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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
二章、授業編

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第28話、大変だ、貴族はびこるゆとり校、10

 木曜日の授業は月曜日と同じく、武術科と魔術科であった。しかし、この二つはすでに受講しないと決めている。それゆえ、ミナと朝食を取った後、自室で昨日出席した医療健康科の復習をすることにした。


 昼時に再び一緒に食堂で食事を取り、授業に向かうミナを見送る。しばらくしてからセイジに話を聞くため、寮を出て学園に足を運んだ。


「すみません、セイジ先生はいらっしゃいますか?」

「あいにく、席を外しておられます」


 職員室で尋ねたところ、不在であった。当てが外れ、ひとまず寮へ戻る。そして、魔術科の授業が終わる少し前に、ミナの様子を見に再び学園へ向かったところ、前回に引き続き、またグラウンドを走っていた。


「全員止め! 今日はここまでだ」


 ジュジュの声を聞いて、へたり込むミナの元へ歩み寄り、言葉をかける。


「ミナ、おつかれ。肩、貸そうか?」

「ありがとう、アカリ」


 前回同様、ソウナの後ろ姿を見守りつつ、私たちは帰路についた。その後、部屋へ戻る前に警備員に声をかけ、マッサージをお願いしてからミナを送り届ける。


「また明日は筋肉痛で大変だろうな……」


 そう呟き、先ほどの復習の続きを始めた。




 次の日、金曜日の授業は火曜日と同じく、魔導武術科と貴族養成科である。


 貴族養成科は論外として、ブーツの扱いも自分で学べたことから、魔導武術科も受講せずとも大丈夫と判断した。よって、今日も時間に余裕がある。


 昨日はセイジが不在であり、精霊の話を聞くことはできなかったため、今日こそはと思っていた。とはいえ、昨日と同じ時間に出向くと、二限の貴族養成科の受講生たちと鉢合わせてしまう可能性がある。


 と言う訳で、本日は午前中に職員室へ伺うことにした。しかし、ミナの様子が気になる。したがって、出かける前に部屋を訪れることにした。


「ミナ、大丈夫?」


 ドアを開けて声をかける。すると、今日は返事が返ってきた。


「いてててて、おはよう、アカリ」

「ミナ、朝ごはんは?」

「まだだよ」

「じゃ、取ってくるよ」

「ありがとう」


 筋肉痛でダウンしているミナに朝食を届けた後、学園に足を運び、職員室で尋ねる。


「すみません、セイジ先生はいらっしゃいますか?」

「席を外しておられます」


 またもや不在であった。肩を落とし、寮へ戻る途中、ふと窓から見えた建物に目が留まる。


「そうだ! 王立図書館で調べよう」


 早めの昼食を済ませ、人目につかぬよう裏道から向かう。そして、受付で許可証を提示して入館し、精霊について書かれた本を探していたところ、声をかけられた。


「何かお探しですか?」

「ちょっと、精霊について調べたい事が……」


 そう言いながら振り返る。すると、シエンが立っていた。顎に手を当て、ため息をつく姿を目にして、私はすぐに言い返す。


「違います! 変なことはしていません! 精霊育成科の授業を聞いて、先生に質問があり探していたのですが、見つからないのでここで調べようと思ってるだけです」


 焦りつつ、胸元で両手を小さく振り、シエンに答える。


「そういうことでしたら……」


 そう告げたシエンは、おもむろに奥の方へ指を差した。


 そこに目を凝らした私は、暗闇の一角にうっすら光る不自然な場所が見えたため、気になり近づいてみる。なんと、セイジが机に突っ伏していた。


「寝てるじゃないですか」


 起こさぬよう、小さな声で突っ込む。


「多くの精霊と契約すると、魔力をかなり消費しますからね。疲れているのでしょう」


 そのように答えたシエンに、疑問をぶつけてみる。


「担当している学科でも寝てますが、よく学園を首になりませんね」

「セイジ殿は、私が口説いて学園の講師になっていただいたのです」


 そう言われたものの、教育できない時点で失格であろうと思う。とはいえ、そう口にするのは恐ろしすぎて無理であった。とりあえず相槌を打ち、話を続ける。


「へー、そうなんですね」


「学長に就任してから、ここの講師を入れ替えしていますので」


 その言葉を聞き、少し持ち上げるため、お世辞を言ってみた。


「意外に学長として、仕事なされているのですね」

「私を何だと思っているのですか!」


 やばい、また地雷を踏んでしまったようである。


「その……」


 うまい言葉を探していたところ、先にシエンが語り出す。


「聞くところによると、この学園は、製造特区の領主であるイーサンが、全額資金を提供して設立されたものだそうです」


 製造特区の領主と聞いて、あの出来事とソウナのことが脳裏をよぎった。


「開校前に教育特区の領主であるシドウ様に権限が委譲され、ひょんなことから私が学長に就任しましたが、その時は貴族の子弟が交流するだけのくだらないところでしてね……」


 そしてこの話を聞き、学園に貴族養成科という奇妙な学科がある理由が分かった気がした。


「成り行きで領主となられたシドウ様では、ここの構造を変えるには難しかったのでしょう。時間も、人材のあてもなかったでしょうから」


 このタイミングで、先ほどの失点を取り返すべく、私は言葉を挟む。


「シエン様は、良く改革できましたね」

「領主という権力があっても、国を守れる力が在る者には勝てませんよ」


 やはり特級冒険者まで上り詰めた才能には、並の人間では敵わないということらしい。


「ですから、アカリ様も、早く力をつけていただいて……」

「えっ!」


 この会話から、またしてもその流れに持っていくシエンに焦りながら、当たり障りのない言葉を選び、返事をする。


「ど、努力いたします」


 そう言い、軽く頭を下げた後、話題を変えた。


「それにしても、セイジ先生、全然起きませんね……」


 割と長い時間シエンと話していた気がする。しかし、動く気配は一向にない。


「そうですね……」

「出直してまいります。本日はありがとうございました」


 会話をうまく切り上げられたこのチャンスを活かし、シエンの返事を聞く前に、逃げるように図書館を後にした。




 来たときと同じように、裏道から寮へ戻る際、歩きながらふと口にする。


「しばらく図書館には近づかないでおこうっと」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は五月十九日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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