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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
二章、授業編

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第22話、大変だ、貴族はびこるゆとり校、4


「う~ん」


 ふっかふかのベッドからゆっくりと起き上がり、大きく伸びをする。


 しかし、巨大なカエルに食べられたネズミに似た生物の姿が頭から離れず、気分がすぐれない。そして身体の周りを、ゆっくりと飛び回っている精霊たちも、どんよりしているように見えた。


「精霊さん、おはよう。明るくいこうね!」


 いつものように声をかけ、胸のあたりで両手を合わせる。精霊たちが手の中に姿を消した後、大きな置時計に目をやると、時刻は午前八時であった。


 すっきりしないとはいえ、学園の授業は今日からである。最初の一週間は、のちのち受講するかどうかは別として、全ての科目に顔を出すつもりであった。


 パジャマから学生服に着替え、髪を丁寧にとかし、身支度を整えると、ミナと一緒に朝食を取るため、部屋を訪れてドアをノックする。


「おはよう、アカリ」


 ドアから顔を出して返事をしたミナの服装は、学生服ではなく運動着。そういえば以前、魔術科を受講すると言っていた。


「ミナ、朝ご飯食べに行こっか?」

「うん、行こう」


 一緒に向かった食堂には、またもやテーブルいっぱいに並んだ料理を、美味しそうに食べているマキがいた。


「おはようございます」


 相変わらずすごい食欲だなと横目で見つつ、挨拶を交わし、席につく。そして私たちは、レモンティーとサンドイッチを注文した。


 食事を終えた後、雑談している際に、提案する。


「ミナ、一限の武術科を見学しに行くけど、一緒に行かない?」

「いいよ、アカリ」


 ミナは二つ返事で快く答えてくれた。


「じゃ、また後でね」

「うん、後でね」


 一度部屋へ戻り、支度を整え、十時前に寮を出る。そして、裏門から校内へ立ち入り、玄関付近でグラウンド全体を見学しやすい場所を探した。すると、右側の校舎近くに、テーブルセットが並んだ一角が目に留まる。


「あそこのテラス席で見学しよっか」


 ミナに声をかけた後、頷く姿を見て、そこへ一緒に足を進めた。


 イスに腰を下ろし、グラウンドに目を向けたところ、集まっている生徒は六人。確かに講師のマキが言っていた通り出席者は少ない。その中に紅一点、同じ寮に住むソウナがいた。


 この授業に出席しているということは、魔力がないのであろうか。


「うーん」


 下を向いて考えていた私は、始業の鐘が聞こえたことで、グラウンドに目を戻す。すると、いつの間にかそこにマキがいた。


「武術指南のマキだ。よろしく」


 整列した生徒たちに、マキが声をかける。


「よろしくお願いします」


 すぐに生徒たちの元気な声が聞こえてきた。


「新入生集合、上級生は素振りだ」


 そう告げたマキのもとに、三人が駆け寄る。そして、何やら話をしている様子。


「おお、カウラは剣と弓で、カイは槍か」


 声を上げたマキに二人は持参してきた武器を掲げて、頷いていた。


 その後、マキは細身のロングソードを片手で数回振り、横で一人立ち尽くしているソウナに声をかける。


「ソウナ、とりあえずこれどうだ?」


 接した感覚ではマキは大雑把な性格だと思っていた。しかし、今の流れからみると生徒の希望を聞いたり、扱う武器がないソウナに見繕うなど、細かく指導しているようである。


 さすが王立学園の講師を務めるだけのことはあると感心していたところ、ツンツンとミナに突かれ、顔を向けた。


「あの人たち、なんか凄いね」


 そう言ってミナが胸の前でかわいく指を差す。目をやると、先ほどのカウラとカイの二人が素振りをしていた。


 身体の軸がしっかりしており、素人の私が見ても、キレが良いと分かる。


「あれ?」


 既視感があると思ったら、試験の時に見た槍の人ではないだろうか。見入っていたところ、パンパンと手拍子が聞こえた。


「十五分休憩しよう」


 マキがそう告げた時、ミナがおもむろに席を立つ。


「アカリ、何か飲み物持ってこようか?」


 そう問いかけるミナに応える。


「ありがとう」

「何がいい?」

「えっと……」


 そう尋ねられても、何があるのか分からず返答に困る。そして、無難な回答をした。


「お茶でいいよ」

「分かった、行ってくるね」


 ミナが飲み物を取りに行ってる間、マキに目を向ける。すると、休憩中にもかかわらず、ソウナの元に行き、話しをしていた。


「マキさん、面倒見が良いな」


 そんなことを思いつつ、眺めていたところ、グラスを手にミナが戻ってくる。


「お待たせ、アカリ」

「ミナ、ありがとう」


 お茶を飲み、のどを潤していた時、再度パンパンと手拍子が聞こえてきた。


「よし、実戦するか。上級生二人、カウラとカイでペア、シロウとソウナは二人掛かりで俺とやろう」


 マキがそう言った後、生徒たちは武器に持ち替え、打ち合い始める。


「ええっ、初日から……」


 そう驚く私をよそにマキが突然声を上げた。


「ほらほら、一本取れたらメシおごってやるぞ」


 片手で攻撃を軽々といなしつつ、マキはシロウとソウナを焚きつけている。しかし、学園や寮の食堂は元々無料であった。


「凄い……」


 ミナの呟く声を聞き、カウラとカイの方へ目をやる。すると、決闘をしているかのごとく、壮絶な打ち合いを繰り広げていた。


 それをミナは祈るように両手を胸の前で組み、瞬きもせず凝視している。


「ほらほら、へばってるぞ」


 しばらくして、マキの言葉が聞こえてきた。


 肩を叩くかのように武器を持ち、仁王立ちしているマキ。その眼前で、シロウとソウナが中腰で身構えている。とはいえ、二人とも両肩が上下しており、苦しそうだ。


「お前らの底力を見せてみろ!」


 気合を入れるかのようにマキが大声を上げたところ、二人は叫びつつ打ちこんだ。


「うおおおおっ」

「やああああっ」


 その一撃はマキの肩付近に命中し、同時に終業の鐘が鳴った。


「やるじゃねーか!」


 歓声を上げるマキを見ながら思う。なんとなくだけど、あれは二人に一本取らせるように仕向けたのだと。


 その後、マキは二人の頭に手をポンと置き、グラウンド全体に響き渡るような大きな声で叫ぶ。


「よし、今日はここまで。片づけてメシ行くぞ!」


 それを聞き、私とミナは席を立ち、昼食を取るため、寮へ戻った。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は五月一日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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