第16話、嬉しいな、再会できた親友と、4
「う~ん」
ふっかふかのベッドからゆっくりと起き上がり、大きく伸びをした。
そして、部屋を見回し、頬をギュッとつまんで、広々とした高級感あふれるこの部屋が、夢ではないことを確認する。
身体の周りをゆっくりと飛び回っている精霊たちも、なんだか立派に見えた。
「精霊さん、おはよう。ここはすごいね!」
手の中に精霊たちが姿を消した後、大きな置時計に目をやる。時刻は午前七時。
荷解きも終え、早々にすることがなくなってしまった私は、約三週間ぶりに明日冒険者組合へ出向き、依頼をこなそうと決めた。
学生寮から冒険者組合までは直線距離で二十キロある。そのため歩いて行くと片道四時間もかかってしまう。
したがって、本棚に置かれていた一覧表の交通案内図を参考に、最短で到着できる移動手段を探し求めることにした。
しかし、本を開いていきなり問題に直面する。
「あれ、どうしよう……」
不思議なことに、中央行政区内は乗合馬車が運行していない。
ページをめくりさらに詳しく調べてみる。すると、区と区を隔てる壁の上をぐるりと巡り、各区の門の上で乗り降りできる乗り物が設置されていることに気がついた。トロッコという聞き慣れない名前に心を躍らせつつ、さらに調べ上げる。
開拓特区の門からは冒険者組合まで乗合馬車が運行していた。学生寮からはほど近い食料特区の門まで送迎馬車がある。
これらの情報をもとに、それぞれの所要時間を概算してみた。送迎馬車は十五分、トロッコは九十分、乗合馬車は三十分、片道二時間強、往復で五時間弱である。
あっ、冒険者組合から大森林までの移動時間を忘れていた。
移動時間がもったいない、ベッドでゴロゴロ転がりながら考えていると、ふと閃く。屋敷にいた頃は考えられなかった外泊という二文字。ここの規則を見る限り、禁止されていないかもしれない。
昨日の件で少し気まずいものの、確認するため、警備員室に向かう。
「少しお尋ねいたしますが、外泊は禁止されているのでしょうか?」
そう尋ねたところ、女性警備員は答えた。
「帰宅日時を伝えれば問題ありません」
「ありがとうございます」
礼を述べ、部屋へ戻りつつ、考えていると、冒険者組合の二階に宿屋があったことを思い出す。宿泊候補として見ておこうと決めた。
翌日、身支度を整えた私は、装備を詰めたリュックサックを背負って部屋を後にする。そして、警備員室に立ち寄り、帰寮時間を告げて、昨日調べたルートで冒険者組合へと向かった。
送迎馬車に乗り込み、しばらくして食料特区の門に到着すると、少し緊張しつつ門番に尋ねる。
「トロッコはどこで乗れますか?」
その問いに門番は階段を指差しながら答えた。
「こちらから乗車できます」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、階段を駆け上がり、壁の上に出る。すると、目の前に広がっていたのは、内壁の上を二本の棒が果てしなく続く光景であった。
程なくして、その上を奇妙な箱型の乗り物が近づいてきて停止する。素早く乗り込んだところ、十人ほどが座れる座席は空いていた。
「動きます」
その声と共に、制服を着た二人は手に持ったハンドルを交互に上下させる。
ゆっくり動き始めると、早朝のため気温が低いせいもあり、少し肌寒く感じた。しかし、腕を振る二人は汗だくになって、一生懸命に頑張っている。
次の保護特区には乗客がいなかった。トロッコは止まることなく通過し、その次の国防特区に止まる。そこで動かしていた者が交代した。
操作していた人たちは軍人かもしれない。発車したトロッコを敬礼しながら見送っている。私は遠ざかるトロッコからその人たちにお礼の意味を込め、軽く頭を下げた。
開拓特区に到着し、トロッコを降りると、乗合馬車に乗る前に、裏路地でいつもの格好に着替え、冒険者組合へ向かう。そして、例のごとく植物型の魔物の討伐依頼を選び、大森林へと足を運んだ。
いつものように目印の白いハンカチを探し、最後に蔓が伸びてきた方向へ目を凝らす。しかし、姿は見当たらない。
「うーん、困ったな……」
そういえば前回からかなり時間が経過している。別の冒険者が依頼をこなし、討伐されてしまったのかもしれない。
そんなことを考えつつ森の奥へ向かったところ、遠くから植物型の魔物の悲鳴が聞こえてきた。物音を立てぬよう、その方向へ足を進めると、驚くことに一メートルくらいの大きな体を持つ生物が五匹、植物型の魔物に群がっていた。
図鑑で見たネズミに似ている。とはいえ、目の色も赤く、明らかに大きさが異なるため違うであろう。
そして、大森林でこんな生物を見たのは初めてであった。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は四月十四日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




