第18話、嬉しいな、再会できた親友と、6
「ん? 分かった」
そう返事をしたミナと女性警備員を先に行かせ、私はあとから一段ずつゆっくりと階段を上がる。そして、荷物を運びながら、ふと思った。これほどの重さのものを運べるなら、ミナは入学試験で何キロの重りを持ち上げたのだろうか。
「しかし、重いな……」
階段を全て上り切らないうちに、案内を終えた女性警備員とすれ違い、会釈される。軽くお辞儀を返し、程なくしてようやく二階に到着した。
そして、廊下から部屋の方へ目をやる。すると、ドアの前に立つミナの姿がそこにあった。
部屋を見たミナがどのような反応をするのか気になり、廊下の陰に隠れて様子を見る。しかし、立ち尽くしたまま、ミナは動かない。私はしびれを切らし、歩み寄りながら声をかけた。
「ミナ、お待たせ」
声をかけるものの、目もくれず、ミナはぽつりと答える。
「ねえ、アカリ……ここお掃除大変だね」
口にした言葉に、ちょっと拍子抜けしつつ、返事をした。
「メイドさんがしてくれるから大丈夫だよ、ミナ」
それを聞いたミナが、ようやくこちらを向き、話しかける。
「ほんと? でもなんだか、まだここに住む実感がわかない」
「新しい生活は楽しみだけど、この部屋はちょっと緊張するね」
話を合わせ、ミナの不安を少しでも和らげようと努めた。
さらに気分転換になればと思い、バルコニーに誘う。そして、景色を見ながら昔話などをしていたところ、目の前に一枚の桜の花びらが舞い降りる。それを見て、ふと依頼のことを思い出した。
「ミナ、空を飛んでるものを捕まえる道具ない?」
「網? 虫でも捕まえるの?アカリ」
「それだ! ミナ、えらーい」
「よくわからないけど、ありがとう」
おまけに、気分転換にちょうどよいアイデアも浮かぶ。
「ミナ、街の探索ついでに買い物へ行かない?」
「いいよ、私もこの辺りは初めてだし、いろいろと見てみたい」
その言葉を聞き、支度を整えた後、一緒に街へと繰り出した。
「お腹空いたね」
「そうだね」
昼前、網を手にミナと寮に戻ってくる。すると、玄関前に見慣れない馬車が停まっており、そこから黒髪でショートカットの女性が、荷物を抱えて降りてきた。
耳まで刈り込んだその風貌に憧れを抱きつつ、笑顔で声をかける。
「こんにちは!」
彼女は私たちの方を見て、軽く会釈を返す。
入寮生かな、良い人だと嬉しいな、そう思いながら、寮へ入ってそのまま食堂へ向かう。そして、ミナとご飯を食べた後、しばらく雑談し、部屋に戻った。
夜になり、夕食をミナと一緒に取る。食後、部屋に戻ると、程なくしてドアをノックする音が聞こえた。
「アカリ、お風呂行こ」
着替えを手に持ち、ミナが誘いに来た。一階に大浴場があることは当然知っていたものの、ここにきてからはずっと人目につかない部屋の浴室を使用していた。しかし、寮生も少なく、せっかく誘ってくれたということもある。今日は思い切ってそこに行くことにした。
「ちょっと準備するから待ってて」
そう言って、急いでパジャマや下着を桶に突っ込み、支度を済ませ、ドアを開ける。
「ミナ、お待たせ」
大浴場に到着した私たちは、更衣室で服を脱いで、頭にタオルを巻き、バスタオルで前を隠しながら中へ入った。扉を開けたところ、昼に玄関で見た女性が洗髪しており、軽く会釈する。その後、身体を洗い流し、湯船に浸かった。
温まりながら、ちらっと視線を向ける。彼女はとてもスタイルが良く、引き締まった身体をしていた。
「よう!」
ガラガラと扉が開く音と共に、マキがタオルを片手に担ぎ、勢いよく大浴場に入ってくる。羞恥心のかけらもない。あの性格なら、いろいろ悩まずに済むのかなと思ってみたりした。
「ソウナ、お前いい身体してるな」
マキが声をかけると、彼女は無言で軽く会釈する。
ソウナって名前なんだと思いつつ、バッキバキの身体であるマキが変なことをしないか、とても気になった。その心配をよそに、ソウナはさっさと髪をすすぎ、浴室を後にする。
程なく身体を洗ったマキが、勢いよく湯船に飛び込む。そして、大声でなにやら歌い出した。それを聞いたミナがおもむろに尋ねる。
「すみません。それ、何という歌ですか?」
私も聞いたことがない歌であったため、気になった。
「んー、知らん」
マキ自身も知らなかったようである。
数分後、最後まで聞き終えた私たちは、洗髪してから大浴場を出て食堂へ向かうと、仲良く牛乳を飲み、部屋に戻った。
長い髪を乾かしながら、考えを巡らせる。入学後、帽子を被って通学したり授業を受けるのは、さすがに無理であろう。
「どうしようかな……」
ベッドに横になり、良い方法がないか考えているうちに、いつしか眠りに落ちていた。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は四月十九日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




