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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
二章、授業編

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19/69

第19話、大変だ、貴族はびこるゆとり校、1


「う~ん」


 ふっかふかのベッドからゆっくりと起き上がり、大きく伸びをした。

 四月某日、今日は王立学園の入学式である。


 身体の周りをゆっくりと飛び回っている精霊たちも、輝いて見えるような気がした。


「精霊さん、おはよう。なんだか眩しいね!」


 手の中に精霊たちが姿を消した後、大きな置時計に目をやる。時刻は午前八時。


「さてと……」


 ベッドを出て、パジャマを脱ぐと、タンスから真新しい学生服を取り出し、着替えた。身なりを確認するため、壁にある大きな鏡で姿を見たところ、自然と笑みがこぼれる。


「ふふふ」


 純白のブラウスに真紅のチェックのスカート、その下に黒いショートスパッツという出で立ちであった。くるっと回って全身を確認した後、髪を丁寧にとかし、後ろで軽く束ねる。


 そして、朝食を取るため、ミナを誘い食堂へ向かう。そこでは、コーヒーをゆっくり味わっているソウナに加え、テーブルいっぱいに並んだ料理を美味しそうに食べているマキが目に留まった。


「おはようございます」


 朝からすごい食欲だなと思いながら二人に挨拶し、席に着くと、メイドが注文を取りに来た。


「うーん、何にしよっか」


 悩んでいたところ、メイドが勧めてくる。


「焼き立てのパンがございますよ」


 そういえば、食堂中に香ばしく良い匂いが漂っていた。言葉と匂いに釣られ、私とミナはミルクティーとトーストを注文する。そして、ゆっくり朝食を済ませ、私たちはひとまず部屋に戻った。


 ベージュのセーターを着て、純白のブレザーを羽織り、準備を整えた後、ミナの部屋を訪れる。


「そろそろ行こっか」


 そう声をかけ、一緒に入学式の会場へ向かった。場所は王立学園に隣接する王立研究所一階大ホール、歩いてすぐである。会場には大勢の人がいたものの、ミナが一緒だと心強く、なんだか安心できた。


「ここだね」


 ミナと並んで腰を下ろし、始まるのを待っていると定刻になり、挨拶のため学長のシエンが壇上に現れる。


「学長のシエンよりお言葉を賜ります」


 司会者に紹介された瞬間、会場がどよめく。この反応から、やはり特級冒険者は伊達ではないと思わせられる。


「ねぇ、アカリ、なんでみんな騒いでるの?」


 横に座るミナから、質問が飛んできた。


「あの人有名なんだけど、ミナ、知らないの?」


 そう答えたところ、平然とした返事が返ってくる。


「うん、知らない」


 生きる世界が違う場合、こういうことが起こり得るのだと少し勉強になった。


 騒然とする中、壇上にいるシエンは、人差し指を頭に当てながら、下にいる司会者の方へ目をやる。すぐに司会者が叫んだ。


「静粛に願います。静粛に願います」


 その言葉が会場に響き渡り、シーンと静まり返る。すると、シエンは講演台に両手をつき、辺りを見回した後、口を開く。


「新入生諸君の充実した生活を願って式辞といたします」


 この一言述べ、礼もせず、さっさと降壇した。


 入学試験の日に成り行きで学長に就任したと聞いており、やる気がないのかもしれない。


 次に学部長が司会者に紹介され、登壇する。


「学部長のシュニンです。本日はおめでとうございます」


 挨拶もそこそこに、学科の紹介や授業時間など、説明を始めた。


「当園の学科は七つです。武術科、魔術科、魔導武術科、魔導鍛冶科、精霊育成科、医療健康科、貴族養成科となっております。授業は午前十時から十一時半と、午後一時半から三時の一日二回、出席学科は自由です。三年で卒業し、成績不振での退学はありません」


 自主性を尊重していると言えば聞こえがいい。しかし、まさにゆとり教育である。


「以上で説明を終わらせていただきます」


 そう言ってシュニンは、足早に壇上から降りた。


「これを持ちまして、閉式とさせていただきます」


 司会者のその言葉を聞き、入学式に出席する意味はあったのか、そう疑問を抱きつつ、人が減るのを待って席を立つ。寮に戻るべく、ミナと一緒に会場の出口に向かって歩き始めると、そこにジュジュが立っていた。軽く会釈をし、通り過ぎようとしたところ呼び止められる。


「少し話がある」

「えっ」


 もう、嫌な予感しかしない。


「アカリ、私、先に帰るね」


 それを察したのか、ミナはそう言い残し、寮へ戻っていった。


 その姿を見送りながら、小さくため息をつく。そして、ここでは他の人の邪魔になるため、場所を移動し、会場の隅で話をする。


「単刀直入に言う。うちに来ないか?」


 聞いた瞬間、授業への誘いかと思った。しかし、そうではなかった。


「王国魔導団は団員を募集している。貴殿には素質がある。鍛えれば間違いなく戦力となる」


 両手を私の肩に置き、熱心に語るジュジュに問いかける。


「王国魔導団ですか?」

「私は魔術指南の講師を務めているが、同時に王国魔導団の団長でもある」


 入学式に軍に勧誘されるとは、思いもよらなかった。


「卒業したらじっくり考えさせていただきます」


 傷つけないよう、やんわりと断りを入れる。


「そうか、期待しているぞ」


 肩をポンと叩いて立ち去った後、魔術科は絶対に受講しないと心に誓った。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は四月二十二日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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