第25話、大変だ、貴族はびこるゆとり校、7
「はい、ございますが」
女性警備員の言葉を聞いて、話を続ける。
「少ししてからお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」
「では、伺うよう手配いたします」
「私ではなく、友人なのですが」
「では、名前をお教え願いますか」
「ミナです」
「承知いたしました」
「よろしくお願いします」
礼を述べた後、軽くお辞儀をし、食堂へ向かう。そして、厨房の中にいる料理人に声をかけた。
「すみません。すぐに作れて、部屋に持ち帰れる料理が欲しいのですが」
「あいよ」
四、五分ほど待ったところで、ロールパンに具材を挟んだシンプルなものに加え、ティーセットが出てくる。
「ありがとうございます」
何て気が利く料理人であろうと感心しつつ礼を述べ、それを受け取り、ミナの部屋へと急いで戻った。
「ミナ、お待たせ」
「おかえり、アカリ」
テーブルの上に置き、ティーカップに飲み物を注いでから、食べ物と一緒にベッドに運び声をかける。
「はい、どうぞ」
「わあ、ありがとう」
嬉しそうなミナの姿を見た後、ゆっくりとイスに腰を下ろし、お茶を飲む。そして少し経ってから話しかけた。
「ミナ、足りなかったら言ってね。また取りに行くから」
「うん」
普通に食事を取っている様子から、体調面は悪くないようである。しばらくして、ドアをノックする音が響いた。
「あっ、きたきた」
私の弾む声とは裏腹に、ミナは不思議そうに尋ねる。
「えっ、何?」
ドアを開けると、腕にバスタオルをかけ、手に様々な道具が入った桶を持ったメイドが立っていた。
「ご依頼で伺いました」
「よろしくお願いします」
私がそう言った後、メイドは手際よくミナがいるベッドにバスタオルを敷き、準備を始める。
「何が始まるの?」
ミナの不安げな声を聞き、笑顔で答えた。
「痛み軽減のマッサージだよ」
「それでは、始めさせていただきます」
メイドがそう言い、施術が始まったものの、撫でている感じで効果のほどが不明である。気になり、恐る恐る尋ねてみた。
「ミナ、どう?」
「ちょっと痛いけど、気持ちいい……」
「よかった」
ほっと胸を撫で下ろし、安心する。しかし、今更ながらこの寮のサービスは凄い。
「私、午後の授業の準備があるから、もう行くね」
「ありがとう、アカリ」
「じゃーね、ミナ」
小さく手を振り、部屋を後にして、食堂へ向かった。
食事を終えた私は、学園へ足を進める。そして、校舎に立ち入り、玄関で靴を履き替えた後、ふと悩む。
「えっと、教室どこだろう……」
そういえば、この学園に来て、校舎に入るのは初めてである。とりあえず階段まで足を進めたところ、そこに案内板が設置されていた。目をやると、一階は食堂、ロッカー室、シャワー室、更衣室となっており、二階に三つの教室と保健室がある。そして、三階に学長室と職員室が設けられていた。
階段を上がって二階の教室に到着した私は、全体を見渡せるよう静かに一番後ろの席に腰を下ろす。
「ん?」
少し前の席に、見慣れた人物が座っていた。ソウナである。しかし、この授業は、貴族しか受講できない。
中央行政区以外の在住者しか入ることができない寮に入居し、女性でありながら髪は短く、武術に魔術に魔導武術と、全ての戦闘系の学科に出席している。それゆえ平民に違いないと思い込んでいた。
「うーん」
知らずにここにいる。その可能性も、完全に否定できない。とはいえ、あまり親しいわけでもなく、声もかけづらかった。
間違えていても講師が指摘するであろうと、戸惑いつつも、とりあえずいつものように教室にいる出席者を数えることにする。机が横に六列、縦に七列並び、空席が二つ。計算したところ、私を含めて四十人となっていた。
「多いな……」
騒がしい中、目立たぬよう息を潜めてじっと待つ。そして、始業の鐘が鳴り響いた瞬間、教室のドアが開き、執事らしき男性を先頭にメイドたちが列をなし、お菓子や飲み物を持って現れた。
「へ?」
不思議な光景を目にして、意味が分からず困惑する。
メイドたちが教室の前方で整列した後、執事らしき男性が教壇へと歩み出て、話しを始めた。
「貴族養成科は、貴族のご子息、ご息女たちが親睦を深める為の場でございます。本日は新しく入られた受講生を含め、全員の自己紹介を行い、交流を深めていただきたいと考えております」
執事らしき男性は言い終わると同時に、パンパンと手を叩く。その合図で整列していたメイドたちが動き出し、飲み物とお菓子を順番に運び始める。
私の机にそれらが置かれた頃、再び執事らしき男性の声が聞こえてきた。
「まずは、新入生の皆様、自己紹介をお願いできますでしょうか」
その言葉で、一人のメイドが私に近づき、教壇へと促す。とはいえ、注目を集めるなどまっびらごめんである。
「ちょっと無理です」
胸の前で掌を小さく振り、そう言って拒否する姿勢を示した。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は五月十日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




