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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
二章、授業編

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第21話、大変だ、貴族はびこるゆとり校、3


「うわあああっ!」


 とっさに身をかわし、距離を取って体勢を整えてから目を凝らすものの、舞い上がった土埃により、視界が遮られ、何も見えない。


 すると、目の前に何かが飛んできた。反射的に上体を反らし、直撃は避けたものの、かすった衝撃で仮面が吹き飛んだ。


「やばい!」


 これは、ひとまず逃げたほうが良いかもしれない。そう思った瞬間、何かが足にくにゅっと絡みつき、よろめきそうになる。


「えっ、なに……」


 徐々に土埃が収まるにつれ、視野が開けてきた私の目に飛び込んできたのは、口から長い舌を伸ばしている巨大なカエルであった。想像を絶する光景を見て、自然と声が出る。


「うそ……」


 呟いた次の瞬間、勢いよく舌に引っ張られ、宙に舞う。そして、思わず大きな悲鳴を上げてしまった。


「きゃあああああっ!」


 巨大なカエルは、目を見開き、大きく口を開け、食べようとしている。


 私がおいしいのかはさておき、このままではまずい。口に入りかける直前、全力でブーツの魔石に魔力を込める。すると、強風が巻き起こると共に、ブチッという音が聞こえた。


「いったたたたっ!」


 反動でうつ伏せに倒れた私は、慌てて上体を起こし、違和感のあった足に目をやる。そこには、千切れた舌が絡みついていた。慌てて取り外し、投げ捨てた後、巨大なカエルがいた場所を見る。血だまりがあるだけで、そこに姿はない。


「逃げた?」


 そう思いきや、周囲に影が差したことに気づく。上空に目を向けたところ、大きな手が視界に入った。


「しつこい!」


 その一撃を転がりつつ、必死にかわす。しかし、次の瞬間、反対の手に捉えられ、吹き飛ばされてしまう。


「うぐっ!」


 変な声が出ると共に、木に叩きつけられそうになった私は、瞬時にブーツの魔石を巧みに使い、辛うじて回避する。


 不幸中の幸いか、うまく巨大なカエルとの距離を大きく取ることができた。


 これで、やっと一息つける。そう思ったのも束の間、その場所には運悪く植物型の魔物の蔓があった。


「もう、一体なんなのよ!」


 叫びながら、素早く本体の位置を特定しつつ、魔法を放って排除する。しかし、その隙を突かれ、巨大なカエルは猛スピードでこちらに向かって跳んできた。


 それを木を利用した三角飛びで攻撃をかわし、ブーツの魔石に魔力を込め、上空へ飛び上がる。そして、体勢を上下逆転させ、逆さまの状態になると、頭の中で素早く術式を切り替えながら、緑色の精霊を顕現させた。


 かざした左手に右手を添え、魔力を全力で供給する。


「単式魔法陣、風」


 精霊が光り輝き、森林をまばゆく照らすと、普段よりも大きな三日月状の魔法弾が放たれ、巨大なカエルに直撃した。


 噴き出す鮮血を浴びながら、転がるように着地した私は、急いで起き上がる。


「いてててっ」


 渾身の力で打ち出した一撃は、巨大なカエルを真っ二つに切り裂いていた。


 音を立てて崩れ落ちた後、近づいたところ、断面から数匹のネズミに似た生物の死骸が目に留まる。


「うわあ……」


 こいつに食べられてしまったから前回より数が減っていたのだ。しかし、非常に気持ち悪いものを見てしまった。


 気を落ち着かせるべく、深呼吸を繰り返す。そして、身体を休めるため、その場にへたり込む。


「ふーっ」


 自分の姿を見ると、ローブは返り血が滴り落ち、真っ赤になっていた。しばらくして立ち上がり、投げ捨てた巨大なカエルの舌を探し、拾い上げる。先端がナイフのように鋭く尖っており、非常に危険な代物であった。


 その後、吹き飛ばされた仮面を探し出し、手に取って見る。接触面が大きくえぐれ、深い傷跡が残っていた。これは避けられずに直撃していたら、死んでいたかもしれない。今更ながら、身体の震えが止まらなくなった。


 冒険者組合の宿に泊まり、明日も依頼を受けようと思っていた。しかし、怪我をしてしまうと、月曜日からの授業に支障が出てしまう。そう思い、今日中に寮に戻ることにした。


 予定が狂い、土日は暇になる。とはいえ、孤児院へ向かう気力は、もう残っていなかった。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は四月二十八日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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