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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
二章、授業編

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第17話、嬉しいな、再会できた親友と、5

 一瞬、どうしたものか悩んだものの、とりあえず近くに転がっていた小石を拾って、それら目がけて投げつけてみる。しかし、私の取った行動にまったく動じず、何かに取り憑かれたかのように黙々とかじり続けていた。


 この様子を見る限り、危険ではないようである。


 ほっと胸を撫で下ろし、辺りを伺う。すると、ネズミに似た生物の方に伸びてきた蔓が目に留まった。そして、その先にいた植物型の魔物を見つけて、すぐさま魔法を放つ。


「単式魔法陣、風」


 安心したのも束の間、魔法弾が花を切り離し、赤い樹液を撒き散らしながら植物型の魔物が悲鳴を上げたところ、即座に驚くべき速さでネズミに似た生物はそこにも群がる。


「ええっ……」


 他の植物型の魔物がそこに蔓を伸ばしそれらを襲っていた。しかし、皮膚が硬いらしく、全く意に介する様子はない。さらに蔓にまで食らいつき始めた。


 それを目にして、この花を回収するのはもう無理だと判断を下し、諦めて伸びてきた蔓の本体を始末する。ところが、ネズミに似た生物はそこへも湧いてきた。数は優に二十匹を超えている。


 この状態で植物型の魔物を倒しても討伐の証である花を集めることができない。何か手立てはないかと考えているうちにふと、ジュジュが試験官を吹っ飛ばしたあれを思い出した。


「これだ!」


 魔法で花を切り落とすと同時にそのまま空高く舞い上げ、空中で捕えてしまえばいい。渦巻く竜巻をイメージしつつ、頭の中で素早く術式を構築し、魔法を放ってみる。


「ダメだぁ……」


 アイデアは良かったものの、効率が悪すぎた。


 舞い上げた花を掴むため空中に飛び上がり、安全な場所へ降り立つという一連の動作で、魔石を二回使用する。そして、花を掴み損ねてしまえば追加でもう一回。さらに困ったことに、赤い樹液をもろに浴びてしまう。


 いろいろ試してなんだか疲れた。冒険者組合の宿も見学したいこともあり、今日のところは切り上げて帰ることにした。


 花は数えるまでもなく一つしかない。


 こうなるともはや役に立つか分からないと思いつつ、目印の白いハンカチを木に括る。その後、以前の教訓を生かし、魔法で先にローブを綺麗にしてから、報告に向かった。




 冒険者組合に到着し、受付嬢のいるカウンターへ足を進めると、ペンを持つ仕草を見せ、手首を横に振りジェスチャーで書くものを要求する。


「はい、どうぞ」


 あの受付嬢に通じるかやや不安であった。しかし、うまくいった。手渡された紙に「上の宿が見たいのですが」と記し、受付嬢に見せる。


「二階の一番奥ですよ」


 鍵を受け取り、話しかけてきた受付嬢に軽く頭を下げ、階段を上がる。部屋のドアを開けたところ、ベッドとテーブルのみのシンプルな設備であった。


 ベッドに触れると、起きたら身体が悲鳴を上げそうなくらいカッチカチ。ここはやめておいた方が良いかなと思いながら、一階へと降り、受付嬢に鍵を返却する。


「お気に召しましたか?」


 そう尋ねられるものの、首を横に振り、帰路につく。




 次の日の朝、バルコニーで空を眺めながら、花をキャッチする方法を思案していた。


「ありがとうございました」


 その声にふと視線を向ける。いつの間にか玄関前に送迎馬車が停まっており、ミナが大きなトランクケースを両手で抱えて降りてくるのが見えた。


「ミナ、ちょっと待ってて、今そっちに行くから」


 大きく手を振りながら声をかけると、部屋を飛び出し、階段を駆け下りる。そして、ミナの元に着き、持ちにくそうな姿を目にして、思わず告げた。


「ミナ、それ持つよ」

「ありがとう、アカリ」


 返事を聞き、大きなトランクケースを受け取った直後、すぐに後悔した。言った手前、仕方がない。しかし、これは重い、腕が抜けそうである。洋服のみかと思いきや、明らかに違うものも入っているようであった。


「ねぇ、ミナ。これ何入ってるの?」

「鍋とか、お皿とか、いろいろだよ」


 そんなものはここでは使わない。そう思いつつ入寮の手続きをするため、一緒に警備室に向かう。ミナが書類を差し出すと、しばらくして、手続きを終えた女性警備員が告げる。


「では、ご案内いたします」


 その声を耳にして、私はとっさに言葉が出た。


「ミナ、ちょっと先行ってて」

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は四月十六日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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