先ほどの上級生はカナを見て話しかける。


「これって、カナちゃんが説明するんじゃないかと思うんですけど?」

「イツキくんは意地悪です」


 そう言ったカナは、先ほどぶちまけた物から、先が細く筒状になっている工具を素早く拾い上げ、先ほどの上級生の顔に向けた。


「そんな悪い子には、お仕置きしちゃいまーす」


 先端から風が吹き、イツキの髪がなびく。


「あはははは」


 笑い声を上げるカナに目もくれず、イツキはすぐに吹き出し口を手で押さえる。そして、静かな声で告げた。


「工具で遊ばないでください」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は五月二十二日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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