第24話、大変だ、貴族はびこるゆとり校、6
火曜日の一限は魔導武術科である。昨日と同じく、一緒に見学するためミナの部屋を訪れると、昨日の授業で疲れていたのか寝ていた。起こすのも悪いので、一人寂しく学園に向かう。
十時前にテラス席に腰を下ろし、まずはグランドに集まる出席者を数える。
「にい、しい、ろく、はち」
合計十八人。その集団にまたもや紅一点、昨日に続きソウナの姿があった。感心するともに、最終的に何を目指しているのかやや気になる。
「頑張るなぁ……」
呟いた後、程なく始業の鐘が鳴り、優しそうな声が耳に届く。
「魔導武術指南のダンだ。上級生は打ち込み、新入生は集まってくれ」
その声に五人が集まった。しかし、戦闘系を教える講師にしては珍しく、落ち着いた語り口である。ダンはブーツを片手に持ち、身振り手振りを交えつつ、何かを伝えていた。続いてブーツを装備し、魔石を発動させ、右、左、前、後とステップする。手本を見せ、扱い方を教えているようであった。
そして、説明が終わったのか、全員にブーツを手渡し、告げる。
「最初は右、左、右、左、では、始め」
ダンがパンと手を叩き、合図して間もなく、生徒の一人が目に留まった。
「うわあああっ」
悲鳴を上げながら、明後日の方向に飛んでいき、派手にこけた。初めて扱うのか、うまく作動せず、立ち尽くす生徒も見受けられる。
「最初はそうだよね」
懐かしさを覚えながら眺めていたところ、普通に使いこなし、華麗なステップをみせている者たちがいた。先日の武術科の授業で、目を見張る動きを見せていたカウラとカイである。ソウナは、一回一回確かめるようなぎこちない動きとはいえ、扱えている様子であった。
すると、ダンがすぐに、うまく扱えない者のもとへ歩み寄る。そして、しばらく話した後、二人は練習を再開する。アドバイスが効いたのであろうか、遅いながらも慎重にステップをしており、見ていてハラハラするようなことは、とりあえずなくなった。しかし、しばらくして、中腰になり、動かなくなる。
「あっ、魔力の使い過ぎかな……」
ダンが腰のあたりで掌を上下させ座るように促し、上級生の方へ指差す。それを見て、私もそちらへ目を移した。そこでは、武器を素早く振り回したり、切っ先に魔法をまとわせていた。
「へー」
武器の速度を上げることは、冒険者登録の際、付き添ってくれたジンが魔物を討伐した時に見ていたこともあって知っていたものの、属性の効果を持たせられるのは初耳である。これは、依頼でかなり使えるのではなかろうか。
とはいえ、こういう魔石の使い方もあるのかと、いい勉強になった。
「少し休憩しよう」
ミナのことが気になっていた私は、ダンのその言葉を聞き、学園を後にする。
寮に戻ってすぐ、ミナの部屋を訪ねた。そして、ドアをノックし、そっと開けて、声をかける。
「ミナ、起きてる?」
「あ、アカリ」
「ちょっと早いけど、お昼ご飯食べに行く?」
「お腹空いてないから、後にする」
ベッドに横になっているミナがそう言った瞬間、グーとお腹が鳴る音が聞こえた。
「ん、今の音は?」
「き、気のせいだよ」
「気のせいかー」
返答しつつ、あまりの不自然さに頭を働かせ考える。
先日までの様子から、ダイエットしている感じはない。しかし、朝も寝ていたこともあり、体調が悪いのを隠しているのかもしれないと、私の中で疑念が湧き上がる。
「ミナ、ちょっとこっち来て」
しぐさで何か分かるかもしれない。そう考え、呼びよせてみた。
「えっ、何で?」
拒絶する言葉を聞き、少し強い口調で促してみる。
「いいから早く」
「いたたたたっ……」
小さな悲鳴を上げつつミナはベッドから起き上がった。足に目をやると、生まれたての小鹿のようにプルプルしている。
「なんだ、そういうことね」
筋肉痛で動けなかっただけであった。とはいえ、あの状態では、階段を上り下りするのは大変そうである。
「何か食べるもの貰ってきて、ここで食べよっか」
そう提案した時、ふと気づいた。
「もしかしてミナ、昨日の夜から何も食べてないとか?」
「へへへ」
笑ってごまかされた。言ってくれれば食事くらい運んでくる。つまらない気を遣わなくてもいいのにと、少し悲しい気持ちになった。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
部屋を出ようとした時、ミナに礼を述べられる。
「ありがとう、アカリ」
「昨日、お茶を取ってきてくれたから、おあいこだよ」
そう言ってミナの部屋を後にし、食堂へ向かう。その途中、玄関前の警備室を見て、ふと思いつき、尋ねてみた。
「すみません。こちらにマッサージのサービスはありますか?」
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は五月七日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




