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第2話、明日試験、急いで帰ろう屋敷まで、2

作者からのお断り。

構想は定まっていますが、執筆速度が激遅ゆえ、完結まで相当時間が掛かります。

興味のある方は作品をフォローして、気長にお待ちください。<(_ _)>

 馬車から降り、「冒険者組合」と館銘板が掲げられた建物を見上げながら、大きく伸びをして静かに呟く。


「ふぅ、やっと着いた」


 石造りで頑丈に建てられた建物の前面には、季節の花々が咲き誇る花壇が設けられていた。扉に近づくにつれ、春の息吹を感じさせるような甘い香りが漂ってくる。


 分厚い鉄製の扉を開け、屋内へ足を踏み入れると、いつものようにたばことアルコールの嫌な匂いが鼻を突いた。


 屋内の所々に置かれている観葉植物を哀れに思いながら、むせ返るような空間の元、右手の壁にある掲示板へと向かう。そして、貼り出されている依頼書に目をやる。


 素材集めを含む魔物退治の依頼が大部分を占めている中、このような変わったものも貼り出されていた。


 強い魔族の生息場所についての情報の報酬が、「世界の治安向上」と書かれている。この依頼は、私が冒険者として登録したときから、ずっと掲載されていた。


 いつになればなくなるのか、興味は尽きない。しかし、これを受諾する者が果たしているのだろうか。


 私は一枚の依頼書を、迷うことなく剥がし手に取る。そして、正面の大きなカウンターに歩み寄り、そこにいる受付嬢に冒険者証と一緒に無言で手渡す。


「いつもありがとうございます。少々お待ちください」


 受付嬢は、可愛らしい声と明るい笑顔で応えた。その後、前かがみになりながら依頼の内容を確認し、慣れた手つきで迅速に手続きを進めていく。


 ぱっちりとした大きな瞳に、肩まである黒い髪をツインテールで纏め、ふっくらと柔らかなラインが美しい受付嬢は、その美貌と親切な対応から、冒険者の間で絶大な人気を集めていた。


 処理が終わるのを待つ間、わずかに視線を下げる。シャツの隙間から見えた対照的な二人の差に、思わずため息が出た。


 それ気づいたのか、受付嬢はちらっと顔を上げる。


 私と目が合った瞬間、カウンター越しにゆっくりと身を乗り出すように顔を近づけ、耳元で囁く。


「大丈夫、そのうち大きくなりますよ~」


 そう言い終わると姿勢を正し、首を傾けて微笑んだ。そして、再び前かがみになりながら書類に向き合っていた。


 受付嬢には冒険者の登録をした際に、しっかりと顔を見られている。それゆえ、正体を知られていた。


 仮面の下の顔は、焦りと恥ずかしさで湯気が出そうなほど熱い。きっと真っ赤になっているに違いない。


「はい、処理が終わりました」


 その言葉を聞き、動揺する気持ちを抑えながら、軽く会釈をし、冒険者証を受け取った。


 今回の依頼も、植物型の魔物の討伐である。報酬は悪くないと思いつつ、掲示板にいつもこの依頼が貼り出されているところを見ると、あまり人気がないらしい。


 近づく者を先の鋭い蔓で襲って体液を吸い尽くすこの魔物は、頭部にある花を切り落とすと簡単に倒せる。しかし、死の間際に意識を刈り取るような強烈な悲鳴を上げるという特性を持っていた。


 難儀なことに、その声を聞きつけ、近くの植物型の魔物が蔓を伸ばしてくるという性質もあった。厄介なやつではあるものの、私は率先してこの依頼を受けている。


 冒険者登録をした際に初めて討伐した魔物ということに加え、王都からほど近い場所に存在しているからである。


 建物を後にし、冒険者組合が用意した馬車に乗り込む。そして、揺られることおよそ三十分。馬車は巨大な外壁に設けられた門の手前に到着した。


 御者に軽くお辞儀をし、馬車から降り立つ。


 外壁は魔物の侵入を防ぐべく、外側に丸太、内側にセメントの二重構造で頑丈に造られており、北東の国防特区の端から南東の製造特区の端まで、数十キロにわたり築かれていた。


 ここには王国騎士団員が常駐し、彼らの監視の下、厳重な警戒体制が敷かれている。


 初めて外壁を目にした時には、不覚にも感動のあまりはしゃいでしまった。しかし、半年もの間頻繁に見ていると、そうでもなくなった。


「おっ、ご苦労さん」

「今日も頑張れよ!」

「気をつけてな」


 門に向かう途中で、すれ違う王国騎士団員たちに声をかけられる。このところ頻繁に通っているせいか、覚えられたのかもしれない。


 視認性が悪くなる仮面をつけている者は珍しい。そして、ガントレットはローブに隠れるものの、ピンクのブーツはやはり目立ってしまう。


 声で正体がばれるのを警戒して、一言も話さずに素通りしていた。しかし、今のところ不都合な事態は起こっていない。


 境界に着き、そこに立つ門番に歩み寄る。そして、首にかけていた鉄色の「四級冒険者アカリ」と刻まれている冒険者証を提示した。


 この先は魔物が出没する危険な地域のため、一般人の通行は制限されており、許可を得た者だけが通ることができた。


「どうぞお通りください」


 その声に導かれるように門をくぐる。そこには広大な草原が広がっていた。しかし、約二十年前はこの付近も大森林の一部であったらしい。


 接近する魔物を早期に発見するため、七英雄の一人である魔導士フクシュンが、大規模な伐採を行ったと本に記されてあった。


 外壁の外側が丸太になっている理由は、その木を再利用し、築いたからである。


「よし、今日も頑張るぞ!」


 静かに呟き、私は道を歩き始めた。

ご拝読ありがとうございます。

視力が悪く文字を拡大して執筆しているため、改行が多く読みにくいかもしれません。

誤字脱字には気をつけておりますが、お気づきの点がありましたら連絡いただけると幸いです。


主人公の前日譚もあります。

https://ncode.syosetu.com/n3734jx/


カクヨムでも同一名義で連載しております。

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